そねむつ、龍むつ?【追う話 近江屋】

【追う話 池田屋一階編】の続編です。 龍馬を追う陸奥守吉行と、陸奥守を追う長曽祢虎徹の話。 ※歴史改変有り、歴史的人物と刀剣男士が会話をします ※エセ土佐弁注意 続きを読む
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り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL 思いが泡沫のように次々と溢れてくる。 「皆…皆、ずっとお前を探していたのだぞ。出撃部隊も…遠征部隊も……長谷部も、和泉守も…蜂須賀も…」 言いたいことはたくさんあるのに、何故自分はうまく言葉に表せないのだろう、と長曽祢は唇を噛む。 橙の目は瞬き一つしない。

2016-12-03 14:21:07
り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL 「つづないのぅ…」 失踪前の言葉がまた聞こえた気がした。目の前の瞳が揺れている。 「皆を忘れてでも、救いたかったのか…?」 初めて出撃した池田屋で、近藤勇の背中を見た時の胸の痛みをまだ長曽祢は覚えている。自分もまた、定められた未来から元主を救いたかった。

2016-12-03 14:32:51
り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL 「俺だって…会いたかったさ。救いたかったさ…あの時間、近藤さんは必ず池田屋に来るのだから…でもなぁ…」 眥から溢れた一筋が長曽祢の髪を濡らす。 「それでも、許されないんだよ。だから俺はあの人に会えないんだ。 お前のこともそうだ…こんな姿になっても…」

2016-12-03 14:38:59
り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL 「俺はお前を切ることができないんだよ。」 鞘を握る手が少しずつ押されていく。これまでかと思った時であった。 「山田君…?」 聞きなれない声がした途端、打刀の力が緩んだ。滲んだ景色の中、いつの間にか大きな人影がひとつ増えていた。 「何しゆうが…?」

2016-12-03 15:57:15
り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL それは打刀に対し、非難というよりも、どこか諭すような優しい声であった。 その声の主は、陸奥守と同じ郷土の言葉。そして、黒いくせ毛の髪と、真っ黒な着物を身につけた大男だった。黒々とした瞳は子供のようで、どこか陸奥守に似通っている。 坂本 龍馬が目の前にいた。

2016-12-03 16:03:22
り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL 「長曾祢…?」 未だに目を瞬かせる大男の黒い着物の間から聞きなれた声が聞こえた。 「…陸奥守……?」 3年前に失踪した陸奥守が、3年前と変わらない姿で現れた。 しかし着物は摩り切れ、銃を持っていた左手は刀で斬られたのか赤い筋が幾つも伝いだらりと垂れていた。

2016-12-05 11:52:26
り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL 「山田君…おまん、剣を振るうんじゃな。」 負傷した陸奥守を庇うようにして、龍馬は打刀に語りかける。 「中岡君は逃げたぜよ…すっと仲間も来るに…けんど、なしてこいつを斬ったがか…」 仲間なのに、とまっすぐな瞳が打刀を諭す。心なしか、打刀の肩が震えていた。

2016-12-05 12:20:57
り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL 「山田君…」 龍馬がさらに言葉を紡ごうとした時、下から階段を駆け上がる音がした。 突然、打刀が声もたてずに長曽祢から離れる。 「いかんちや!」 陸奥守が打刀を止めようと血で滑った手を伸ばすが、虚空を掴んだだけだった。 階段の下から大勢の男の絶叫が聞こえた。

2016-12-05 12:26:51
り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL 「山田君!」 「ならん!行っちゃならん!」 廊下に出ようとする龍馬を陸奥守が押さえている。筋を斬られたのか、左手が思うように動いていない。 悲鳴と、濡れた何かを斬るような音はもう聞こえては来なかった。そして、ゆっくりと階段を駆け上がる音。

2016-12-05 15:26:08
り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL 男が上がってきた。焦点の定まらない目が左右をめまぐるしく見回している。口がぱくぱくと鯉のように動いているが、口からは血の泡を吐くばかりで男の意図は誰にもわからない。急にその体がだらりと崩れる。真っ直ぐな刀剣に腹から串刺しにされた男はその生涯を終えた。

2016-12-05 15:34:33
り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL 陸奥守の目が大きく見開く。 「山田君、そいつは誰じゃ…」 龍馬の声色にほんのりと恐怖が混じる。打刀は何も言わなかった。 陸奥守もまた何も言えずに下を向くばかりだった。 「…そいつだったのか?陸奥守。そいつが、龍馬を…」 長曽祢はうつ伏せに倒れた男を見る。

2016-12-05 15:50:10
り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL 打刀は突然男の顔を顔を殴り始めた。何度も何度も拳を振り下ろす打刀の荒い息が白い蒸気のようにふぅ、ふぅ、と室内に響く。それは内に秘めていた憎しみと怒りが、追い求めていた相手にようやく復讐を果たした瞬間であった。 そうして、顔の原型がない遺体が一つできた。

2016-12-05 15:57:46
り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL 復讐を終えた打刀は塵を捨てるように亡骸を放る。どしゃりと濡れた音と、掛け軸に朱が花開いた。ふと、龍馬を見つめる打刀の目に敬愛と、哀愁が混じる。 「りょ…ま…」 消え入りそうな掠れ声は、目の前にいる手負いの陸奥守と確かに同じものであった。 「どういて…」

2016-12-05 16:55:12
り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL 龍馬だけが、混乱しているようだった。 「どういてじゃ、山田君…」 「わしが話すぜよ。」 陸奥守が遮った。もう観念したような、どこか安堵したような顔だった。そして、打刀もまた陸奥守に従うように大人しくなった。 「どこから話すべきか…」 陸奥守は目を伏せる。

2016-12-05 20:25:02
り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL 長曽祢が聞いたのは実に奇妙な縁に満ちた話だった。 3年前の池田屋攻略時、残党を斬り伏せて部隊に帰還しようとした陸奥守は、逃亡中の坂本龍馬を見かける。が、同時に坂本龍馬の隣に歴史修正主義者の打刀が同行していたことに気がつき、後を追ったのだった。

2016-12-05 20:27:30
り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL 部隊に帰還することができなくなった陸奥守は、せめて打刀が坂本龍馬の歴史をどのように修正しようとしているのかを見極めるために、脱藩浪士の「吉行」として坂本龍馬に同行することにした。元々土佐の言葉を話し坂本龍馬と同じ志を持つ陸奥守を拒む者は少なかった。

2016-12-05 20:33:26
り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL 定められた道を進む歴史の裏で陸奥守、歴史修正主義者打刀、そして坂本龍馬の奇妙な生活が始まった。 陸奥守は正体を語らず、歴史修正主義者の打刀もまた陸奥守を斬らずに共闘し、坂本龍馬を近江屋事件前に殺そうとする歴史修正主義者たちを次々と斬り伏せていった。

2016-12-05 21:21:50
り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL そして、今日を迎えた。 外の夜闇が暗くなった。開け放した窓から冷たい風が入り、部屋の中の四人の体温を密やかに盗んでいく。 「まっことえい生活じゃった。このまんまでもな、かまんばぁに、思えたんじゃ。…でも、それはできんのぅ…」 陸奥守の橙の瞳が揺らいだ。

2016-12-05 21:28:41
り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL どこかで遠雷、もしくは太鼓のような音が聞こえる。長曽祢は弾かれたように外を見る。 青い月に覆いかぶさるように、黒い風穴がぽっかりと浮かんでいた。 「陸奥守、検非違使が来る…」 「坂本龍馬…龍馬。」 陸奥守が龍馬に語りかける。 「もう、時間がないぜよ。」

2016-12-06 07:33:08
り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL 「のう、龍馬…」 龍馬は吸い寄せられるように陸奥守と打刀を見つめる。 「わしの本当の名は陸奥守吉行じゃ。 ずっと先の未来で、おまさんの刀と言われちゅうね。わしも山田君もそして迎えに来てくれたこの長曾祢も、妖怪や神様みたいなものじゃ。」 陸奥守は続ける。

2016-12-06 15:46:24
り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL 「わしらは定められた歴史を守るために、ずっと先の世から来ちゅうよ…」 「おい、陸奥守…」 「もうええんじゃ。もう、騙し続けるのは疲れだれた… 龍馬、龍馬…おまさんは定められた歴史の中で今日死ぬことになっちょる。」 龍馬の喉がごくりと嚥下する。

2016-12-07 13:20:41
り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL 「この山田君は、その歴史を変えるために来たがじゃ…」 打刀は外の様子を伺いながら、ちらりと龍馬を見る。 「どういて…わしが…」 龍馬の大きな体が震えている、離れた場所から見ている長曽祢にはそれは恐怖から来るものなのか怒りからくるものなのかわからなかった。

2016-12-07 13:24:00
り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL 「げに、知らんちや。それを聞き出すためにここに来たのに、山田君が殺してしまったがじゃ…」 陸奥守はそう言って顔の潰された遺体を恨めしげに見つめる。 「陸奥守…!」 長曽祢が鋭い声を上げる。先刻まで遠くにいた部隊が近江屋を囲んでいた。

2016-12-07 13:31:03
り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL 「あれはなんじゃ…」 龍馬の覇気のない声が近づいてきて、窓枠に大きな手が乗る。 「わしらの時代で検非違使と言われちゅう。歴史が変わりゆう時に現れて、元に戻す存在じゃ…」 打刀が唇を血のにじむまで噛み締めて刀に手をかけている。その手が怒りで震えている。

2016-12-07 13:35:01
り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL 亡霊のように佇む部隊の一人が体の大きな男を抱えている。元は力士だったのだろうか、逞しい腕はだらりと垂れ下がり、大きな背中には真一文字の刀傷ができていた。そして別の隊員が着物の切れ端を持っている。 「山田藤吉だな…中岡慎太郎もどこかで襲われたのだろうな…」

2016-12-07 13:40:41
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