そねむつ、龍むつ?【追う話 近江屋】

【追う話 池田屋一階編】の続編です。 龍馬を追う陸奥守吉行と、陸奥守を追う長曽祢虎徹の話。 ※歴史改変有り、歴史的人物と刀剣男士が会話をします ※エセ土佐弁注意 続きを読む
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り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL 「龍馬…時間がないぜよ。あの検非違使は歴史通りにおまさんを殺すはずじゃ。山田君が作った歴史修正をどのように活かすかは、龍馬次第じゃ…」 「陸奥守、お前…」 「もう、わからんようになってしもうたがじゃ…へこい暗殺者もおらん…道標なき道に立たされてしもうた。」

2016-12-07 13:44:47
り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL 今度は陸奥守の戸惑うような声が部屋に響く。 「ある武者は異国へ逃れて王になった、ある武将は寺の奇襲から逃れ魔王になったっちゅう、元禄の発明家は得意のカラクリで獄死を免れたっちゅう…どういて龍馬にはそんな可能性がないんじゃ…」 胸を苦しそうに抑えて叫ぶ。

2016-12-07 13:50:14
り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL 「胸がこんなにほたえいう…つづないのぅ…」 下の階で扉を開く音がする。続いてどしゃりと大きなものが倒れる音。歴史のつじつまを合わせるために斬られた憐れな男の亡骸が無情にも階段に叩きつけられたのだろう。 長曽祢と打刀が息潜めて廊下側の襖に近寄る。

2016-12-07 13:54:16
り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL 襖の向こうの気配を感じながらも、長曽祢は陸奥守を横目で見る。 近江屋にたどり着く前、打刀と戦った時にできたのだろうか。普段拳銃を構える左手からは血の乾いた跡があり、指先は細かく震えていた。いつものように拳銃は撃てないだろう。 「陸奥守、しっかりしろ。」

2016-12-07 19:42:22
り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL 長曽祢は低く唸る。何のためにここに来たんだと自問し、鞘を握りながら腰元のお守りを触る。それは変わらずに長曽祢の腰元に存在し、確かな重みを持っている。 長曽祢の瞼の裏に、本丸で待つ審神者と近侍、池田屋で待ってくれているだろう仲間たちの姿がありありと浮かんだ。

2016-12-07 19:50:50
り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL 長曽祢は未だ話についてこれない坂本龍馬を一瞥し、声をかける。 「状況がわかってないところすまないな。何が言いたいかと言うと、あんたは今日ここで殺されることになっている。 でも、あんたにもし生きる気力があるなら、今すぐそこの掛け軸の刀を抜いて俺たちと戦え。」

2016-12-07 20:07:49
り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL 「長曾祢、それは…」陸奥守の目が見開かれる。長曽祢の言葉は歴史を修正することを肯定しているからだ。 「まどろっこしい言い方は嫌いだ。察してくれるのを待ったって機は巡ってこないぞ。むざむざ検非違使に食われるよりも、最後まで足掻こうじゃないか。」

2016-12-07 20:12:44
り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL 「うまくいけば生き残るかもしれない。だが、検非違使たちから勝ち残った暁にはあんたは坂本龍馬という名を捨て土佐の浪人に戻ってもらう。坂本龍馬は今日をもって死に、新しい人間として余生を生きろ。それで歴史は変わらないはずだ。」 金色の虎の目が坂本龍馬を見つめる。

2016-12-07 20:22:00
り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL その時、襖が一文字に切り開かれ、薄緑に光る目がこちらを覗く。 「油断するな、敵がどこから来るかわからんぞ!」 長曽祢の鋭い声に部屋の中の空気がさっと緊張する。 陸奥守はすばやく窓枠側に走り寄る。左手を庇いながら、右腕で抜刀する。

2016-12-07 20:37:51
り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL 乱暴に襖が蹴破られる。亡霊のように朧げながら確かな意志を持った部隊が、歴史に溢れた四人を睨みつける。 「龍馬…わしはのぅ、おまさんと夜明けを見たくて、刀としての性分を殺しておった…じゃが…」 陸奥守は龍馬を庇うように前に進み出る。 「これでやっと守れる。」

2016-12-07 23:03:17
り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL 「推して参る!」 長曽祢と、そして打刀は廊下から押し寄せる薄緑の波を、陸奥守は窓から蜥蜴のようによじ登る一人を斬り伏せていく。 坂本龍馬も参戦しようと掛け軸へ走り寄ろうとするが、そこには既に槍を構えた検非違使が待ち構えている。 陸奥守が自分の鞘を投げる。

2016-12-08 17:20:05
り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL まるで予期していたかのように龍馬は後手に鞘を受け取ると、奇声を上げて槍を振り下ろす敵の頭をなぎ倒す。歴史に抗おうとする人間に、薄緑の波が奇声をあげて飛びかかる。 「ほたえなや!」 地に響くような怒声に、一瞬の静寂が訪れる。龍馬の黒い瞳に迷いはなかった。

2016-12-08 17:28:18
り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL 「吉行も、山田君も、迎えに来たおまさんも。そして、ようわからんおまんらも、よう聞け! わしは坂本龍馬じゃ!ここで死ぬるとか名前を捨てろとか勝手なことばかり言いくさって…わしは生涯まで坂本龍馬で生きるぜよ。そして、ここで易々と斬られるわけにもいかんちや。」

2016-12-08 19:34:46
り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL 「最後まで、最後の最後まで足掻くぜよ。決められた歴史言うんなら、わしを殺してみとうせ!」 陸奥守が声に呼応するように坂本龍馬と背中合わせになる。敵へ刀を向ける二人の構えは全く同じものだった。 「行くぜよ!」 どちらかの言葉を合図に四人は窓枠から飛び降りる。

2016-12-08 19:50:14
り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL 「ほんだらね!」 龍馬は硬直している検非違使に舌を出してから走り出す。近江屋から怒号と、武具がこすれる音がする。 「まっはっはっ!鬼ごっこじゃ!」 走り出しながら笑いだしたのは、命を狙われている龍馬だった。 「このまま朝まで逃げ続ければわしの勝ちじゃ!」

2016-12-08 19:55:28
り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL 陸奥守も打刀もどこか笑っているようだった。肉の器を得ても決してできなかったことが今実現している。 「大和守や加州が見たら怒るだろうな…」 呟く長曽祢もどこか笑っていた。 「おまさんら!ほら、鬼がやってきたぜよ!」 背後から馬の蹄が地を蹴る音がする。

2016-12-08 19:58:05
り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL 刀装のない体はとても身軽だった。長曾祢は月の上を走るような気持ちで水たまりを飛び越える。 池田屋を通り過ぎ、青い路地を通り過ぎどこまでも走った。 ふと、長曾祢はこのまま走って元の出口まで坂本龍馬を連れていきたいと考えた。許されないことだが、そうしたかった。

2016-12-08 20:05:21
り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL この考えが一瞬の気の緩みとなった。空を切るよう音が近づいた瞬間、長曾祢は右足に鋭い痛みを感じた。 「何…」 薄緑に光る矢が長曽祢の右足に大きな風穴を穿っていた。それきり倒れてしまう。 「長曾祢!」 「ぐぁ…深手か…」 打刀が次々に飛んでくる矢を切り防ぐ。

2016-12-08 20:11:34
り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL 「長曾祢、しっかり…」 陸奥守が肩を貸す。ほんの少し小さな体が長曾祢をよたよたと支える。そして反対側から龍馬が支える。 「すまない…」 「おまさんら、刀の神様と言いよったな。おまさんは…その姿は新撰組のかや?」 「あぁ。」 「新撰組を助けんが?」

2016-12-08 21:28:56
り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL 「それは…」 池田屋に初めて出撃した時の衝動を思い出す。自分の元主の末路を何度救おうとしたことか。そして、あの時自分がやろうとしたことを陸奥守は今実現させた。そして、今は龍馬と剣を携え運命に抗ってる。 それは長曾祢がずっと夢見ていたことだった。

2016-12-08 21:38:16
り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL 「…それでも…」 長曾祢は右足の痛みに耐えながら早足で歩く。 「近藤さんが罪人として死んだ先に、あんたの言う日本の夜明けが来た。そして俺たちはこの姿であんたの前に立っている…だから、俺はあの人の未来を変えられない。」 龍馬の黒い目に長曾祢の顔が映る。

2016-12-08 22:02:54
り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL 突然長曾祢と龍馬の間に一陣の衝撃が走る。長曾祢はとなりの陸奥守と共に木材の山に投げ飛ばされる。 馬に乗った検非違使が追いついてきていたのだ。 「長曾祢、無事か!」 「平気だ!だが、坂本龍馬が…」 「龍馬……!」 起き上がった陸奥守の声が聞こえなくなる。

2016-12-08 22:06:07
り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL 体を起こした先に、陸奥守の背中があった。その先に、薄緑に光る検非違使の後ろ姿があった。 「山田君…」 龍馬を庇うように覆いかぶさった打刀に、検非違使の槍が深々と刺さっていた。 「山田くん…!」 「…わしに抜かせたな!」 打刀が叫び、検非違使に斬りつける。

2016-12-08 22:08:54
り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL 渾身の攻撃を避けるように検非違使は素早く建物の影に退く。その拍子に袈裟が飛び、袈裟にしまわれていた顔が現れる。 「そんな…」 長いざんばら髪の下に橙の太陽の瞳。凛々しい眉は二手に分かれていた。陸奥守と瓜二つの顔がそこにあった。 「こいはどういうことじゃ。」

2016-12-08 22:13:48
り°ん @unknown_fish123

@toukenBLTL 「龍馬…」 ひどく掠れた声が口から発せられた時、体中にヒビが走る。 「やっと…守れた…ぜよ…」 それが歴史修正主義者 打刀の最期の言葉だった。打刀の体は砂のように崩れ、刀身の先が折れた刀が現れ、からんと音を立てた。 「やはり、こいつも陸奥守だったのか…」

2016-12-08 22:17:16