そねむつ、龍むつ?【追う話 近江屋】
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@toukenBLTL 龍馬は打刀の残骸をそっと持ち上げる。 「…本当に刀じゃったか……山田君…すまん…」 苦しそうな声だった。そして、その柄をきつく握る。 「ありがとう。」 建物の陰から飛びかかる検非違使を真っ二つに切り捨てる。 「あぁ…あぁ…」 陸奥守が剣を振りながら叫んだ。
2016-12-08 22:23:49![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@toukenBLTL 陸奥守の橙の瞳が、大きく見開かれる。その瞳の先で龍馬は陸奥守吉行を振り、検非違使と応戦していた。 陸奥守の頬に一筋の涙が伝う。 「今わしが見ゆう景色、けして忘れん…」 その声に狂気と呼べるほどの歓喜が渦巻いていた。その声と燃える瞳に、長曾祢の血が熱く滾る。
2016-12-08 22:39:45![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@toukenBLTL なおも近づいてくる検非違使を前に長曽祢は羽織を脱ぎ捨てる。 「今宵のおれは血に飢えているってな!」 右足の怪我も忘れ、新しく追ってきた検非違使を斬り捨てる。 その背を龍馬が押す。子供のような笑顔だった。 「さすが新撰組の刀じゃ!さぁ、走るぜよ!」
2016-12-08 22:42:28![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@toukenBLTL 陸奥守、龍馬、そして長曾祢の順番に小道を抜ける。路地を抜けた先に、検非違使は追ってこなかった。 三条大橋の川は凍るような音をたてて流れている。三人は検非違使が追ってこないことを確かめると一斉に息を吐いた。皆が待つ池田屋に繋がる道はそう遠い距離ではなかった。
2016-12-08 22:45:54![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@toukenBLTL 「まっはっはっ、まっこと楽しい夜じゃ!おまさんらぁのおかげじゃ!」 擦り傷を摩りながら、龍馬はいたずらっぽく笑う。 「山田君も…一緒にここまで来たかったのぅ…」 折れた刀身を優しく撫でながら長曽祢を追い越し、陸奥守を撫でる。 「楽しい旅だったのう。」
2016-12-08 23:03:28![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@toukenBLTL 「龍馬…」 「早く、気がついてやればよかったのぅ…」 長曾祢は龍馬の黒い背が濡れていることに気がついた。その染みはじわじわと背中を染めていく。 「…そんな……」 陸奥守もまた、龍馬の額に傷が生まれ血が流れ出すのを見つめていた。 歴史が龍馬を蝕み始める。
2016-12-08 23:07:28![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@toukenBLTL どう、と大きな体が倒れる。 「しょう、痛いちや…」 笑ったように吐く息が赤い。 長曽祢は先ほど龍馬に背を押されたことを思い出した。 「龍馬…まさか、俺を…」 「何の話じゃ…歴史がわしを迎えに来た…そだけじゃ…」 龍馬を抱く陸奥守の腕がガクガクと震えている。
2016-12-08 23:10:24![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@toukenBLTL 衣服にも汚れた包帯にも、龍馬の血が染み込んで赤くなっていく。 「龍馬…わしはまた……」 「吉行、おまさんに3年間救われたのぅ…その3年の努力でわしは今の今まで生きたぜよ…」 小さく震える陸奥守の体を大きな体が抱きしめる。 「おまさんのおかけじゃ。」
2016-12-08 23:15:11![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@toukenBLTL 指先、足の先が光の粒になって少しずつ消えていく。 「わしの体はきっと…近江屋に眠っちょる。あっこにおるわしのおまさんが待ってるにゃあ…けんど…」 大きな黒い目から大粒の涙が流れる。 「夜明け、見たかったのぅ…」 陸奥守はきつく龍馬の頭を抱きしめる。
2016-12-08 23:20:50![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@toukenBLTL 「おまさんが作った未来は…」 息をはっと吐きながら、陸奥守は笑う。それでも橙の陽光のような瞳からは大粒の涙が雨のように流れて、龍馬の黒い着物を濡らしていく。 「剣も、銃も必要とせん。話し合いで片付くことだらけぜよ。おまさんの努力は身を結んだがじゃ…!」
2016-12-08 23:23:31![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@toukenBLTL 「だからのう、龍馬…龍馬…」 陸奥守の顔を、長曾祢は見ることができなかった。 「わしは刀剣男士、刀の神様じゃ。永遠にここにおる。だからのぅ…また人として、また会えたら…わしとまた…旅を…」 その先が言えないほどに泣く陸奥守を龍馬は笑って撫でた。
2016-12-08 23:27:50![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@toukenBLTL 坂本龍馬が呼吸を止め、体が霞のようになって消えた時、東の空が藤紫に染まり始めた。 「長曾祢。」 「なんだ。」 「帰ろう。」 「ああ。」 近江屋事件の夜が西へと去る前に、二人はそっと出入り口へ歩いて行った。その様子を薄緑の部隊が音もなく見届け、消えた。
2016-12-08 23:31:58![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@toukenBLTL 夜明けの白い光に背を向けて、二人は池田屋に通じる宵闇が渦巻く道を歩く。 長曾祢は肩を貸す陸奥守の顔を見れずにいた。 「長曾祢さんや…」 くせのある髪が長曾祢の顔に当たり、大きな橙の目がこちらを向く。 「迎えに来てくれて、ありがとう。」 笑った顔に、涙の軌跡がいくつも残っていた。
2016-12-09 08:37:58![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@toukenBLTL 「何を言う。」 「わしが龍馬を助けようとしたら、斬れ言われちゃったが?」 「……あぁ。」 「でも、せんかったが?」 「…あの時、誰があんたを迎えに行ってもそうしただろうよ。」 「けんど、決めたのはおまさんじゃ。ありがとう…」 闇の遠く向こうに仲間の気配を感じる。
2016-12-09 08:43:31![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@toukenBLTL 「……あの打刀は何だったのだろう。あいつもあんただった…」 「……刀剣男士っちゅうもんは一つの刀を本体にたくさんの可能性の中で生まれいうのかもしれんちや。龍馬を失う前の陸奥守吉行、龍馬を失った陸奥守吉行…山田君もどこかの時間軸で龍馬を思って生まれたのかもしれんちや…」
2016-12-09 08:51:54![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@toukenBLTL 「だから…」 陸奥守が急に口籠る。 「あの近江屋に残された陸奥守吉行は、どんな思いで今後顕現されるか、考えたら…のう…」 「あっこにおるおまさんが待ってるにゃあ…」 長曾祢は、龍馬が息をひきとる前に呟いた言葉を思い出し、陸奥守をぐしゃりと撫でた。
2016-12-09 13:28:06![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@toukenBLTL 「その陸奥守吉行に会えたら、話してやるといい。坂本龍馬は近江屋から逃げた時、置き去りにしたお前をちゃんと気にしていたとな。もしかしたら、俺たちはその陸奥守吉行に憎まれるかもしれない。 でも、きちんと話そう。」 な、と顔を覗き込む金の瞳に、陸奥守は微笑む。
2016-12-09 13:31:10![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@toukenBLTL 「おまさん、しばらく会わん間に、男になったのぅ…」 「そうか?近藤さんのように、なれたかな。」 「熊みたいな図体なとこは同じぜよ。」 「俺は虎だ。熊じゃあない。」 「龍と虎か…犬猿の仲じゃな。」 「犬猿なものか。俺は3年間もあんたを追い続けたんだ。」
2016-12-09 13:36:30![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@toukenBLTL 右足を引きづる白い羽織に陽の光があたる。通り抜けた出口の向こうに朝の光と、仲間たちの影が見える。 「もうあんたが消えないように、これからは俺はあんたのそばにいるよ。あんたも俺たちの本丸にいる坂本龍馬を忘れられない陸奥守吉行として生きろ…」 足音が聞こえる。
2016-12-09 13:42:45![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@toukenBLTL 仲間たちの駆け寄る音を聞きながら、陸奥守は眼を細める。 「わしはあの時間の龍馬を結局救えんかった…けんど、一緒に旅をしたこと、陸奥守吉行を使って戦ってくれたこと、忘れんように生きるぜよ…それがこの本丸の陸奥守吉行の定められた歴史じゃ。」
2016-12-09 13:45:49![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@toukenBLTL 夜明けの空が池田屋を包む。蜂須賀、和泉守、堀川、加州、大和守が安堵の表情を浮かべる。 足を引きずる長曾祢と、支える陸奥守が笑って手を振った。
2016-12-09 13:49:58![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@toukenBLTL 気がつくと、ここにいた。 自分が何者かわからなかった。 「なんじゃ、おんしゃあ。なして上着も何も着とらん?」 声をかけられ振り返れば、くしゃくしゃの髪に、黒い薄汚れた着物の男がこちらを見ている。何もかもが薄汚れているのに、瞳ばかりが強い光を放っていた。
2016-12-09 13:54:19![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@toukenBLTL 黒い双眸は熱く、惹きつけられ気がつけばじっと見つめていた。ふわりと肩に手ぬぐいをかけられた。布の温もりに、自分が本当は寒くて仕方がなかったことを思い出した。 「おんし、名前は?」 「…………」 自分は何者だったのだろう、そもそも名前があったのだろうか。
2016-12-09 13:56:43![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@toukenBLTL 「口がきけんか?寒いかや? こっちに来んか。。」 視線を合わせるように、顔を覗き込んでくる。 「わしは坂本龍馬ちゅう、名前があるぜよ。おんしも口がきけるようになったら、名前を教えとぉせ?」 「りょ……ま……」 ようやく出た声は、ひどくかすれていた。
2016-12-09 13:58:15![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@toukenBLTL 夜の道を歩く。青い小道を歩むごとに鉄が溶けていくように胸が熱くなる。そして、ひらけた場所に辿り着いた時、突然とある景色が頭に流れ込んでた。 薄緑に光る人影、白い羽織も、赤い着物も、そして主も夜の闇へと消え、物言わぬ屍となって帰ってきた主の姿。
2016-12-09 15:52:58