【旅先からの手紙】福間健二 #k2fact158

福間健二 @acasaazul

大きな声がした。いちばん寒い階段。くだって、会ってしまうと思った天狗に会わなかった。いい気になっちゃいけないと紅葉の美しさが人に教えているのだ。京都の山。受動と受容はちがう。名古屋で聞いたことの正しさを思いながら、お湯割りで酔っています。（旅先からの手紙１）#k2fact158

福間健二 @acasaazul

夜の川岸と、それに沿う車道に斜めに入ってくる、あきらめない影。そういうタオルに包みたくなかった。そういうことを言いたくなかった。どこまでも他人でしかない「彼」のふるさとの記憶だ。横になるとすぐに朝になり、あまり晴れてなくても、青を感じる。（旅先からの手紙２）#k2fact158

福間健二 @acasaazul

名古屋では三人の死者とポケット壜のトリスを回し飲みした。からにしてはいけない。舐めるように。回収ボックスの前で。シャツのボタンをはずしていく指を見ていた。生きている指。ボタンのひとつが取れて床に落ちた。蝶がいた。ぼくは引きずられていった。（旅先からの手紙３）#k2fact158

福間健二 @acasaazul

何が回収されるのか。何が使用済みなのか。人間らしさ。人間のふり。心。それを言葉にしたもの。助けて。ここから出して。虐待されている子どもの声だ。手をさしだすと、すがりついてはなれない。こんなふうに書くのは簡単だが、回収されるのはぼくなのだ。（旅先からの手紙４）#k2fact158

福間健二 @acasaazul

闇の中、雲が流れているのがかすかな光でわかる。分解され、粒子と湿度と、底辺からのあこがれになって、それからまた人の体を求めて這う。助けて。手をさしだしてくれる「社会」の表情がうまく読めない。会話が必要だ。乾いた岡山の地面、すぐに朝になる。（旅先からの手紙５）#k2fact158

福間健二 @acasaazul

一瞬の、豪雨と濡れたブラウスの胸。なんだったのだろう。のんびりと赤い実をつける島、退屈している船。長い橋をわたって、行先、松山。マドンナ・エクスプレス。まるで正解のように、その国、その意識、白い煙をふく工場地帯。だれも立ちあがりません。（旅先からの手紙６）#k2fact158

福間健二 @acasaazul

何度も来ているＴ駅からまちがった線に乗ってしまう。このまちがいも何度もやっている気がする。聞いたことのない名前の駅がつづき、停車するたびに破れかけた袋から一枚ずつ懐かしいLPが出てくる。モーターズ、テレヴィジョン、ギャング・オブ・フォー！（旅先からの手紙7）#k2fact158

福間健二 @acasaazul

旅先で見る夢。LPプレイヤーが見つからなくて、立ったままの直感勝負。書けなかった。殴られて言い返せなかった。ずっとそうだと思う。だれと手をつなげばいいのか。紙片の舞う幽霊の街を巡るバスが一七〇円。罪の意識、こいつがまた行き止まりをつくる。（旅先からの手紙８）#k2fact158

福間健二 @acasaazul

そんなに悪いことしただろうか。銅像の多い鹿児島に引き返し、出されたものを残さず食べる。人間のふり。酔いつぶれ、父と母、そして少しカビくさい菜々子さんの出てくる夢。父は百歳になっていた。三人は横浜の弟の家にいたと言うが、弟はもう横浜にいない。（旅先からの手紙９）#k2fact158

福間健二 @acasaazul

神戸。いつもだれか、消えている人がいる。大阪。はっきり言えば、苦難の連続なのだ。京都。だれと笑う。二人でひとつの苦難を、だれと。大阪に戻って、十三。夜は「風まかせ」。昼は「十三屋」。きのうは編集の秦くんと飲みました。明日はリスボンです。（旅先からの手紙10）#k2fact158