第二展望台にはまばらに人がいた。平日の朝方だ、繁忙期に比べると、無人と言ってもいいくらいの人口密度だった。「太陽は東から昇るんだ」グッシュさんは、クツクツと笑いながら、いつもの口癖を呟いた。私は展望台の内部を見回す。「あ」知った顔を見つけ、目を伏せる。あれは……天海春香だ。 25
2016-12-22 00:25:36私は天海春香から目を逸らし、グッシュさんを見上げる。「朝の街は澄んで綺麗だ」グッシュさんはガラス窓に近付いて街を見下ろした。「使命感が湧いてくる」「使命感……?」「俺には使命がある」グッシュさんは指を強く握りこんだ。拳から赤黒い血が滲む。「糧だ」「糧ですか」「ああ」 26
2016-12-22 00:41:09グッシュさんと話しながら、私は鼻をひくつかせた。深呼吸し、口から息を吐く。限界まで吐ききったら、鼻から吸う……誰にも気付かれないように、静かに。そうすることで、この空間の匂いを嗅げる。私は、グッシュさんの匂いを身体に取り込んだ。多幸感が脳を蕩けさせる。瞼が重くなってくる。 27
2016-12-22 00:50:15『Aroma Romance』は「〜的な」とか「〜感」みたいな言葉を頻繁に使いますが、これは、このSSを、極めて感覚的な物語として読んでもらいたいがゆえです。 #shomupopo
2016-12-22 00:53:40「……と、そういうわけだ」「それは、すごいですね」私は受け答えをしつつも、グッシュさんの匂いを堪能する。グッシュさんは私を見下ろした。「……話は変わるが、可憐……」「な、なんでしょう」匂い堪能タイムを強制終了し、グッシュさんを見上げる。「今日のコロン、俺の好きな系統だ」 28
2016-12-22 01:11:23グッシュさんは鼻をすすった。私は思わず縮こまる。「あ、そ、そうです……グッシュさんと出かけるので……前、いい、って言ってくれたのを……」「あの時のやつと同じコロンなのか。道理で」グッシュさんはクツクツと笑った。「安心した」「安心、ですか?」「ああ。変化がなくて安心した」 29
2016-12-22 01:14:52グッシュさんが言う『あの時』というのは、グッシュさんがコロンを大量に仕入れてきたときのことだ。コロンが余ってしまい、途方に暮れ、私にその一部をくれたのだ。そのとき特にグッシュさんが気に入っていたコロンを、今日、つけている。「気に入ってくれて、嬉しいです」頬の火照りを感じる。 30
2016-12-22 01:20:45「あの、すみません、少しだけお時間いいですか?」突然私達の会話に、誰かが割り込んできた。私は、「ひゃあっ」と声を上げ、飛び退く。「そ、そんなに怖がらないでください! 少し聞きたいことがあるだけなので!」「……誰だアンタ」「天海春香と言います」彼女は、目を細めて笑った。 31
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