フォビドゥンフォレスト3話「蝶舞の町内」 #3 「資料室」

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俺達がある程度食うまで声を掛けるのを待っててくれたみてぇだ。 「ああ、お陰様で…?」 よく見ると、平隊員ばかりで隊長とかベテランがいない。俺の目線に気付いたのか、質問する前に教えてくれた。 「ああ、ウチの隊長達なら会長の家だよ」 「食いながら会議だってさ」 「やっぱりか」 20

2016-12-29 01:24:00
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兄ちゃん達が話してくれたここ半日の出来事は、さっき先輩達に聞いたのと大体同じだった。スサノオ隊は残敵や遺留品、他の被害者の有無の確認と捜索の為に、交代で森に入りフル稼働状態。そして例のないくらい広範囲から人が拐われたってんで近隣の組織との情報交換で他の部隊も忙しいらしい。 21

2016-12-29 01:28:57
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「桐くんが回収した新種のサンプル、外に分析を回すらしいぞ。噂だけど」 「マジかよ…そうとは思ったけどよ」 俺は一気に汁を啜る。 「ん?なんでだい」 箸でそばを掴んだままの俊が聞いてきた。 「そうなるって予想してたのか?」 兄ちゃん達も少し気になってる様子だ。 22

2016-12-29 01:34:02
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「ウチの設備じゃ、小型妖怪の分析は難しいんだよ。ていうか小型は全然研究されてねぇ」 「なんで?」 「禊で追っ払えるからだよ」 「ああそうか」 兄ちゃん達はそれで納得した様子だ。マトモに森に入ったことのない俊は今ひとつみてぇなんで、俺は話を続けた。 23

2016-12-29 01:44:32
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「雑魚妖怪はな、弱ぇけど数が多いんでまともに相手してらんねぇんだよ」 「だから桐くんの彼女の瑠梨ちゃん達…神社の人に毎回禊をして貰って雑魚が寄りつかないようにして貰うんだ」 「そうだけど、彼女じゃねぇって」 俺の説明を継いだ兄ちゃんの言葉を部分否定する。 24

2017-01-02 01:06:01
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全く、どうして皆そっちに話を持ってくんだよ。 「えっと…それでだな俊、禊のお陰で相手しなくて良いから、昨日の寄生虫野郎みたいな小型の研究は進んでねぇんだ。だから分析設備もない」 「だから他所に回すんだね」 「金が勿体ねぇし、ちょっと癪だけどな」 25

2017-01-02 01:12:30
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兄ちゃん達が詳しくないのも設備がないのも仕方ねぇ話ではある。必要性が薄いからだ。 「でもよ、俺も前に資料室で低級妖怪の奴見たことあるけどよ、結構資料あったぜ?」 「全っ然。なあ俊」 俺は肩をすくめて首を振る。 「えっ。結構あったよね」 「いやいや」 26

2017-01-02 01:24:34
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一緒に資料と戦った戦友と認識を共有出来てなかったことにショックを受けたが、俺は説明を続けた。 「資料はあるにはあったけどよ。結構適当だったぜ」 低級妖怪の大半はちっこい蟲型だ。ある古い本には芋虫型や蠕虫型の妖怪が何十種類も書かれてたが、ろくに分類がされてなかった。 27

2017-01-02 01:34:59
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分類学の概念や方法論の無ぇ時代ってのもあんだろうが、適当にヒモみてぇのを描いた絵も少なくなかった。それでも生態や能力が厄介なのは詳細な絵の奴もあった辺り、やっぱ実用性が問題だったんだろう。近現代は写真データもあったが、事情はだいたい同じだった。 28

2017-01-02 01:48:08
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数種まとめて「○年○月撮影の低級蟲型妖怪」なんで紹介してんのはまだ良いほうで、俺の目には別々の種類に見える虫妖怪を同種扱いしてるのもあってダメだ。今まではそれで良かったんだろうが、今回はそれが裏目に出た形だ。 「この際、蟲系全般の研究をし直したほうがまだ早ぇかもな…」 29

2017-01-02 01:53:16
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「それはもうやったじゃないか」 「なんだかんだ俺も雑魚は後回しにしてたからな…先人の皆さんと同罪だぜ」 俺は虫や蟲型妖怪の見分けが得意だ。主にクワガタ相手だが、連中の言葉もある程度分かる。それを生かしてこの二・三年で、過去の虫妖怪のデータを洗い直して分類を進めた。 30

2017-01-02 01:55:33
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例えば、昨日戦ったバケグモは元々十種類程度だったのが、再分類で四十種以上に増えた。個体差や突然変異で片付けてたのを、別種と確定させた。同定を間違うと命に関わるのもあるから馬鹿にならねぇぞ?この成果で国産の新車が買える程の金を貰っちまって、逆に悪いくらいだったぜ。 31

2017-01-02 01:59:44
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「じゃあ資料の数はあっても質は低かったってことか?」 「そうそう。妖怪に限らねぇけど、虫に興味のねぇ奴にとっちゃイモ虫だのミミズだのヤスデだのはどれも同じに見えんだろうけどよ。実際は全然違うんだぜ」 「ちょっと…」 俊が制止してきた。なんだよ、この際だから愚痴らせてくれよ。 32

2017-01-05 00:40:24
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「酷ぇ場合はヒルやゲジゲジを知らねぇなんて奴も…」 「麺類食ってんのに虫の話やめてくれよ…」 皆が嫌そうな顔で見てくる。俺はこういうの気にならねぇタイプだから忘れがちだが、世間一般では嫌がられるんだった。だから俊も止めたのか…話題を変えっか。 33

2017-01-05 00:48:54
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「あと、ノコギリクワガタとミヤマの区別がつかねぇ、なんてのもいるよな」 「そりゃ興味無い人には、全部クワガタだよ」 俺からすりゃ親の顔を見間違うくらい有り得ねぇ話なんだがな。つっても俺だって動物園のサルの顔の見分けがつくかっつわれても困るけどよ。 34

2017-01-05 00:59:18
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兄ちゃん達が食い終わって席を立つ。俺に、病み上がりなんだから無理をするなと言って去っていった。明日も森へ捜索に出るそうだ。逃げた中グモがまだ見つかってねぇらしいし、今回はどのルートで人が拐われたか分からねぇから広範囲を捜索するってことだ。 35

2017-01-05 01:09:24
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俺達はデザートを食いながら、話を戻した。 「まあ、さんざん悪く言ったけどよ。一個だけ資料のお陰で分かったこともあるぜ。普通の低級妖怪には、あんな化け物を作るのは無理だってことだな」 人間や動物ならともかく、妖怪を融合させて操る様な事例は確認できなかった。 36

2017-01-05 01:12:57
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「やっぱり完全な新種だったんじゃないか。去年も何種か見つかっただろう」 「だけどよ。そいつらだって近縁種くらいはいたぜ?近いのが見つかりゃ良いんだ」 風科の妖怪は風穴から湧き出るのと、それが世代を経たのとがいる。どっちの場合も普通の生物より、突然変異や新種が発生しやすい。 37

2017-01-05 01:20:48
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俊がスプーンを咥えながら暫く何か考え込んだ後で、口を開いた。 「もしかしたらさ、上級妖怪になら近縁がいる…とかないかな?」 「…そうか、奴自身は妖気の低い低級にゃあ違いねぇが…」 俺も奴のサイズと妖気から低級と決めつけてたが、上級妖怪の変種や幼体って線もあるな。 38

2017-01-05 01:26:32
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「俊、その線でもうちょい付き合ってくれるか?」 正直、片付けだけしてもう寝るかとも思ってたが折角だ。もうひと踏ん張りしてみたい。 「それは勿論だけど…一つ良いかな?」 「…なんだ?」 「例えばだけどさ。俺が新種の手がかりを見つけられたら、戦闘員に入れてもらえるかな?」 39

2017-01-05 01:34:14
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「いや、賞金が出たり給料が上がったりはするだろうけどよ…」 俊は事務方じゃなく、親と同じスサノオの戦闘員に加わりたいんだが、18歳未満だと一定の能力値と親の承諾がねえとダメだ。俊は能力が水準に達しなかった。特に耐魔力が低く、18になっても森には出せるレベルじゃねぇ。 40

2017-01-05 01:41:14
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森に入るスサノオ隊にとって、瘴気に耐える為の耐魔力値は必須だ。詳しい話は省くが、コレは鍛えるのが難しい。自然成長に任せた場合、20台前半までは伸びるんだが、俊の場合は行けて基準値ギリギリだろうって話だ。俺としちゃ素直に境界防衛のツクヨミか町巡回のアマテラスに行って欲しい。 41

2017-01-05 01:45:25
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「お前は研究員とかのほうが向いてるだろ」 「俺もみんなと一緒に最前線で戦いたいんだよ。直接妖怪を倒したいんだ」 「そりゃ、お前や佐祐里さんの気持ちは…少しは分かってるつもりだけどよ、どうしても戦いたいにしてもツクヨミ辺りのほうが良いだろ。何度も言ったじゃねぇか」 42

2017-01-05 01:54:09