少女誘拐事件

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銃声 @hai_ena

◆◆◆ 「グレン……って」 補佐役のレアンは、監視役の説明を受けて古傷を抉られたような気分になった。 監視役は当然察して、気休め程度の慰めを口にする。 「一度失敗した任務は別の奴に回すのが当然だ。お前の評価が低いせいじゃない」 「それは……知っていますけど」

2016-07-06 21:07:55
銃声 @hai_ena

ポールと補佐役のレアンが潜入して遂行し損ねた任務は、けれど失敗したからといって手を引くものではなかった。 そうであるから、今度は監視役の部下にその任務が回されたという事である。 その目的は、グレンの貴族が手に入れた新種の“ドラッグ”である。 「奴の孫娘を少しの間“預かる”」

2016-07-06 21:13:19
銃声 @hai_ena

「乱暴な真似は極力避けさせるつもりだが、始終泣き喚かれたんじゃたまったもんじゃねえ。 お前たちはお守りをしろ」 「はい教官〜」 ポールが右手を上げた。監視役がそちらへ向く。 「俺ぱーす」 「……ポール」 「餓鬼の面倒なんて御免だよ」 「お前とレアンに拒否権はねえぞ」

2016-07-06 21:18:38
銃声 @hai_ena

「任務失敗したの根に持ってんの?」 「そいつぁ自分のこと言ってんだろ」 怪訝な表情をしたポールに揶揄を振りかけたのはエリだった。 ポールは鋭い目付きでエリを睨む。 「潜入任務じゃ何の役にも立たないくせに」 「お前は戦闘じゃいつまでたっても半人前だがな」 監視役が溜息を吐く。

2016-07-06 21:25:27
銃声 @hai_ena

「両方、黙ってくれ」 監視役の一言で両者は口を噤んだ。 この場での主導権はやはり、監視役の元にこそある。 それにしたって、今日の会議室の雰囲気は随分混沌としていた。集ったメンバーが至極少人数である事もそれの原因かもしれない。 「とにかくだ」

2016-07-06 21:31:51
銃声 @hai_ena

「こっちの映像を向こうに送り込んで、グレンからドラッグの情報を聞き出せばそれで終わる。 俺の部下の到着を待て」 拉致などという計画を、こんなに当然のような口振りで説明をしてしまうのはきっと彼等のような人間だけだ。 彼等が今からしようとしているのは、立派な犯罪行為である。

2016-07-06 21:39:56
銃声 @hai_ena

「向こうが応じない場合はどうするの」 最後、会議室の去り際にポールが問いかけた。 いくら孫娘を人質に取られたからといって、応じない輩も山程いる。それでいてドラッグに手を染めるような輩は、大抵ロクでもない人間だ。 「……依頼書に聞け」 監視役は答えず、代わりに書類を押し付けた

2016-07-06 21:44:13
銃声 @hai_ena

ポールは皆が立ち去った後、実に退屈そうにその書類に目を通した。 正直こういった細かい文字を読むのは好きではないし、普段の依頼書さえ実は飛ばし飛ばしに読んでいる事は彼ひとりだけの秘密である。 「…………」 ある一定の箇所を読んだ辺りで、不意にポールは唇に弧を描いた。

2016-07-06 21:50:04
銃声 @hai_ena

「……なぁーんだ」 バサリ、と書類をテーブルに投げる。 次いで監視役の立ち去った扉に視線を向けた。 「ちょっとくらい“傷物”にしたって、案外問題ないんじゃない」 椅子から立ち上がり吹っ切れたかのように背伸びをする。その依頼書には、最終的な殺害を許可する記述が確かにあった。

2016-07-06 21:53:20
銃声 @hai_ena

「人情家だなぁ。ジルは」 その場に本人が居れば、明らさまに嫌な顔をしただろうセリフをポールは告げる。 やがて誰の人影もなくなった会議室には、非人情的な依頼書だけが残された。 . ◆◆◆

2016-07-06 21:55:26

シャオイー(小伊) @applex002

『今日はまた随分と買い込みましたね』 両手いっぱいに買い物袋を下げた少年が先を歩く少女へと声をかけた。真っ白な日傘をくるくると回しながら少女が振り返る。その動作に併せてふわりと真っ白な少女の長い絹糸のような髪が広がった。

2016-07-06 21:49:32
シャオイー(小伊) @applex002

雪のように真っ白な肌。真っ白な髪。リボンとフリルがふんだんにあしらわれたふわふわのワンピースドレスもまた白い。一切の色彩を何処かに置き忘れてきたような少女は、その中で唯一の色を持つルビーの瞳を上機嫌に細めた。

2016-07-06 21:55:18
シャオイー(小伊) @applex002

「あら、これでも随分絞った方なのよ。本当なら今日行った三軒とも店毎買い取りたかったんだから!」 『あはは……気に入ったものだけ選んでくれて良かったです』 少女の気まぐれによって危うく両腕を使っても到底運べない量を持たされるところだったことを知ると少女の執事である少年は苦笑した。

2016-07-06 22:01:21
シャオイー(小伊) @applex002

「もうすっかり夏だもの。暫く外には出辛くなるし、洋服ばっかりそんなに買い込んでも仕方ないわ」 アルビノとして、神秘的なまでの白さを持って産まれた少女は真上に佇む宿敵を睨みつける。 「あなたと一緒よ、クリス」 もう一度くるりと傘を回すと、隣に並んだ執事をその中へと招いた。

2016-07-06 22:12:20
シャオイー(小伊) @applex002

一緒。少女の言葉に執事は頷いた。ヴァンパイアに噛まれた日から徐々に吸血鬼へと変貌することを定められた自身を買い取り、執事という仕事をくれた少女。わがままで高飛車な主人とも長い付き合いとなる今日日、彼女が日の元で辛いのはお互い様なんて優しい事を言う時は、恐らくこう言いたいのだろう。

2016-07-06 22:21:48
シャオイー(小伊) @applex002

『すみません、ぼくも疲れちゃったので少し休みませんか?』 「あら、もう疲れたの?だらしないわね。まぁ良いわ、仕方がないからこの先の公園で休憩しましょう」 ほら、大正解。あくまでぼくに合わせるていで仕方なく休むことを了承した主人はほっと息を吐いていた。

2016-07-06 22:27:08
シャオイー(小伊) @applex002

「でもほんっと情けないわね!ちょっと買い物に出た位で疲れるなんて、そのうち恋人ができてデートとかすることになっても頼り甲斐がなさ過ぎて振られるんじゃないかしら?」 公園に着き、木陰になったベンチに腰を下ろす主人の隣に荷物を置く。うん、口さえ開かなければ良い主人なんだけどなぁ。

2016-07-06 22:37:11
シャオイー(小伊) @applex002

『いえ、ぼくは良いんですよ。確かに疲れましたけど早く帰りたいのでしたら先を急ぎましょう!』 「な、なによ、もう座っちゃったから却下よ!」 思わぬ反撃に少女はムッと頬を膨らませる。結局は少女の方がはやく休みたかったのだ。 「ちょっと、なに微笑ましげに笑ってるのよ!!もう!!」

2016-07-06 22:46:45
シャオイー(小伊) @applex002

「それより、こんな炎天下の中にか弱い美少女を座らせて置く気?飲み物くらい買ってきなさいよ!相変わらず気が利かないわね!!」 『はいはい、すぐに買ってきますので大人しく座っててくださいね。知らない人についてっちゃダメですよ』 「クリス!!ちょっと!言い逃げしてんじゃないわよ!!」

2016-07-06 22:50:19
シャオイー(小伊) @applex002

くそ、最近普通に言い返すようになった執事に向かって叫ぶも笑いながら駆け出して行った背中は既に遠い。 「なによもう、子供扱いして。同い年の癖に」 一人残された少女ははぁ、とため息を吐いた。

2016-07-06 22:55:27
シャオイー(小伊) @applex002

一人になると人気のない公園はとても静かだった。木漏れ日からも逃れるために日傘は開いたまま。時折吹く風は生温く、何処かで気の早いセミが鳴いているのが聞こえた。 「あっつ……」 手持ち無沙汰の少女は行儀悪く足を延ばすと、くるくると日傘を回しては執事の帰りを待っていた。

2016-07-06 23:00:00
銃声 @hai_ena

@applex002 刹那──ガッ!! と、背後から伸ばされた男の手が、恐ろしい力で白い少女の鼻と口とを覆った。 その手は強力な薬を染み込ませた布地を当てがっており、3秒と数える必要もなく意識は途切れてしまうであろう。

2016-07-07 00:33:27
シャオイー(小伊) @applex002

@hai_ena 「ーーっ!!」 突然聞こえた背後からの声に驚いた少女が振り返るよりも先に姿の見えない相手の腕が気管を塞いだ。 マズい。 そう認識した瞬間には既に意識は途切れ、力の抜けた少女の腕がだらりと垂れ下がった。

2016-07-07 00:46:53

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