Even a chance acquaintance is decreed by destiny

偶然の出会いは運命による。 後に英雄となるハンターと、獣であることを望む人間の出会いもまた、運命か否か。
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Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

それは、ガリウスの予想に反した真摯な賞賛であった。気恥ずかしさから膝をこすり合わせてもぞもぞと悶えた。「だが」リカルドは鋭く目を細め、コトダマを紡いだ。「それは容易く瓦解する強さだ」「そんな事は…」「今回の狩りで、まずカトーが倒れ、そしてあのロビンも手酷くやられたんだろ?」 39

2018-06-23 10:56:01
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

まるで、その場でしかと見たかのような物言いであった。ガリウスは思わす問いを投げかける。「ど、どうしてそれを」「見ればわかる」リカルドは振り返り、ガリウスたちが戦っていた一本道を観た。 40

2018-06-23 10:59:00
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「薬莢が散乱している場所があった。そしてその近くに何かが転げた痕跡、焦げた地面…状況を推測するには十分だ」それは、実際見事な観察眼であった。わずかな痕跡のみで、リカルドは過去を正確に読み取ったのだ。ガリウスは改めて目の前の先達に感服した。「そ、それだけでそこまで…」 41

2018-06-23 11:02:00
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「観察はハンターの基本にして究極だ。少なくとも俺はそう信じている」リカルドはガリウスに向き直る。歴戦の青き瞳と、若き碧の瞳が視線を交わした。「お前たちは、3人でならもっとも強い力を出せるだろう。だがそれは、誰か一人でも十全に力を発揮できないのなら、瓦解する脆い力だ」 42

2018-06-23 11:05:01
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「狩りに絶対は無い。理想的な状況は一瞬で遠ざかる。基本的に俺たちハンターは不利な状況の中で戦っている。そんな中で、自分たちの理想的な戦い方でしか勝てないなら、遠からずお前たちは死ぬ」ガリウスはただブザマに打ちのめされた。彼の脳裏に過るのは昼間のイビルジョーとの戦闘だ。 43

2018-06-23 11:08:01
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

確かにカトーが離脱し、ロビンも打倒された後、己の動きは精彩を欠いていた。己だけでは、状況を打開する術を思いつけなかった。あの時、カトーが奇跡的に舞い戻ってこなければ、どれほどの惨劇が起こっていたのだろうか…! 44

2018-06-23 11:11:00
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

リカルドはガリウスの苦悶を知りながらも、尚コトダマを紡ぐ。「言わばお前たちの強さは、束ねられて折れぬ三本の矢のソレだ。一本ずつならば折れるしかない。これから先、ハンターとして頂に至ろうとするならばお前たち一人ひとりのカラテを研ぎ澄ます必要がある」 45

2018-06-23 11:14:00
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「最初に言ったが、お前たちは三人ならもっとも強い。なら、それを強くするなら個々の質を上げてやるのが一番だ」リカルドはそう言い、ガリウスを観察した。ガリウスは考え込んでいた。戸惑いが全身に表れていた。リカルドはそれを見、少しばかり苦笑した。 46

2018-06-23 11:17:01
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「まぁ、無理にスタンスを変えろとまでは言わんさ。お前さんは言わんでも強くなりそうだしな」「は、はぁ…」「だから、これだけは教えておこう。旧い言葉だ」 47

2018-06-23 11:20:00
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

リカルドは夜空を見上げた。ガリウスも釣られて見上げる。いにしえの時代より続く一瞬の瞬き。その連続が決して届かぬ彼方より、無数に輝いていた。その輝きの如く、リカルドはインストラクションを授けた。「観察し、己を調え、そして観察せよ」 48

2018-06-23 11:23:01
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「観察…」「それが道を拓く…お前さんなら、大丈夫だろう」リカルドは、ただ夜空を見上げていた。その眼は遠くへ、届かぬ何かへの憧れに駆られている。ガリウスはインストラクションを噛みしめ、握りしめた己の拳を見下ろした。授けられたインストラクションを、確かに血肉とするために。 49

2018-06-23 11:26:01
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

……二人は暫くそうして、いくつかの言葉を交わした。それは他愛のない会話であったり、さり気ないインストラクションであったり、下世話な話でもあった。やがて空も白み、鍋も空になる頃、リカルドは荷物を纏めて立ち上がった。 50

2018-06-23 11:29:00
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「さて、長居しちまったな」「あれ、どちらに?」「ああ、調べ物でな」リカルドは峻険たる山々を見上げ、険しい視線を空へ投げかける。「色々と確信は持てないが、何かが起こってるような気がしてな」「何か…?」「お前が知る事じゃないさ…お前さんには」 51

2018-06-23 11:32:00
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

リカルドはそう言うとアイテムポーチから何かを取り出し、ガリウスに手渡した。ガリウスはそれを受け取り、まじまじと見た。それは虹色の光沢を持った純白の鱗であった。触れた感触からあの濃灰色の結晶石と同質のアトモスフィアを感じ取る。リカルドは予言めいて言った。「ソイツが次の相手だ」 52

2018-06-23 11:35:01
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「えっ」「頑張れよ。ソイツに勝てるなら、お前さんらも晴れて英雄だ。吹雪の覇者みてぇな、な?」「英雄…ヴァルムや、リカルドさんみたいな?」「俺が、英雄?」リカルドは心底不思議そうな表情で聞き返し、やがて笑って言った。「俺は獣だよ。そこまで高尚なもんじゃない」 53

2018-06-23 11:38:00
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

それはガリウスにとっては理解しがたい不思議な言い回しであった。彼にとってハンターとは、英雄に近い者たちであったからだ。だから、思わずガリウスは問いかけた。「えっ、G級ハンターなのに?」「オイオイ、ハンターってのは職業さ。英雄になるかどうかは、巡り会わせと資質だ…」 54

2018-06-23 11:41:00
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「しつこく言うが、お前たちは強い。だから、機を逃すんじゃねぇぞ」リカルドはガリウスの肩を乱暴に叩いて激励すると、背を向け、ヒラヒラと手を振りながら歩き出した。ガリウスはその背に向け、畏まって一礼した。登りゆく陽の光が二人の男を照らす。リカルドが振り返る事は無かった。 55

2018-06-23 11:44:01
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

――――それ以来、オレはあの人と再会することは無かった。狩場でもギルドでも、あの蒼黒の甲冑を目にすることは無かった。あの人は死んだのだろうか?不思議と、そんな気はしなかった。きっとどこかで、狩りを続けているのだろう。

2018-06-23 11:47:00
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

まるで、気まぐれな神様が仕組んだ運命じみた偶然の出会いだった。けど、確かに貰ったものが、この胸に息づいている。なら、この教えを確かな形にするために、オレは自分を研ぎ澄ます。次にまた運命じみた偶然がやって来た時に、笑われるのは癪だから―――

2018-06-23 11:50:00
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「Even a chance acquaintance is decreed by destiny」おわり

2018-06-23 11:51:00
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