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Even a chance acquaintance is decreed by destiny

偶然の出会いは運命による。 後に英雄となるハンターと、獣であることを望む人間の出会いもまた、運命か否か。
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Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

そうして座り込んで焚火を囲み、しばし無言が続いた。焚火の中心で、金属鍋が湯気を立てている。リカルドは兜を脱ぎ、イビルジョーの亡骸に視線を注いでいる。ガリウスは所在無さげに身じろいだ。 14

2018-06-23 09:41:01
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

想像していただきたい。然して会話を交わしたことのない、数日前に出会ったばかりの、己の先達と二人きり。並の精神の持ち主では、まず気後れするであろう。リカルドはイビルジョーから視線を外し、鍋の蓋を取った。 15

2018-06-23 09:44:00
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

鍋が開かれ、まず白い湯気が噴出し、遅れて旨味の溢れる匂いがガリウスの鼻腔を刺激する。鍋の中身に目をやれば、乳白色と緑色のスープ。「んん?煮過ぎたか?」リカルドは首をかしげながら籠手を外し、道具箱の一つを開く。中から出てきたのは、見るからに堅そうな頑固パンだ。 16

2018-06-23 09:47:00
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

リカルドは頑固パンを無造作に4つに千切り、鍋の中に放り投げた。突然の異物に困惑するかのように、スープは波立つ。リカルドは別の道具箱からレドールを取り出し、スープをゆっくりと掻き混ぜた。乳白の海の中で、緑の群れが回り踊る。 17

2018-06-23 09:50:00
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

リカルドはレドールを引き上げ、わずかにスープを口に含んで味を確認する。「んー、いい塩梅か」得心がいったと言わんばかりに頷き、深皿を2枚取り出してスープを取り分けた。そしてガリウスへ視線を向け、「ほれ」とスープの入った皿を突き出した。 18

2018-06-23 09:53:00
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

ガリウスは驚いて、スープとリカルドを交互に見た。「えっ、いいんですか?」「いらねぇのか?」リカルドがそう尋ねると同時に、グルグルと地鳴りのような腹の音がガリウスから響いた。リカルドはニヒルに口角を釣り上げ、ガリウスの手にスープを押し付けた。 19

2018-06-23 09:56:00
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ほれ食え。匙もやるから」「は、はい…いただきます…」ガリウスは畏まりながらスープをひと掬いし、口に含んだ。まず、ミルクの優しい口当たりとほのかなブイヨンの旨味が口に広がる。ふた掬い。くたくたになるまで煮込まれた葉菜は、齧る度に深く染み込んだスープの味が染み出してくる。 20

2018-06-23 09:59:00
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

三度、今度は沈み込んだ頑固パン。「石のように固い」謳い文句のこのパンも、中からスープに浸されればそれなりの歯ごたえだ。小麦の風味とミルクの甘み、スープそのものの塩味が絡み合い、絶妙な旨味を醸し出す。 21

2018-06-23 10:02:00
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

四度、五度、六度。ガリウスは黙々と掬い続け、気が付けば皿からスープは消えていた。「ふぅ」「いい喰いっぷりだ」リカルドは満足げに笑い、身を乗り出してガリウスから空いた皿をひったくり、再びスープをよそって皿を押し付けた。 22

2018-06-23 10:05:01
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「俺自慢の薬草とケルミルクのパン粥だ。入れてるのはその辺に生えてた薬草と、雪山草。あとオニオニオンだな。いやぁ、今朝方買っておいたブイヨンが予想以上に旨い。この味はもう出せんな」「へぇ…凄いですね。G級ハンターで、料理もできるだなんて」 23

2018-06-23 10:08:00
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

ガリウスは素直な感想に対し、リカルドは不思議そうに首を傾げる。「そうか?」「そうですよ。俺なんて、狩りをするので精いっぱいで。彼女一人もできやしませんよ」「ふぅん」リカルドは特段の興味を示さずスープを啜る。「俺は、そうだな…飯も自分で作る必要があったからな」 24

2018-06-23 10:11:01
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「そうなんですか…?」「ああ。昔から狩場に入り浸ってたからな」リカルドは懐かしむように炎を見つめ、言った。「俺の専門は、長期間の狩猟地の調査でな。昔はあちこちの狩場に顔を出したもんさ」「リカルドさん、もしかしてギルドの専属ハンターとかだったりします?」 25

2018-06-23 10:14:00
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「いや、そんな大層なもんじゃない。人手が足りないところに上手く入り込んでただけさ」「へぇ、なんだか商人みたいっすね」ガリウスは誉め言葉を述べた。リカルドは、一瞬目を見開き、そして眉を顰めた。「ああ…うん、そうかもしれんな」「リカルドさん?」「いや、何でもねぇよ」 26

2018-06-23 10:17:00
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

リカルドは頭を振って、何かを振り払う。やがて彼は自身を強いるように笑った。「まぁそんなもんでな。俺は街で暮らすよりも狩場にいる方が長いんだ。色々とテメェで出来るようにしなきゃならなかったのさ」「それを続けて、G級ハンターに?」 27

2018-06-23 10:20:01
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「切欠は確か、豪山龍を撃退戦に参加したからだったか…まぁギルドに出し続けたレポートも評価されてたな…すまんな、お前さんらの参考にはならなさそうだな」「いえ、そんな」ガリウスは畏まった。少しでもG級ハンターになる為のヒントを得ようと思っていたが、悟られていたか。 28

2018-06-23 10:23:00
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

リカルドは特段気分を害した様子もなく、スキットルを取り出して酒を呷った。「まぁ俺はかなり特殊な例だ。普通のハンターがG級に上がろうってなら…まぁ危険度の高いクエストを成功させることだろうな」「やっぱりそうですか」 29

2018-06-23 10:26:00
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「今回の狩りでだいぶ目が見えたんじゃないか?何せこいつは『限りなく極まった』奴だしな」そう言って、リカルドはガリウスの手を取り、何かを握らせた。手を開き、ガリウスはそれを見た。それは濃灰色の小さな結晶石であった。焚火に照らされ、妖しい光が幾重にも瞬いた。 30

2018-06-23 10:29:00
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

小指の先ほどしかない小さな石から禍々しい力の奔流を感じ取り、ガリウスは恐れるように結晶石をポケットにしまい込んだ。「恐れるのも無理は無い。俺もそれが奴から出てきたときはビビったしな」リカルドはイビルジョーの骸を一瞥し、笑った。ガリウスはその行動の意図は理解できなかった。 31

2018-06-23 10:32:01
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「しかしまぁ、実際御伽噺みたいじゃないか。邪悪な竜から人々を護る。吟遊詩人が好みそうな題材だ。あの『吹雪の覇者』に並ぶんじゃねぇか?」「えっ、俺がヴァルムに…?」「あン?ヴァルム?」リカルドは聞きなれない名前に首を傾げた。ガリウスは泡を食って黙りこくった。 32

2018-06-23 10:35:01
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

数瞬の気まずい沈黙が場を支配する。やがて、リカルドは納得したように頷いた。「成程、『吹雪の覇者』のモデルと知り合いか」「いや、モデルと言うか」「言うか?」「そ、そのもの…」「………えっ、あれ事実なの?」ガリウスは頷いた。 33

2018-06-23 10:38:01
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

数瞬黙り込み、リカルドは口元に手を当て、ガリウスを視線のみで問いかけた。ガリウスは頷いた。腕を組み、唸るリカルド。彼は悟った。吟遊詩人が好んで語っていた英雄譚が、事実の類であったことに。「マジか…あれ事実か…」「はい」「ヤベーな」「はい」「憧れか」「はい!」「そうかい」 34

2018-06-23 10:41:00
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

リカルドはガリウスの迷い無き目を見て、優しく微笑んだ。やがて、顎に指を添えて思案した。「しかしそうなると、やはりお前さんらには気になる点があるな…これからG級に上がるならな。ガリウスはその言葉を聞き、正座姿勢を取り、居住いを正す。 35

2018-06-23 10:44:00
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

読者の皆様はご存知ではないだろうが、ハンターにとって他のハンターが得た知識や経験とは黄金に値する価値を持つ。時として情報の交換にクエストクリア報酬並の大金が動くことも珍しくはない。 36

2018-06-23 10:47:01
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「知らぬ故に死ぬ」と言う古文書に記される有名なコトワザが示す通り、古来より狩りを生業にする者にとって、知ることとは己の得物に次ぐ第二の武器であった。それ故に、上位のハンターが下位のハンターへ授けるインストラクションは極めて特別な意味を持つのだ。 37

2018-06-23 10:50:01
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

リカルドは顎を指で擦りながら考えを纏める。リカルドはガリウスの碧眼をよく観察し、そして口を開いた。「お前たち3人は良くできている」「えっ」「俺も長いことハンターやってるが、あそこまで統率した動きのできる3人パーティーてのは中々いない。実際、見事なもんだ」 38

2018-06-23 10:53:00
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