「フォビドゥンフォレスト3話「蝶舞の町内」 #6「帰り道」
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車を停車させると、俺と兄ちゃんだけで一人暮らしの婆ちゃん家に向かった。頼まれたものは猫缶と線香、床をコロコロやるやつの替芯だけだ。俺だけでも持てる程度だが、兄ちゃんがいねぇと混乱するだろうからな。つまり兄ちゃん一人で済む仕事な訳で、俺達はタダで載せて貰ったも同然だ。 19
2017-01-24 00:45:45俺達が呼び鈴とともに呼ぶと、すぐに返事があったんで中に入って商品を渡した。 「いつもありがとうねぇ…おや今日は春夏くんも一緒なの」 「名前はやめてくれよ…ちょっと載せてもらうついでにな」 「あら、そうなの…ああ、そうだわ。この前、息子が来てくれた時のお土産でも」 20
2017-01-24 00:54:14「あ、いや気持ちだけで…」 言いかけた俺を兄ちゃんが片手でやんわりと制した。 「お土産ってお菓子とか?」 「ええ、なんて言ったかしら神戸のほうの…」 「そりゃ良い。コイツこれから子供会に顔を出すそうだから、差し入れに良いかも」 「あ!それはちょうど良かったわね」 21
2017-01-24 01:03:05あ二人は家の奥に向かって3分ほどして出てきた。デカ目の紙袋に入った菓子は確かに婆ちゃん一人じゃ大変そうだ。礼を言って車に戻ると時計は24分。1・2分で着くとは言えマジでギリだ。 「はる君、そういうのは断ったら逆に失礼だよ?」 遅れた理由を瑠梨に説明すると、そう返された。 22
2017-01-24 01:09:25「そうだけどよ…」 「まあ、差し入れを持ってったら遅れても許してくれるだろうし、子供達がお礼を言いに来るついでに遊びに行ったら、お婆ちゃんも喜ぶ。それで良いじゃないか」 「…そんなもんか」 「今度は約束の前は、バスの時間に気をつけようね」 「おう」 兄ちゃんは車を出した。 23
2017-01-24 01:13:24婆ちゃん家の敷地を離れて、道路に出た。車の加速が30キロに達する。 「うぉっ!?」 急ブレーキだ! 「きゃっ!?」 「瑠梨!」 兄ちゃんは短剣を持った左手で瑠梨を庇い、俺は右腕で瑠梨の腹の辺りを抑え、左手で短刀を握った。前を見るとガラスに何か黒いものが張り付いて…? 24
2017-01-24 01:17:28「エイジ!?」 「桐くんの…クワガタじゃないか?」 そこにいたのは、俺の仲間、コルリクワガタのエイジだった。どうやらショックで意識が飛んでるようだ。並のクワガタならそもそもくたばってもおかしくねぇところだが、こいつらは鍛え方が違う。 「どうしてこんな所に!?」 25
2017-01-24 01:21:03俺と森に行った奴の生き残りは僚勇会の中で、他は俺の秘密基地で面倒を見て貰ってた筈だ。それに仕事でもなきゃ真冬に外を出歩く奴らじゃない。俺は車を降りてエイジを拾って揺さぶってみる。 「おい、しっかりしろ。おい!」 命に別状はねぇと思うが、打ちどころが悪かったのか反応が薄い。 26
2017-01-24 01:28:44「って痛っ!」 俺の頭に何かがぶつかって来た。見えねぇが重さと感触で分かる。ルリクワガタのタカシだ。腹と鋏をを打ち鳴らしている。コイツは…! 「桐くん!」「はる君!」 俺がそう思うのと同時に警報音が鳴り、瑠梨達が叫んだ。間違いねぇ、妖怪の反応だ!町中に出やがった! 27
2017-01-24 01:30:29瑠梨が勢い良く開けたドアに俺が飛び込むと、ドアを閉め切る前に幸川の兄ちゃんは車を飛ばした。瑠梨は霊波観測機のナビ音声を補足する形で指示を出してる。俺はドアを閉めると、備え付けの通信機で本部に連絡を取った。異常検知の時点で一報は行ってるけどな。 28
2017-01-24 01:36:27俺は窓を開けてタカシを出すと、俺達と同じ進行方向を先導し始めた。間違いねぇ、知覚の優れたエイジが妖怪に気付いて、足の速いコイツと駆けつけたんだ。その時点で本部隊員に教えてくりゃ話は早かったんだが、俺以外と直接会話は出来ねぇから仕方がねぇ。俺が本部にいりゃ良かったんだ! 29
2017-01-24 01:40:30「はる君…っ!」 「ああ、分かってる。後悔すんのは後だ…!」 「違うよ…!前…!」 「え…?…っ!!?」 兄ちゃんが車を止めた。ここは10年くらい前に越してった小金持ちが風科に寄贈した児童館代わりの施設…子供会の会場だ。 車を降りると、妙な匂いを感じた。 30
2017-01-24 01:44:50すぐには思い出せねぇが、どっかで嗅いだことのある妖怪の臭い…人体に影響がある奴だ…少なくとも良い影響な訳はねぇ…。 「……っ!」 俺は肩の高さの鉄柵を一跳びで越えた。開く間が惜しい! 「待つんだ!桐くん!」 玄関を勢い良く開けて靴のまま廊下を走った。 31
2017-01-24 01:49:57「新司!乃愛!ガキどもぉっ!」 玄関から廊下を一度曲がって、二部屋分走れば、大広間だ。奥にはデカいベランダに繋がるガラス戸があり、日の当たりにくい位置にはピアノもある、学校の教室並みのデカい部屋だ。久々とは言え見慣れた筈の道が妙に長い。震える両手で広間の扉を勢い良く引いた。 32
2017-01-24 01:54:51そこに妖怪はいなかった。俺の視界にまず映ったのは、夕焼けが照らす割れたガラス戸。突き刺すような風が吹き込んでくる。床には壊れた劇の小道具。倒れた椅子や散乱する楽譜。そして倒れた子供達と…新司。 33
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