「フォビドゥンフォレスト３話「蝶舞の町内」 #13 「地上班」
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（前回までのあらすじ：俺は姑獲蝶への先回りに成功した。攫われた４人は生きてるが、奴は何故か透明になっている上にここは地上５０ｍ。助け出すのは簡単じゃねぇ。俺は刃と煙幕で奴を足止めし、塗料とビーコンを浴びせた。この間に地上に狙撃班とクッション材が到着した。こっからが本番だ！）
2017-02-08 23:58:04
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狙撃部隊の配備は完了したが、まだ攻撃に移ることは出来ない。片桐や子供達を避けて蝶だけ撃てる者は１人や２人ではないが、撃った後どうなるか分かったものではない。子供達が落ちた時に、クッションを動かして受け止めるのは容易ではないし、受け止めたところで無傷で済むかも怪しい。 1
2017-02-09 00:10:07
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事態発生と同時に行われたシミュレーションでは５０ｍからの落下でも命は守れるという結果になったが、風向きや落ち方次第だが無傷では済まない可能性のほうが高い。クッション以外にもいくつか受け止める手段は用意されているが、いずれも落ちてしまった時の保険でしかたい。 2
2017-02-09 00:18:23
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現在の地上班の任務は、落下時の対処の他に３つ。蝶が逃走を図った場合、行く手に弾幕を張って牽制することと、片桐の援護、そしてこれから実行する作戦である。もう５分程で事態を打開できる能力者が到着すると連絡があったが、それを待ってばかりはいられない。子供達は衰弱している筈だ。 3
2017-02-09 00:27:44
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狙撃手のうち９名が同型のライフルを構える。実体のない魔力弾を撃ち出すプルートと呼ばれる狙撃銃だ。彼らは蝶の上方１０メートル辺りを狙って３名づつ３度に分けての攻撃を行うべく銃を構え、煙幕が十分に晴れるのを待つ。 「撃て！」 ３発の光弾が薄煙を貫き、鱗粉の範囲外から空を昇る。 4
2017-02-09 00:39:15
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魔力弾は目標空点で円形に広がり、そこから蝶の頭上へと散弾のごとく炸裂した。一般に魔力弾は実弾より威力が落ちるが、実体がない為、軌道や形状を自在に操れるという利点がある。また魔力の純度を上げて物理的な威力を落とし、常人には殆ど無害にしてある。それでも威嚇には充分だった。 5
2017-02-09 00:43:39
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蝶は雨の如き弾幕を逃れようと前方の東へ突進するが顔面に分離刃の峰打ちを受けて怯む。身を翻して北に転回すると行く手を地上からの雨が阻む。今度は魔力を付与した実弾による射撃である。まともに当てれば姑獲蝶は今ので倒されていたが、無論、わざと当たるように撃ったのである。 6
2017-02-09 00:50:40
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西や南へ向かっても行っても同じ様になった。そこへ上空からの２射目が降り注ぐ。今度は少し威力も上げてある。四方と頭上を塞がれては下降するしか無い。蝶は高度３５メートル辺りまで急降下し、そこから再度南下を試みる。 「止めろ！」 地上班は南へ火力を集中する。 7
2017-02-09 00:54:06
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「くそっ」 狙撃を終えたばかりの南側の隊員が急いで装填を行う。実弾狙撃班の主力の銃マーキュリーは型によって装弾数３発か６発であるが、今しがたの狙撃で第一射の担当はそれを殆ど撃ち尽くしていた。当てない弾だからこそ出し惜しめば付け込まれるからだ。 8
2017-02-09 01:00:52
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勿論、いわゆる三段撃ちの要領で実弾銃の班も２～３波に分かれてはいたが、同じ方角に連続で来られると僅かに弾幕が薄くはなる。姑獲蝶に銃の構造や装弾数までは分かりはしないだろうが、「技後」の概念くらいはあるのだろうか。 9
2017-02-09 01:07:58
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眼前の弾幕を後ろ宙返りで回避した姑獲蝶は別の方角へ転回する…と見せかけて三度南へと突進した。 「っの野郎！」 南側部隊が三度弾幕を張ろうとした寸前、一斉狙撃に参加しない遊撃班の狙撃が東から蝶の顔面を浅く抉った。続いて西や南、直下からも同様の実弾や魔力弾が浅く命中する。 10
2017-02-09 01:15:20
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事情を知らなければ直撃させる気だったとしか思えない程の至近弾。流石に強行突破を諦めたらしい蝶は地面に側面を見せる軌道で中央へ取って返す。そこへ頭上からの魔力弾幕の第三波と四方から至近への狙撃が襲いかかる。蝶は力を失ったように更に５ｍほど降下する。 11
2017-02-09 01:20:47
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「やべ！」 「当てちまったのか！？」 そう思わせるほどの落ち方だった。 『まだです！片桐くんが言っています！』 麻衣が警告する。彼女は情報整理の為、片桐とのやり取りを一手に担っているのだ。その片桐は自由落下を利用しながら魔力弾の残滓へと突っ込んでいく。 12
2017-02-09 01:31:33
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「皆！歯ぁ食いしばれ！」 乃愛と子供達に警告を発すると体を丸める。 「…おらぁっ！」 そして飛び蹴りを放つ！落ちると見せかけての急上昇を試みた蝶の頭に蹴りが叩き込まれ、蝶はバランスを崩して本当にふらりと落ちていく。蝶の高度は２５ｍから更に下がっていく。 13
2017-02-09 01:38:04
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「急げ！」 高所作業車は蝶の真下へと急行する。作業台より広いクッションの中央に不安定な姿勢で待機する３人は、頭上を見据えながら蝶に跳びつく準備をする。周囲のトラックや樹上でもワイヤーガンやネット弾など蝶の拘束や子供達を受け止める準備を始める。やがて車は蝶の真下に追いつく。 14
2017-02-09 01:44:43
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蝶の高度は地上２０ｍ。台からは５ｍ上。彼等の身体能力なら跳んで届く。一同が身構えたその時、蝶の羽がピクリと延びる。体が徐々に浮き始める。体制を立て直そうというのか！？ 「させるか！」 柳原は跳躍し、鞭を振るう。彼の腕なら岩を引き裂くことも子供を無傷で引き寄せることも自在だ。 15
2017-02-09 01:52:42
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今だに蝶の本体…そればかりか蝶が掴んでいる子供達も透明で、その上から塗料が掛かっている。人数は数えられるが、高校生の乃愛を除けば小学生３人のどれが誰かまでは分かりにくい。ましてや良く見る余裕などなかった。 「てやぁ！」 一番手近にいた子供を捕らえている脚を粉砕する。 16
2017-02-09 01:58:10
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「…！！」 声にならない悲鳴を上げて、子供が落下する。 「その子をお願いします！」 「分かった！」 その子供が弟であるかも確認せぬままに郡田に任せ、自身は片桐が寄越した刃を足場に二撃目を放つべく跳躍した！蝶は再び２５ｍ付近に上がっているが、足場のお陰でなんとか届く！ 17
2017-02-09 02:02:16
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正にその時だった。 「避けろおおおおっ！！！！」 地上３０ｍ付近で蝶を待ち構えていた片桐が声帯を破らんばかりの怒声で叫んだ。次の瞬間、高所作業車が浮いた。周囲のトラック、道路両脇のガードレールや細い樹木も浮き上がり、折れ曲がり、或いは倒れていく。 18
2017-02-09 02:05:30
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助け出された少女を咄嗟に抱き抱えた郡田は、落下しながら西側の数十ｍ先にいるソレを見た。この３０分近くの間、データ上では何度も確認した姿が、一匹目は透明だったその姿が見えた。あれこそが姑獲蝶の二匹目。透明個体のつがいにして今だ存在が未確定だった目標Ｂに違いなかった。 19
2017-02-09 02:09:32
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次の瞬間、猛風が吹き荒れた。アスファルトが捲れ上がり、作業車が横転、トラックもガードレールや電柱、樹木に叩きつけられた。隊員達は各々身を守り、少なくとも死者や重傷者はいない。車が他の車や人に直撃しなかったのが幸いだった。目標Ｂの急襲に備えて車両間隔を開けておいたお陰だろう。 20
2017-02-09 02:16:14
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そう、つがいの危機に目標Ｂが文字通り特攻してくることは想定していた。その上でのこの被害だが、索敵や迎撃の担当を責める者は殆どいなかった。何せ姑獲蝶の最高速度は過去の記録では最大で時速３００キロ程度の筈だったが、この個体は明らかにその２倍以上の速度で突撃してきたのだから。 21
2017-02-09 02:20:29