【トラスト・ザ・オリガミ・オブ・ホープ】#3

オリガミシリーズの最終話。マサヨシはオリヅルの形状から、あの少女のことを思い出す。
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赤い方の蟹 @kaori6113

【トラスト・ザ・オリガミ・オブ・ホープ】#3

2017-02-13 23:04:36
赤い方の蟹 @kaori6113

(これまでのあらすじ:窮地を脱し、無事に父の名誉を回復してオリガミ作家に復帰したマサヨシ。彼を逃がしてくれた飛ぶオリヅルを眺めているうち、彼の意識の底に眠っていた記憶が浮かび上がる。それは、1人の少女との出会いだった)#kani

2017-02-13 23:07:54
赤い方の蟹 @kaori6113

「その祝いヅルが気になるのかい?あの日、マサヨシはオリガミサンプルの入ったガラスケースを熱心に眺める少女に話しかけた。「それは私のオリジナルバージョンなんだ」「尾が、とてもキレイです。レースみたい」女の子はおずおずと答える。#kani

2017-02-13 23:09:02
赤い方の蟹 @kaori6113

「折り方、教えようか」「エッ、いいんですか」女の子の顔が明るくなった。「ただし、ほかの人にはナイショだよ。いつか、これを使った作品を作りたいと思ってるからね」マサヨシは薄紅のワ・シを2枚取り出し、十字と斜めに折り筋をつけると、1枚を女の子に渡した。#kani

2017-02-13 23:10:40
赤い方の蟹 @kaori6113

彼は女の子に教えながら、ゆっくりと、祝いヅルを折りあげていく。最後に尾を開くと、束ねられたレースのような、細かいヒダの尾が生まれた。少女は折り方を覚えるため、いくつもの祝いヅルを折り始めた。その真剣な横顔を、マサヨシは微笑んだまま眺めていた。#kani

2017-02-13 23:11:38
赤い方の蟹 @kaori6113

「今日、初めてあの子がオニギリを食べてくれたの」妻は児童館の休憩所にあるテーブルに、ユノミを2つ置いた。「第一関門突破というところね」「オイオイ、あんまり1人の子を贔屓しちゃダメなんだぞ。仕事なんだから」マサヨシはチャを啜る。「分かってるわよ」#kani

2017-02-13 23:13:16
赤い方の蟹 @kaori6113

妻は休憩所で児童館にやってくる子供たちに軽食を提供している。「明日は一緒にゴリラを折るの。あれなら簡単ですって」「ずいぶんな入れ込みようだな」マサヨシは新聞を手に取った。「何か心配なことがあるのか」「それがねぇ」妻は言い淀む。「なんだ、女の直感て奴か」「茶化さないでよ」#kani

2017-02-13 23:13:47
赤い方の蟹 @kaori6113

妻は頬に手を当て、首を傾げた。「身なりもきちんとしてるし、礼儀正しいし、でも、いつも人と距離を置いてるのよ。まるで、自分が関わることで相手が不幸になるのを恐れてるみたい」「なんだそりゃ」マサヨシは新聞を眺めたまま答えた。「とにかく、あんまり世話を焼きすぎるなよ」#kani

2017-02-13 23:15:43
赤い方の蟹 @kaori6113

「あなた、どうしよう」妻はカウンターに肘をつき、両手で顔を覆っていた。「なんだ、どうしたんだ」「包丁よ」彼女はまな板の包丁を指差した。「ごはんを作っている時にあの子が来たから、包丁を持ったまま迎えたの。あの子、凄い悲鳴をあげて、震えて。何も言わずに逃げ出したの」#kani

2017-02-13 23:16:49
赤い方の蟹 @kaori6113

妻の声は震えていた。「きっと怖かったんだわ。もう来ないかもしれない」「落ち着けよ」マサヨシはその背中をさすった。「きっとまた来るさ、な」マサヨシは噛んで含めるように言った。「あんなにオリガミが好きなんだから」#kani

2017-02-13 23:18:59
赤い方の蟹 @kaori6113

マサヨシはうたた寝から目を覚ました。ニュースは終わり、画面はオスモウTVに変わっている。「そうか、あの子か」思わず呟いた。「何で気が付かなかったんだ」手元の祝いヅルを見て、笑う。「ネオサイタマに来ていたのか」#kani

2017-02-13 23:21:01
赤い方の蟹 @kaori6113

それはキョートにオリガミ児童館を立ち上げたときのことだ。しばらく、彼が館長を務めた。見学に来た子のなかで、後日足繁く通ってきた女の子がいた。その子にマサヨシは、自らが考案した祝いヅルの折り方をこっそり教えてやった。#kani

2017-02-13 23:22:19
赤い方の蟹 @kaori6113

あの「包丁の事件」以来、女の子は児童館に来なくなった。妻は仕事の合間に、彼女を探して近所の路地を歩き続けた。そしてまもなく、通り魔に刺されて死んだ。#kani

2017-02-13 23:24:36
赤い方の蟹 @kaori6113

ほどなくして、白い千羽ヅルが届いた。その一つに、「ゴメンナサイ」とだけ書かれていた。彼女が妻のために作った弔いのオリガミだと、マサヨシにはわかった。#kani

2017-02-13 23:26:08
赤い方の蟹 @kaori6113

あの少女が今、オリガミを使って闘っている。妻が知ったら、どう言うだろう。何か、助けてやれないかと思うに違いない。あいつはそういう奴だったからな。 思いを巡らしているうちに、マサヨシは一つのアイデアを考え付いた。#kani

2017-02-13 23:27:38
赤い方の蟹 @kaori6113

「ホントに覚えがないの、アータ」ザクロは両手を腰に当てて、ヤモトを見た。「相当な量よ、これ」絵馴染の店内に積み上げられた段ボールの山を見る。「女性に贈るプレゼントとしては、まぁ、アレだけど」#kani

2017-02-13 23:29:25
赤い方の蟹 @kaori6113

段ボールの中身は大量の白いワ・シ。1箱ずつ材質が異なるらしく、箱には「原料はガンピ。虫害に強く、保存性が高い」「コウゾ。ねりを改善、強度が高い」といった説明書が入っている。「恐ろしく軽いわね。特別仕様ってとこ。ワ・シ職人に知り合いは?「いない」ヤモトは首を振る。#kani

2017-02-13 23:30:37
赤い方の蟹 @kaori6113

「こっちは黒いワ・シよ。白いのを包むのにちょうどいい大きさ」ザクロは1つずつ箱を改める。中にオリガミの祝いヅルが1つ。「レースの尾みたい。こんなの初めて見たわ」開くと、メッセージが書かれていた。#kani

2017-02-13 23:32:21
赤い方の蟹 @kaori6113

「先日は助けてくれてありがとうございました。使ってもらえると嬉しいです。オリガミのオジサンより」「アッ!」ヤモトは小さく叫んだ。「怪しげなオジサンじゃないでしょうね?」「違うよ」思わず微笑む。#kani

2017-02-13 23:32:41
赤い方の蟹 @kaori6113

「そうか、あの人、オリガミのオジサンだったのか……」ヤモトは祝いヅルを折りなおし、カウンターに置いた。「古い知り合い?」「ウン。キョートにいた頃の」「そう」ザクロはそれ以上問わなかった。彼女は腕を組んだ。#kani

2017-02-13 23:33:36
赤い方の蟹 @kaori6113

「これ、使えるわね」ザクロはヤモトに言った。「軽くて持ち運びもできるし、あちこちにまとめて置いておけば、闘っている間にオリガミがアウト・オブ・アモーになっても速やかに補給できる」ザクロは「サンプル」と書かれた黒いワ・シに白いワ・シの束を一つ載せた。#kani

2017-02-13 23:34:57