10周年のSPコンテンツ!

Shuichi Wanibuchi氏「真面目にトランプを歴史で考えたい人は『反知性主義』以外のホフスタッターの著作もちゃんと読んでほしい」2017年2月2日

「トランプの一連の発言、少なくともエスタブリッシュメントや排外主義についての発言や先の大統領令は、ホフスタッターが抉り出したポピュリストの世界観やパラノイア型政治にぴったりとあてはまる」
人文
1
Shuichi Wanibuchi @ShuichiWanibuch
1大統領就任式以降のトランプの一連の発言や行動について、アメリカ史を学ぶ身として、アメリカ史のなかにどう位置づけて理解すればよいのか、どうにもモヤモヤ考えてしまって本業に集中できないので、ここに思うことを書き散らして心落ち着かせたいと思う。
Shuichi Wanibuchi @ShuichiWanibuch
2選挙キャンペーン中はムスリムや不法移民に対するトランプの過激な発言は、人気=票を集めるための計算されたパフォーマンスの一部だと思っていた。リアリティショーで鍛えられたと言われる、大衆の秘められた願望や欲望を察知して代弁する能力を利用した、本心とは別の計算されたアピールなのだと。
Shuichi Wanibuchi @ShuichiWanibuch
3おそらくある一定数の識者は心の底ではこうした希望的観測を抱いていて、もし大統領になれば現実政治のしがらみの中でトランプは変わるだろう、少なくとも発言の一部を引っ込めざるを得ないだろう、というメディアで見られた推測的発言を支えていたと思われる。少なくとも自分はそう思っていた。
Shuichi Wanibuchi @ShuichiWanibuch
4しかし、不法移民による数百万の不正投票があったという発言をどうやら本気で信じているらしいことや、イスラム教徒は潜在的なテロリストであるという信念にもとづいた大統領令Muslim Banを目の当たりにして、現大統領はパラノイアに取り憑かれているのではないかと考えるようになった。
Shuichi Wanibuchi @ShuichiWanibuch
5パラノイア、つまりメキシコからの不法移民やイスラム教徒がアメリカの「法と秩序」を脅かす脅威であるという半ば陰謀論的な世界観を本気で信じているのでなければ、就任後(今からすれば就任前から)のトランプの発言や行為は説明できないものになってしまっているように見える。
Shuichi Wanibuchi @ShuichiWanibuch
6少し話が飛ぶが、こうしたパラノイア的世界観がアメリカ政治史には断続的に現れると論じたのが、先年森本先生による反知性主義の紹介で一躍その名を知られたリチャード・ホフスタッターだった。トランプを反知性主義論で理解しようとする見解も散見されるが、ここで取り上げる彼の議論の特徴は、
Shuichi Wanibuchi @ShuichiWanibuch
6(続)『反知性主義』よりも『改革の時代』(1955)やThe Paranoid Style in American Politics (1964)といった著作により明快に示されている。(ちなみに英語の公共圏でも、ホフスタッターの議論をトランプに適用する試みはちらほら見られる。)
Shuichi Wanibuchi @ShuichiWanibuch
7ホフスタッターは今日ではコンセンサス史学の代表と見られているが、1950年代のマッカーシズムの集団ヒステリアの衝撃は、彼をアメリカ政治史に見られる、不安や怒りといった感情に突き動かされる情動的性質の探求へと向かわせた。反知性主義研究は、むしろその派生物と見るのが妥当である。
Shuichi Wanibuchi @ShuichiWanibuch
8『改革の時代』では世紀転換期のポピュリズムと革新主義に着目し、農民や都市民を改革運動や排外主義に向かわせたのは、政財界のエスタブリッシュメントの腐敗への不満や陰謀論であり、彼ら自身の圧迫された生活や地位の不安に出来する強迫観念であったとして、両者に負のエネルギーの充満を見出す。
Shuichi Wanibuchi @ShuichiWanibuch
9The Paranoid Styleでは、アメリカの保守運動に噴出する陰謀論的な世界観(「パラノイア型」)を、建国期の反フリーメイソン運動から1960年代の極右運動まで跡づけ、通時的に描き出した。それはあたかもアメリカのデモクラシーが不可避的に生み出す副作用のようである。
Shuichi Wanibuchi @ShuichiWanibuch
10もちろん、現在の学界ではホフスタッターのポピュリズムや革新主義の解釈というのは過去の学説に過ぎない。しかし、今日から見て、ホフスタッターは歴史家である以上に、丸山やアーレントがファシズムと対決したように、マッカーシズムと対決した思想家であった。
Shuichi Wanibuchi @ShuichiWanibuch
11トランプの一連の発言、少なくともエスタブリッシュメントや排外主義についての発言や先の大統領令は、ホフスタッターが抉り出したポピュリストの世界観やパラノイア型政治にぴったりとあてはまる。もちろん彼の理論がトランプ現象の全てを説明するわけではないが、理解の手がかりにはなるだろう。
Shuichi Wanibuchi @ShuichiWanibuch
12要するに、真面目にトランプを歴史で考えたい人は『反知性主義』以外のホフスタッターの著作もちゃんと読んでほしい、ということでした。というわけで、みすず書房は『全体主義の起源』もよいけれど、ぜひこのタイミングでポピュリズム論の古典として『改革の時代』を復刊してほしい。
Shuichi Wanibuchi @ShuichiWanibuch
ホフスタッターの"The Paranoid Style"、邦訳はされていないものの、原文はここで公開されている。単行本版でも40ページ弱の比較的短い論考。 harpers.org/archive/1964/1…

(参考1)
山形浩生氏によるホフスタッター『アメリカの反知性主義』(みすず書房)書評
「山形浩生の「経済のトリセツ」2015-08-20」
http://cruel.hatenablog.com/entry/2015/08/20/185544
「ぼくの知っている「反知性主義」というのは、決して悪いものではないからだ。「バカ」の言い換えなどではない。もっと積極的な価値観だ」

(参考2)
「先年森本先生による反知性主義の紹介で一躍その名を知られたリチャード・ホフスタッター」
→山形浩生氏による森本あんり『反知性主義: アメリカが生んだ「熱病」の正体 (新潮選書)』書評
山形浩生の「経済のトリセツ」2015年8月23日
http://cruel.hatenablog.com/entry/2015/08/23/210630

コメント

コメントがまだありません。感想を最初に伝えてみませんか?

ログインして広告を非表示にする
ログインして広告を非表示にする