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風見SS与太話3 -るなかわるなか-

身内ネタ次元艦これSS
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白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

<<ヒトマルヒトマル 1F コンコース 五十鈴>>

2019-01-08 23:00:51
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

1.「全く、余計な事で時間を食っちゃったじゃない」 皆と別れて単独行動になった五十鈴は、先程入り口で半ば押し付けられるように入手したRUNAONポイントカードをぶっきらぼうにポケットへねじ込み、掲示されていたフロアマップに目を走らせる。 正直この10分のロスは彼女にとっては手痛い。

2019-01-08 23:01:27
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

2.「(あった)」 フロアマップで店の位置を確認し、彼女は目的地のある方角へと急ぐ。 「(うぅ~、まだ大丈夫かなぁ)」 今日の特例での外出にあたって、鳶のメンバーは各々買いたいものを事前に思い浮かべていた。普段を離島で過ごす彼女達にとって、これはまたとない嗜好品入手の機会だ。

2019-01-08 23:03:17
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

3. そして、彼女―五十鈴の場合、それは『甘味』であった。 舞鶴で生活していた頃はアイスやケーキなどよく食べたものだったが、今となっては物資が大変貴重な環境で暮らす身。それに、配給品を何とかやり繰りして監獄島の食生活を支えてくれている鳳翔に我儘を言う訳にもいかなかった。だが。

2019-01-08 23:04:36
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4.「(そりゃ、あたしだってガマンばっかりじゃ人並み……いや、艦娘並み?……にストレス溜まるし)」 彼女の場合、舞鶴勤めの頃との落差が非常に激しいため、正直に言えば内心辛く感じていたのだ。故に益々この機会は逃したくない。 「(買ったものが後々形として残らないとかカンケーない)」

2019-01-08 23:06:18
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5. 足早にモール内を進みながら、五十鈴は左手に小さく力をこめた。 「(今日は食べるの!……体重とか、その、気にせずに!)」 菓子屋、カフェ、ドーナツ屋。魅力的な店を横目に彼女はモール内をずんずんと進んでいく。其方は後回しだ。今の彼女には一つ明確な目標がある。

2019-01-08 23:07:15
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

6.「うわ、やっぱり並んじゃってる」 最後の角を曲がると、目的の店『鹿屋甘味』の看板と人だかりが目に飛び込んできた。ぱたぱたと小走りになって、彼女は最後尾につく。 「もうっ、最初に呼び止められなければもっとマシだったのに」 待機列からちらりと顔を出し、彼女はショーケースに目を向けた。

2019-01-08 23:08:41
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

7.「むむ……」 目を皿にしてケースの中を見やれば、そこには今もまさに背がちびていく『ぷれみあむ塩餡饅頭(おひとり様二つまで)』の小高い山。自分の前に並んでいる人々の目的が皆一様にあの饅頭だとして、自分の番が回ってくるまで品切れずに残っているだろうか。 「微妙なセンね……」

2019-01-08 23:10:37
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

8.『鹿屋甘味』は、今世間でなにかと話題になっている甘味屋である。 元は鹿屋にあったごくごく普通の個人経営の甘味屋であったが、えすえぬえすに投稿された写真を切っ掛けに火がつき、2代目がここRUNAONに2店舗目を構えたのだそうだ。 名物商品はブームの切っ掛けとなった塩餡饅頭の限定版である。

2019-01-08 23:12:50
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

9.「しかし、ブームが起きた事によって塩餡饅頭はいつも完売御礼。このように並ばねば手に入らなくなってしまうとは誤算でした」 「そうね、いつも店主さんの手で丹精込めて作られているから……どうしても数が限られ、て……」

2019-01-08 23:15:16
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10. 饅頭の山に集中していたせいで真後ろに並んだ人間と自然に話を合わせてしまった五十鈴だが、その「声」が記憶に到達するとたちまち顔をひきつらせた。 ちらーりと饅頭から目線を自分の斜め後ろにずらしていくと、そこには黒髪を飾り気無く後ろで束ねた、裁着姿の、片目の色が違う、少…女…

2019-01-08 23:17:36
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11.「かかか、鹿屋の死神ィ!!?」 五十鈴が慌てて振り向くと、そこには彼女同様に目を皿にして列の先の饅頭の山を見やる、鹿屋のリカルド提督直属の艦娘 吹雪の姿があった。 「公共の場ですよ。そのように大声を出さないでくれますか」

2019-01-08 23:19:28
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

12.彼女は『鹿屋の死神』と異名が付く強者であり、五十鈴とは監獄島での演習や先の秋刀魚漁作戦においてちょっとした(因)縁がある。 「あんた……どうしてこんなところに?」 「甘味屋の列に並んでいるのです。甘味を買う以外の理由がありますか」 若干の苛立ちを見せながら、吹雪はにべもなく答えた。

2019-01-08 23:21:24
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13.「ウカツでしたね……今日は開店時間に合わせて真っ先にここに来る予定でしたのに、道中で深海棲艦の活動の痕跡を見つけてしまうとは」 つまり、先程まで交戦という名の寄り道をしていて到着が若干遅れたという事なのだろうか。意味不明な情報の波に、五十鈴は頭を抱えた。

2019-01-08 23:24:22
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

14.「ちょっと」 「ひっ!?」 唐突に吹雪に声を掛けられ、五十鈴は我に返った。我に返るついでに、体は条件反射で彼女の近接格闘に対応すべく身構えていた。彼女に刻み付けられた水雷カラテの脅威は、なんだかんだ根深い。 「列が進んでいます。ちゃんと前に詰めないと迷惑でしょう」

2019-01-08 23:25:28
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

15. 彼女の存在に気を取られている内に、列は数人分前に進んでしまっていた。気付けば、吹雪の後ろに並んでいる人々の視線もちょっと痛い。 「あ……スミマセン……」 五十鈴は慌てて前に並んだ人との間隔を詰め、溜息をつく。 「(とんでもない奴に会っちゃったわ……それにしても)」

2019-01-08 23:26:52
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

16. 目の端で後ろの吹雪の様子を伺ってみる。列の先にあるショーケースを見つめる表情は割と真剣なように見えた。 「(塩餡饅頭好きなのかな。少し、いや、かなり意外)」 世間にはギャップ萌えという言葉もあったな、という考えが浮かんだが、演習で食らった魚雷の記憶がそれを綺麗に吹き飛ばした。

2019-01-08 23:28:32
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

17. 五十鈴がそうして悶々としている内にも列は店主のレジ打ちで効率よくさばかれていき、彼女達の前に並んでいる人数はあと10人前後となっていた。しかし、大きかった饅頭の山も相当にちびてしまっている。 「(ぱっと見た感じギリギリ手に入るか入らないか……お願い、残っててー!)」

2019-01-08 23:30:21
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

18. 後5人、4人、3...2...1......そして遂に五十鈴の番がやってきた。レジへと進み出ると、ショーケースの中に『ぷれみあむ塩餡饅頭』は……どうやら残っている! 「(よしっ!)」 これには心の中でガッツポーズを決めた。早速注文しなくては。 「すみません、このー」

2019-01-08 23:31:14
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

19. 注文しかけて、お目当ての饅頭を指したところで彼女は凍り付いた。 人差し指の先、ぷれみあむ塩餡饅頭は確かに残っていた。残っていたが。 『2個』だけ。

2019-01-08 23:32:37
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

20. ごくり。五十鈴は生唾を飲みこんだ。 …彼女の脳内回路が急速稼働し状況整理を始める。 先ず、このぷれみあむ塩餡饅頭はおひとり様2個まで購入可能である。次に、今日の饅頭はどうやら2個しか残っていない。そして、数秒前より背後からなんだか『冷たい空気が叩きつけられてきている』。

2019-01-08 23:34:54
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

21.「(落ち着け、冷静になれ、なるの、私。あらゆる情報を統合して、今私がするべき最善の行動を割り出すの)」 この瞬間、五十鈴の思考速度は注文すべき最善な饅頭の個数を決定するため、最新鋭のモンスターPCのデータ処理速度の如く極限まで最適化され高速化されていた。

2019-01-08 23:36:55
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

22. 正直に言えば、2個と言いたい。私は死神よりも早く並んでいたし、店のルール的にもおひとり様2個までなのだから当然私には2個買う権利がある。それにこの機会を逃せば次にいつこんな特別な甘味にありつけるか分からない。 だが、そのために発生する敵の強大さが饅頭の重さと釣り合わない。

2019-01-08 23:39:43
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

23. かといって、ここまできて別の、塩餡饅頭以外の品物を注文するのはナンセンスだ。それは無い。ここまで来てその選択をするのは私のプライドにも関わる。敗北だ。0個は無い。となれば1個か2個だ。後ろの死神に喧嘩を売るか恩を売るか、優越感を得るか安全を得るか、命を懸けるか懸けないか…

2019-01-08 23:41:31
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

24.1個、2個、1個、2個、1個、2個、1個、2個、1個、2個、1個、2個、1個、2個、1個、2個、1個、2個、1個、2個、1個、2個、1個、2個、1個、2個… 頭の中で1と2が高速回転し、冷汗が湧き、歯軋りが出て、空気は冷たくなり、涙が零れ、周囲のお客は後ずさり、店主は119番すべきかで目を泳がせた。

2019-01-08 23:44:27