悠久なる世界の欠片 第二部

エクスとメルフィアの物語。 不定期 & 虫食い 連載
0
前へ 1 2 ・・ 6 次へ
夢乃 @iamdreamers

その客が入ってきたのは、四人が、取った宿の一階にある食堂で遅めの昼食を摂っているときだった。 「いらっしゃいませ~。空いている席にどうぞ~」 丁度扉の前を通るところだったウェイトレスが脇へ避けて、入ってきた大柄な男に明るく挨拶した。 #twnovels

2016-03-13 23:01:41
夢乃 @iamdreamers

「おう。ねえちゃん、悪いね。一番量の多い定食を頼むわ」 男は太い声で言った。その声を聞いた途端、女性陣二人が反応を示した。ミルティアは思わずと言った感じで入口から顔を背けるようにした。長い黒髪が顔を隠すように流れ落ちる。 #twnovels

2016-03-13 23:02:16
夢乃 @iamdreamers

反対に、メルフィアは声のする方を見て、小さく声を上げた。 「あ、ガイナン」 名前を呼ばれた男はメルフィアに顔を向け、そしてその隣にいる女性に気付いた。 「お、ミルティアさん。こんなところで逢えるとは、やっぱり運命だな」 #twnovels

2016-03-13 23:02:32
夢乃 @iamdreamers

男はそう言うと、ずかずかと四人のテーブルに近付いてきた。 「ガイナン、私には何もなし? 失礼ね」 メルフィアが拗ねてみせる。 「メルフィアちゃんだっけ、いたのか」 「本っ当に失礼なんだから」 男はガハハと笑い、カウンターから背もたれのない椅子を持ってきた。 #twnovels

2016-03-13 23:02:48
夢乃 @iamdreamers

「よう、あんちゃん、そこ空けてくんな」 ミルティアの隣に座っていたクラシスに、男─ガイナン─は言って、手に持った椅子を無理矢理間に押し込み、座り込んだ。椅子がギシギシと音を立てる。クラシスは迷惑そうな顔をしたが、黙ってエクスの方へ少し身体をずらした。 #twnovels

2016-03-13 23:03:03
夢乃 @iamdreamers

「あのおっさん、知り合い?」 エクスは隣のメルフィアに小声で尋ねた。 「うん、まぁ、知り合いと言えば知り合いかな。逢ったの今日でまだ三回目だけど」 「へぇ」 エクスはガイナンと呼ばれた男を観察した。身長はクラシスと同じくらいか。けれど、横幅は倍以上ありそうだ。 #twnovels

2016-03-13 23:03:32
夢乃 @iamdreamers

背中に大剣と、布に包まれた何やら大きな荷物を背負っている。その筋肉は服の上からでも充分に鍛えられていることが見て取れる。 (へぇ。クラシスとどっちが強いかな) 食事を進めながら、エクスはそんなことを考えていた。 #twnovels

2016-03-13 23:03:52
夢乃 @iamdreamers

ガイナンはそんなやり取りには気付かぬように、ミルティアに話しかけていた。 「なぁ、ミルティアさん、頼む! 俺と一緒になってくれ」 「そのつもりはないわよ」 どうやら、ミルティアを口説いているらしい。 (ミルティアさんも変なのに絡まれて大変そうだな) #twnovels

2016-03-13 23:04:11
夢乃 @iamdreamers

ウェイトレスがガイナンの注文した定食を持ってきた。 「おまたせしました。カルーア肉の味噌煮込み定食です。・・・あの、お客様、お背中のお荷物を下ろして戴きたいのですが」 ガイナンはがははと笑った。 「すまんね、姉ちゃん。だけどこいつを下ろすわけにいかなくてね」 #twnovels

2016-03-13 23:04:29
夢乃 @iamdreamers

「・・・まぁいいですけど、他のお客様の邪魔にならないようにしてくださいね」 ウェイトレスはそれだけ言って去っていった。 「それでミルティアさん、どうしても駄目か?」 ガイナンは、やってきた食事に手を延ばしながらも、まだミルティアに絡んでいる。 #twnovels

2016-03-13 23:04:48
夢乃 @iamdreamers

「あのねぇ、前も言ったけれどあなたと私じゃ十も歳が離れているのよ。いくらなんでも離れすぎでしょう」 「歳なんて関係ないって俺も言っているだろ。なぁ、少し考えるだけでも」 「考える余地無しよ。そもそもあなた、私の好みから掛け離れているのよ」 #twnovels

2016-03-13 23:05:05
夢乃 @iamdreamers

綺麗な顔に似合わず、ミルティアも酷いことを言う。それだけガイナンにうんざりしているということか。 「それにね、この間あなたと別れてからこっちにも変化があったのよ」 ミルティアはお茶を飲みながら言った。 「何、どういうことだ?」 #twnovels

2016-03-13 23:05:23
夢乃 @iamdreamers

ガイナンが食事の手を止めて気色ばんだ。 「私にもいい人ができたってこと」 そう言いながらミルティアは、意味ありげな視線をクラシスに送った。(魔女だ・・・)思わず、エクスはそう一人ごちた。 #twnovels

2016-03-13 23:05:43
夢乃 @iamdreamers

ガイナンは激しく反応した。 「何? こいつが?」 一瞬クラシスに向けた目をミルティアに戻して言う。ミルティアはそ知らぬ顔で何も言わずにお茶を飲んでいた。 「おい、貴様」 ガイナンがもう一度クラシスを振り向いたとき、彼は最後の一口を口に含んだところだった。 #twnovels

2016-03-13 23:06:00
夢乃 @iamdreamers

「貴様がミルティアさんのいい人だってのか?」 「それよりも食事を進めたらどうだい? 折角の食事が冷めるぞ?」 ガイナンが入ってきてから一言も話していなかったクラシスが初めて口を開いた。 「なんだと? 馬鹿にしてるのか?」 #twnovels

2016-03-13 23:06:16
夢乃 @iamdreamers

そう言うとガイナンは椅子を蹴って立ち上がり、クラシスを上からねめつけた。クラシスの方はそんな視線など何ほどにも感じていないように、落ち着いた風情のままでいる。 「そんなつもりはないけれどな。気に障ったらすまん」 「こいつ・・・」 #twnovels

2016-03-13 23:06:32
夢乃 @iamdreamers

ガイナンの顔が紅潮した。 「それなら決闘だ。負けた方がミルティアさんから手を引く。どうだ?」 「それはいいから、さっさと食事を済ませたらどうだ? 腹が減っていたから負けました、なんて言い訳は聞きたくないな」 「この野郎・・・」 #twnovels

2016-03-13 23:06:48
夢乃 @iamdreamers

「お客さん、喧嘩なら外でやってくださいよ。店のものを壊したら弁償してもらいますからね」 ガイナンが今にもクラシスに殴りかかりそうな様子のところへ、店のカウンターから声がかかった。 「ガイナン、大人気ないね」 メルフィアも言う。 #twnovels

2016-03-13 23:07:09
夢乃 @iamdreamers

「うぐ」 ガイナンの顔は真赤になったが、それで暴れ回るほどの馬鹿ではないらしい。 「喰い終わったら立ち会えよ」 捨て台詞のようにクラシスに言うと、ガイナンは蹴った椅子を引き寄せて座り、食事をすごい勢いで掻き込み始めた。 #twnovels

2016-03-13 23:07:28
夢乃 @iamdreamers

対するクラシスは(面倒な奴に絡まれたな)という顔でお茶をすすっている。焚きつけたミルティアはと言えば、そ知らぬ顔で、これもお茶を飲んでいる。 「あいつって、いつもあんな感じ?」 エクスはまた小声でメルフィアに聞いた。 #twnovels

2016-03-13 23:07:51
夢乃 @iamdreamers

「う~ん。そうね。思い込みやすいっていうか。悪い人じゃないんだけどね~」 「まぁ確かに、悪人には見えないかな。鬱陶しくは見えるけど。ミルティアさんのあんな顔、初めて見たよ」 エクスはガイナンが入ってきたときの、それに結婚を迫られたときの彼女の顔を思い出した。 #twnovels

2016-03-13 23:08:17
夢乃 @iamdreamers

メルフィアはくすくす笑った。 「うん、母さん、あんな感じでいつも暖簾に腕押しなんだけど、さすがにうんざりしているみたい」 「今日でまだ三回目なんだろ? よっぽどしつこいんだな」 #twnovels

2016-03-13 23:08:37
夢乃 @iamdreamers

目の前でそんな会話が交わされていることを知ってか知らずか、ガイナンはあっと言う間に食事を食べ終えた。最後にコップの水を一息に飲むと、音を立てて立ち上がった。 「さぁ、行くぞ。決闘だ」 クラシスはやれやれという感じで立ち上がった。 #twnovels

2016-03-13 23:08:55
夢乃 @iamdreamers

テーブル脇に立てかけた剣を取って腰に差しながら言う。 「仕方ないな。それで気が済むのなら、相手してやるよ」 それを無言で睨みつけると、ガイナンはクラシスに背を向けて出口に向かった。後ろから斬り付けるような卑怯な真似をするならやってみろ、という態度だ。 #twnovels

2016-03-13 23:09:15
夢乃 @iamdreamers

クラシスも後に続く。それを見て、エクスも急いで椅子から立ち上がった。 「俺も見てくるよ」 「あ、それじゃ、私も。母さん、いいでしょ?」 メルフィアのねだるような視線にミルティアは溜息を吐いて答えた。 「好きになさい。私は先に部屋に行っているから」 #twnovels

2016-03-13 23:09:34
前へ 1 2 ・・ 6 次へ