「フォビドゥンフォレスト3話「蝶舞の町内」 #17 「作戦案」(エピローグ)

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フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

俺は病室の入り口にいた新司の家族に挨拶してから、中に入った。姑獲蝶から乃愛達を守ろうとして跳ね飛ばされた新司は打撲のほか、骨の数カ所にヒビが入った。恐らく戦闘員を含めた中で一番の重傷だろう。治療促進効果の術式が仕込まれたベッドに横になっている。1・2日で全快見込みらしい。 19

2017-02-22 23:17:19
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「ゴメンな…片桐…」 「気にすんな。今度は俺がノート取っとくからよ。今日は水曜だし、月曜から出ろよ」 「そうじゃなくてさ…俺、乃愛達を守れなくて…」 「何言ってんだ、4人助けるだけでどんだけ大変だったと思ってんだよ」 「…ゴメンッ…!」 腕に湿布を巻いた右手で目を押さえた。 20

2017-02-22 23:32:58
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「泣かした」 そう言った朝来を久浦が後ろへ引っ張る気配がした。男の涙を指摘すんじゃねぇよ。 「待て新司、勘違いすんなよ?責めてるんじゃねぇぞ?」 「え?」 俺は思わず溜息を付いちまった。 「あのな、姑獲蝶はその気になりゃ脚の数だけガキを捕まえられんだよ。つまり7人な」 21

2017-02-22 23:43:24
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「7人も抱えてたら、姑獲蝶の野郎、絶対途中で1人2人落としてたぜ」 実際は速度と高度は下がって逆に助け易かったかも知れねぇが、それは言わねぇでおく。落とされる危険のほうがデカいのは確かだしな。 「要するに、お前が抵抗しなかったら死人が出てたかもってことだよ、な?おっさん」 22

2017-02-22 23:51:17
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「呼ばれたようだから、失礼させて貰うよ」 俺に声を掛けられた篠森のおっさんが扉を開けて入ってきた。久浦達は脇にどいてる。 「まず、僚勇会の代表として一般人を危険に晒したことをお詫びさせて貰います」 おっさんは深く頭を下げた。 「あ、いえ…」 新司はゆっくり身を起こす。 23

2017-02-22 23:59:07
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「痛っ…」 「おい、無理すんな」 「そのままにして下さい。…その上で、君のお陰で犠牲を出さずに済んだこと、同じく代表として、風科の住民として感謝します」 僚勇会の代表にして、風見市の市長が再び頭を下げる。新司は声を押し殺して両手で顔を抑えた。俺達は先に部屋を出た。 24

2017-02-23 00:06:07
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暫くして出てきたおっさんは俺達のも軽く頭を下げてきた。 「君達も本当に済まないね…次から次へと…」 「いえ」 「へいき」 「おっさんの方が大変だろ…大丈夫か?」 「うむ。指揮は任せきりだからね。子供の命に関わることであるし、頭くらいは私が下げなくては」 25

2017-02-23 00:12:52
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おっさんは僚勇会の指揮や運営は部下に市長業をやってる筈だが、中々楽にならねぇらしい。ガキどもの親は風科の裏を知ってる奴らばかりじゃねぇ。何故妖怪の存在を隠していた、そっから責められるかも知れねぇ。最終的に記憶を消すとは言え、一度ちゃんと説明するのが僚勇会のやり方だ。 26

2017-02-23 00:19:35
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一般人が妖怪事件に巻き込まれた場合はすべてを説明し、その上で転居を希望するならその世話をして、それから記憶を消す、それが基本ルールだ。元々事情を知ってる新司と乃愛の家なんかはともかく、他は引っ越す家も出てくるだろう。そういう意味でも被害はデカいよな…。 27

2017-02-23 00:22:36
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22時。僚勇会執務室。 佐祐里と涼平が訪れていた。 「すみません、お忙しい時に」 10家族以上への謝罪を終え、月曜のバケグモ事件の調査と、今日の姑獲蝶事件の報告を受けたばかりの篠森には流石に焦燥の色が見えた。このタイミングで訪れるのは心苦しかったが、やむを得ない。 28

2017-02-23 00:32:06
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「いや…フフッ…すまない。構わないよ」 篠森は口元を抑えながら、まずは涼平の報告を受けた。と言っても手書きのレポートを渡して、例の器具の分析データは担当者に預けた旨を伝えただけだ。佐祐里はそれがただの地形調査データではないことは察していたが、詳細は知らないし、聞かなかった。 29

2017-02-23 00:38:04
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「ありがとう。だが次を頼むとして、もう無理はせず早めに帰ってきてくれ。我々も心配だし…君も…ククッ…身に染みただろう」 「申し訳ありません。コツは掴みましたので次は上手くやります」 「本当に肝に銘じてくださいよ」 「ああ」 「叶音ちゃんにはちゃんと埋め合わせするんですよ」 30

2017-02-23 00:44:30
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「ああ…これで丁度10回目だが、後何回言えば良い?」 「今日のところはこれでおしまいです」 「これも取っていいか?」 額に手を掛ける。 「まだ駄目です」 「取ってあげてくれ…クッ…」 篠森が笑いを堪える。佐祐里が罰として涼平に着けた巨大蝶リボンは彼の腹筋を確実に蝕んでいた。 31

2017-02-23 00:50:00
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佐祐里は不満げな表情を浮かべたものの、彼女らの司令官が予想以上にダメージを受けているのに気付くといそいそとリボンを解いた。篠森は深呼吸をして呼吸を整えると、濃い目のコーヒーで一息付いた。 「私の方も早めに終わりますから、ちゃんと寝てくださいね」 「…善処するよ」 32

2017-02-23 00:54:11
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佐祐里の要件は数枚の用紙にカラー印刷されたプレゼン用の資料だった。簡潔ながら手の込んだ出来は、明らかにこの数時間で用意したものではない。そして一見、今日の事件とは関係の無い、森の奥に戦闘用拠点の砦を作るための計画だった。 「元々、『彼』の帰還に合わせて考えていた計画です」 33

2017-02-23 01:06:43
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「なるほど、それを利用して『釣り』をしようと言うことかね」 「はい。何もなければ、砦が出来て終わりです。資材の運搬が失敗したとしても損失は出ないようにしていますし、その場合は行軍試験兼、運用テストということでどうでしょう?」 「どう転んでも無駄にはならない、ということか」 34

2017-02-23 01:10:25
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「ええ」 篠森は暫し考えてから首を縦に振る。 「基本的に問題はないだろう。シフトや機材の確認までして貰ってはね」 「今日はもう帰って、詳細だけ後で送ってくれるかね」 「もう副司令補佐に送ってありますので『明日』ご確認をお願いします」 「いや…」 「あ・し・た、お願いします」 35

2017-02-23 01:17:44
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「ハハッ…それじゃあ仕方ないね。分かったよ」 2人は挨拶をして後ろに下がり、退出前に頭を下げる。ワンテンポ早く頭を戻した佐祐里は手早く涼平の頭に先程のリボンを結び直した。 「…ひ…卑怯だよ…佐祐里くん」 「では、失礼します」 「…失礼すぎるぞ佐祐里」 36

2017-02-23 01:21:33
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2人が去った後、篠森は再び呼吸を整える。この期に及んで仕事、という空気でも無くなってしまった。素直に眠る前に、体を伸ばして急ぎの承認事項だけ片付ける。パソコンを止める前に今日の報告書を見返す。その中の写真数枚には、街の東側で見つかった、冷凍トラックの空コンテナも写っていた。 37

2017-02-23 01:27:59
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同時刻、片桐は眠る準備をしていた。診察を無事に終えた彼は1時間前に秘密基地に戻り、クワガタ達にエサをやっていた。本来なら夕方と早朝にやるところだが、今日は疲れたので2回分をまとめて、朝は瑠梨を起こせるギリギリ前に起きる予定だった。 38

2017-02-23 01:32:56
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布団を敷いて風呂に入る。トイレと一体型の狭い作りだが、前に使っていた研究者が風呂好きだった為、この狭い飼育小屋に何とか導入したものだ。体を洗って浴槽に入ると…背後の壁から気配を感じた。片桐は反射的に動く。 「ふげっ」 突如出現した愛衣の顔面に情け容赦無い肘打ちが炸裂した。 39

2017-02-23 21:23:18
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両手で顔を押さえた愛衣が液晶パネルから、にょろりと出てきた。片桐は製麺機から押し出された麺か勢い良く生まれ過ぎたカマキリの幼虫を連想した。 「痛った~何をするんだダーリン」 天井を向いてするりと水面を進む。 「通報すんぞ。ピンクなのは髪だけにしとけよ愛衣」 40

2017-02-23 21:33:20
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「面白い。私が髪以外にも色々ピンクなことを思い知らせてガボゴボガボボ」 「最低過ぎる…!」 水面に浮かんだまま、丈の合わぬ白衣を開けるようとする愛衣。片桐はその顔面を掴むと、足側の壁に向けて押し込む。当然、顔は水中に沈む。水面に浮かぶ泡が消えてから三十秒待って顔を開放する。 41

2017-02-23 21:41:29