紅い瞳と白き巨神

第一部、完。 リクエストがあったら続きを書くかも。 なくても、忘れた頃に書くかも(^^) 続きを読む
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夢乃 @iamdreamers

セクスリーや大人達が知っていることを、カナテは知らないらしい。 「お前も知らないのか。もう十六になったんじゃなかったっけ?」 「うん、ひと月ほど前に」 「まだひと月か。なら、知らなくても不思議じゃないな。そうだなぁ、後で教えてやるよ。それより」 #twnovels

2017-03-03 14:14:12
夢乃 @iamdreamers

セクスリーはイーリャに向き直った。 「さっきの答えがまだだけど。大長老様のところには行かなくていいのか?」 「お昼過ぎてからでいいって。あんまり陽が傾く前に来るように、とは言われてるけど。家でご飯食べてから行くつもり」 「そうか。大長老様によろしくな」 #twnovels

2017-03-03 14:14:40
夢乃 @iamdreamers

「うん。・・・さてと、結構時間も経っちゃったし、あたしはそろそろ上がるけど、二人は?」 「俺は練習これからだから」 「そう言えばイーリャとの手合いしかしてないっけ。私ももうちょっと舞っていくつもりだから、相手をしてしんぜよう」 「そりゃどうも」 #twnovels

2017-03-03 14:15:03
夢乃 @iamdreamers

「じゃ、あたし先に上がるね。そうそう、カナテ、午後の年少組の相手、よろしくね」 「任せなさい。昼過ぎれば、他の連中も来るだろうし、問題なし。大長老様に私のこともよろしく言っといてね」 「うん」 イーリャは、剣を仕舞うと汗を流すために踊場を後にした。 #twnovels

2017-03-03 14:15:34

3.後継者

夢乃 @iamdreamers

いつもは舞踏場で昼食を摂るイーリャも、今日は午後のために一度家に帰ることにしていた。同じように珍しく家で昼食にした両親と一緒に家族団欒を楽しんだ後、もう一度身を清めてから大長老の家へと向かう。今朝、両親から贈られた誕生日プレゼントの服を身に付けて。 #twnovels

2017-03-06 21:43:50
夢乃 @iamdreamers

上に外套を羽織るから街の人達には見てもらえないけれど、それは仕方がない。 大長老の家は、街の中央の神殿のすぐ近くにある。舞踏場に行くよりも近い。扉の前に立って軽く叩くと、待つほどもなく内側から開かれた。顔を見せたのは大長老の側付きの一人、セレアだった。 #twnovels

2017-03-06 21:44:14
夢乃 @iamdreamers

「イーリャね。大長老様も待っているわ。さあ、どうぞ、入って」 促されて、扉の内に入る。扉が閉まると、外の光はまったく入ってこなくなった。灯りは、天井に設置された照明だけ。イーリャの部屋のように、この家には窓がない。 #twnovels

2017-03-06 21:44:44
夢乃 @iamdreamers

外套を脱いで上着掛けに掛け、フェイスヴェールと色眼鏡も取って、棚に置いた。 「あら。素敵な服ね」 セレアがイーリャの服に気付いた。 「えへ。新しいの。お父さんとお母さんからの誕生日プレゼントだよ」 #twnovels

2017-03-06 21:45:10
夢乃 @iamdreamers

イーリャは照れながらも得意そうに、セレアの前で右脚を軸にして身体を一回転して見せた。服の袖と裾、それにイーリャの軽くウェーブのかかったプラチナブロンドの髪がフワッと広がる。照明の光を反射して、服と髪がきらきらと煌く。 #twnovels

2017-03-06 21:46:18
夢乃 @iamdreamers

「うふ。イーリャの髪とお揃いになってて、本当に素敵ね。あ、そうそう、これは先に言わなくちゃいけなかったわね。お誕生日、おめでとう」 「うん、ありがとう」 それからロングブーツを脱いで、セレアの用意してくれた柔らかい布のサンダルに履き替え、奥へと入る。 #twnovels

2017-03-06 21:46:45
夢乃 @iamdreamers

「大長老様、イーリャが参りました」 先導したセレアが広間の手前で触れを告げると、薄いカーテンを広げてイーリャを手招いた。促されるままに中に進む。中央に低いテーブルの置かれた広間の中、つい先ほど起き上がったらしい大長老がテーブルの向こうに胡座をかいていた。 #twnovels

2017-03-06 21:47:22
夢乃 @iamdreamers

もう一人の側付きのユリテーナが、白い大判の肩掛けを大長老に掛けている。 「イーリャ、よく来たね。ま、座りなさい」 「はい。失礼いたします」 イーリャは一礼するとテーブルの手前まで進んで、床に敷かれた絨毯の上に、大長老と向かい合う位置で胡座をかいた。 #twnovels

2017-03-06 21:47:57
夢乃 @iamdreamers

いつの間にか姿の見えなくなっていたセレアが、盆にグラスを二つ載せてやってきた。それを大長老とイーリャの前に置いてから、大長老の後ろにユリテーナと共に控える。 「誕生日おめでとう。最近はどうだね。舞の稽古は毎日続けておるかね」 #twnovels

2017-03-06 21:48:50
夢乃 @iamdreamers

「ありがとうございます。はい。今日もお昼前は舞ってきました」 「結構結構。儂の耳に届いている話では、上達振りもなかなかだとか」 「いえ、あたしなんて、まだまだです。あ、でも今日はセクスリーと非公式の手合いをして、勝ってきました」 心持ち得意げに語るイーリャ。 #twnovels

2017-03-06 21:49:47
夢乃 @iamdreamers

「ほう。セクスリーといえば、今年の初めあたりに武闘の師範代になったのではなかったかな」 「はい、そうです」 「それを打ち負かすとは、なかなかのものだ。・・・そう言えば、何年か前にもセクスリーを負かしておらなんだか?」 老いても、記憶力はしっかりしているようだ。 #twnovels

2017-03-06 21:50:18
夢乃 @iamdreamers

「はい、二年前くらいに。でも今日は前の時ほど簡単ではありませんでしたけれど」 「師範代ともなれば、以前のような負け方はできまいて」 大長老は声をたてて笑う。 「あ、そうそう、セクスリーと、それからカナテも、大長老様によろしくお伝えするように言っていました」 #twnovels

2017-04-22 13:28:57
夢乃 @iamdreamers

「ふむ、そうか、カナテも一緒だったか。相変わらず、仲は良いようじゃの」 「ええ、もちろん」 大長老はまた笑い声を上げると、会話を切って、イーリャに負けず劣らずの白い手でテーブルの上のグラスを手に取り、中身を一口 口にした。ゆっくりとそれを元の位置に戻す。 #twnovels

2017-04-22 20:33:25
夢乃 @iamdreamers

それから、イーリャと同じ紅い瞳を向けて話し始めた。 「いつまでも雑談をしているわけにもいかんな。今日、お前を呼んだ用件に入るとするか。しかし、儂がくたばる前にこの日を迎えられて、本当によかったよ。これでやっと、肩の荷を下ろせる」 #twnovels

2017-03-06 21:52:18
夢乃 @iamdreamers

イーリャは思わず、『そんなこと言わずに、まだまだ長生きしてください』と口走りそうになったが、辛うじて堪えた。ほとんどの人は七十歳を迎えずに他界していくなかで、八十歳近く(確か、今年七十九歳のはず)になる大長老はいつ逝ってもおかしくない。 #twnovels

2017-03-06 21:52:43
夢乃 @iamdreamers

そんな人に『まだまだ長生きを』などという言葉は気休めにもならないのだから。代わりに、イーリャは別のことを口にした。 「と言うことは、今日のお話と言うのは、大長老様の御役目の何かを、あたしに引き継ぐということなのですか?」 #twnovels

2017-03-06 21:53:07
夢乃 @iamdreamers

大長老の役割を引き継ぐ。それは大役だ。イーリャは自分で言った台詞に気を引き締めた。尤も、大長老にはこれといった役割はない筈だった。長老が年老いて次代の長老にその肩書と役目を引き継いだ後、先代長老に敬意を表して“大長老”と皆が呼んでいるに過ぎないのだから。 #twnovels

2017-03-06 21:53:47
夢乃 @iamdreamers

「まあ、そんなところだがね。まずは順を追って話していこう。本題までにはちょっと長くなるが、時間は大丈夫だね」 「はい、今日はもう、夜まで空けてあります」 大長老の確認に、イーリャは首肯した。 「結構結構」 #twnovels

2017-03-06 21:54:10
夢乃 @iamdreamers

大長老はもう一度ゆっくりと冷たい飲み物で喉を潤すと、おもむろに話し始めた。 「イーリャ、街の中央、この家のすぐ脇にある神殿、いや、大きさからすればこの家が神殿の脇にあるわけだが、その神殿に何があるか、知っておるね?」 #twnovels

2017-03-06 21:54:38
夢乃 @iamdreamers

「はい。この街のエネルギー源となっているジェネレーターが納められている、と習いました。見たことはありませんけれど。家の照明も、オアシスからの水の汲み上げも、自動車も、みんなこのジェネレーターからのエネルギーで動いている、って」 #twnovels

2017-03-07 22:27:32
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