ザイバツ・シャドーギルド #7
(あらすじ:プラハの電子魔術インフラを簒奪し世界中の都市で殺戮を行うニンジャ「エゾテリスム」はサンズ・オブ・ケオスの一員であり、ニンジャスレイヤーは彼を殺すべく、ウキハシ・ポータルをもちいて現地に潜入した。エゾテリスムを危険視する現地のニンジャ、コルヴェットが彼を導く)
2017-03-17 22:06:27(無事プラハ城へ入り込んだニンジャスレイヤーとコトブキ、コルヴェットは、まずは黄金の小路に向かう……)
2017-03-17 22:09:39淡い色合いの小ぶりの家々が軒を連ねる黄金小路は、踏み入るなり、独特のにおいのする空気でニンジャスレイヤーを警戒させた。妙な感覚だ。予想していた規模感よりずっと広く、建物は通常の二倍の密度でひしめき合い、混沌としていた。『で?コトブキのそのオモシロ・ゴーグルか?』タキは憮然。 1
2017-03-17 22:14:39「壁には魔術的な文言がさまざまに書かれていますね。それから街路のあちらこちらに魔法陣。私にはその真意はわかりませんが」(わからんでもいい)コルヴェットが言った。(デジ・プラーグ2に必要以上にとらわれるべからず。必要なのは無限遠の隠し道のサインだ)『オレにはアクセスできねえぞ』 2
2017-03-17 22:18:56「黙っていろ」ニンジャスレイヤーが言った。タキはサポート役名目で電子的に同行しているが、その真の役割は、コルヴェットらの監視だ。詩人ニンジャや魔術ギルドの連中がエゾテリスムにニンジャスレイヤーを売る動きを見せれば、タキがそれをニンジャスレイヤーにひそかに警告する。 3
2017-03-17 22:21:39坂から坂、角から角へ。外からは到底そのように作られている事が想像も出来ぬ、小さな迷宮だ。目の前のマンホールが開き、黒服の魔術師が這い出して、平然と歩き去った。或いは、窓から縄梯子が降り、やはり黒服の魔術師が滑り降り、歩き去った。(注意せよ。こ奴ら皆、もはやエゾテリスムの下僕だ)4
2017-03-17 22:25:12「あれは」コトブキがデジ・プラーグ2を通して察知し、警戒を促す。やがて現れたのは建物の二階ほどの身長を持つ、多関節の人型だった。(ゴーレムだ。走査光は念のため避けるのだぞ)人型は数歩ごとに立ち止まり、一つ目から赤いレーザーを照射するのだった。三人はしめやかに横を走り抜ける。 5
2017-03-17 22:29:13『何だありゃ?モーターヤブの仲間か?無線LANに繋がってやがる。プロテクトは触らねえぞ』「賢明だな。黄金小路を守護する自律機械だ。今はエゾテリスムが管理しとる」『邪魔くせえな。さっさと先に進め』通りがかった人混みの後方に紛れるように進むうち、コトブキが立ち止まった。「ここ!」6
2017-03-17 22:34:21コトブキは何の変哲もない煉瓦の壁を指さす。「教えてもらった魔法陣がここに」「よし」周囲を気にしながら、コルヴェットがステルスを解く。コトブキが指さす場所に偽装タリスマンを当てる。【無限遠の兄弟ですか?】発せられる電子音。コトブキは壁に隠されたソケットにLANケーブルを直結した。7
2017-03-17 22:41:02「その通りだ。無限遠の議長であるルツィエ=サンの推薦を持って、我らは……」コルヴェットが返答を引き延ばす隙に、タキがコトブキを通してシステムにアクセスした。『絶対うまくいかねえんだからな?いいな?』前回の失敗の経験からタキが請け合った。「いい。やれ」ニンジャスレイヤーが答えた。8
2017-03-17 22:48:10【タリスマン認証更新、無限遠の兄弟】冷たい電子音が答えた。コルヴェットは素早くそれを懐に入れた。『限界だ!』タキが悲鳴を上げた。「ピガガガッ!」コトブキが痙攣する。ニンジャスレイヤーはLANケーブルを引き抜いた。【不正アクセスを感知!】たちまち電子音が敵意を剥き出しにする! 9
2017-03-17 22:52:11頭上、ラッパを掲げた天使像が耳障りなハウリング・ノイズを発生させた。ダーン!ダーン!二階の鎧窓の幾つかが開き、魔術師が顔を出して指さした。「今だ!」コルヴェットはニンジャスレイヤーとコトブキを抱えた。「イヤーッ!」風が渦を巻き、何枚かの黄金の木の葉とともに、彼らの姿は霞んだ。10
2017-03-17 22:55:27魔術師たちが集まり、指さし、ゴーレムが到達し、警報音が鳴り響く。だが煉瓦壁の前はもはや無人だった。コルヴェット達はもはやそのとき、ヴィート大聖堂の一階ホールに出現し、手近の柱の陰に走り込んで、身を潜めていたのだ。「よし!ここまで計画通りよ!」詩人はスキットルの酒を呷った。11
2017-03-17 22:58:53ヴィート大聖堂。「やるな!タキ=サンとやら。よいか、ここからは電撃的にゆかねばならん」コルヴェットはニンジャスレイヤーを見た。赤黒のジゴクめいたニンジャは飾り窓から差し込む光を受ける聖人像を、絶望めいて見上げていた。無数のアーチ、石、金色と光とガラスを受けて、彼は畏れていた。12
2017-03-17 23:05:04コルヴェットはニンジャスレイヤーの肩を揺さぶった。ニンジャスレイヤーは頭を振った。コルヴェットは彼をじっと見た。「さて、ここで道はわかれる!だがお前さんの目的が俺を助けもしよう。よいか、俺の麗しの女は南塔に幽閉されておると見た。一方、エゾテリスムはメインタワーだ」 13
2017-03-17 23:08:25「静かだ」ニンジャスレイヤーは呟いた。大ホールに人の存在は無い。コルヴェットは頷き、「エゾテリスムは誰をも信用しとらんのだ。おのが神秘を……デジ・プラーグ3の秘密を分かち合う気はない。この地に他者を近づけはしない。それが奴のあだとなる」「……」ニンジャスレイヤーは走り出した。14
2017-03-17 23:11:16「幸運を!」コルヴェットは手を振り、南塔の螺旋階段へ向かった。「私もお供します!」コトブキがついてくる。「約束です!」「そりゃありがたい!」一足飛びに進みながら、コルヴェットは息を弾ませた。「せっかくの来訪者がむさくるしいおやじ独りでは、ルツィエもがっかりするだろうよ」 15
2017-03-17 23:14:11二人はグルグルと周り続けた。長い長い上昇だ。無限にも等しい。コルヴェットのニューロンに万感が押し寄せる。偽装タリスマンをアップデートし、ほんの一瞬でもヴィート大聖堂への進入権を得れば、その隙をつき、カゼのジツを用いて飛び込める目算だった。成功だ。そして二度目は無い。このまま。16
2017-03-17 23:20:34昇りきると、そこにはまず、鐘があり、床には憔悴しきった女がひとり居た。女の足首には鉄の輪が嵌められ、鎖で鋼鉄製のUNIXデッキに繋げられていた。世界との繋がりは断たれ、ただデジ・プラーグ2と3をADMINする事だけを許された、閉じたUNIXだった。コルヴェットは立ち尽くす。 17
2017-03-17 23:26:52鐘、そしてルツィエの向こう、窓の光に埃が舞っている。逆光のルツィエは顔を上げ、霞んだ目でコルヴェットの方向を見た。「そこに誰か」かすれ声には正気の響きがあった。コルヴェットは一歩、二歩、踏み出した。「おお……おお。ルツィエよ。俺だ……コルヴェットだ」コトブキは目を見開く。 18
2017-03-17 23:35:01「イヤーッ!」その時ニンジャスレイヤーはメインタワーの隠し部屋のドアを蹴り開け、純金のUNIX、書物、フロッピーディスク、ワイン、羅針盤、調度類がひしめく室内にダイナミックエントリーしていた。背中を向けて椅子に座っている不吉なニンジャが肩を震わせ、笑った。 19
2017-03-17 23:37:34「ドーモ。エゾテリスムです」不吉なニンジャは身じろぎし、次の瞬間にはニンジャスレイヤーの正面でオジギをしていた。「成る程……貴方がどう言いくるめられたかは知らないが……他所のニンジャをヨージンボとして雇い入れるとは、いよいよ三大魔術ギルドの威信も地に堕ちたというところですか」20
2017-03-17 23:44:30「魔術ギルドなど、知った事か」ニンジャスレイヤーはエゾテリスムの爛爛と輝く目を見据えた。そしてアイサツを返した。「ドーモ。ニンジャスレイヤーです。……サツガイを知っているな」「サツガイ?ハ!ハハ!」エゾテリスムが嘲笑った。「貴方がそうか!私はよからぬ兆候を見ていました!」21
2017-03-17 23:48:09