2008年に起きた東京ビッグサイトのエスカレーター事故の原因は「ボルトの緩み」

一時は「重量オーバーが原因なのでは?」とも言われていましたが、実は違っていました。きちんと作っていれば利用者の体重がみんな小錦クラスでも事故は起きませんでした。
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yunishio @yunishio

東京ビッグサイトで2008年、上りのエスカレーターが急停止して逆走し、けが人を出した事故について、昇降機等事故調査部会の「事故調査報告書」を読んでみた。事故の直接原因は、結論からいうと「ボルトの緩み」。 →mlit.go.jp/common/0010660…

2017-03-19 17:23:02
yunishio @yunishio

事故のあったエスカレーターを横から見ると、こんな感じ。本体構造(濃い青)はトラス構造になっており、頑丈そのもの。エスカレーターを上りきったところの床下に、固定ベッド(緑)という鉄枠がトラスに固定されていて、この事故ではトラスや固定ベッドに異常は見られなかった。 pic.twitter.com/V8ZBcnj0zS

2017-03-19 17:24:16
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yunishio @yunishio

固定ベッド(緑)の上に、さらに可動ベッド(赤)という鉄枠がボルトで固定され、駆動機(黄色)…つまりモーターはこの可動ベッドに固定されている。駆動機から出ている歯車(スプロケット)に、駆動くさり(黒の破線)をからめ、踏み段を引っぱり上げる仕組み。

2017-03-19 17:25:21
yunishio @yunishio

説明を簡単にするため、図や本文では省略していますが、実際は駆動スプロケットが踏み段を直接引き上げているのではなく、中間に踏み段スプロケットが挟まっていて、こいつが踏み段くさりで引きあげています。あと、モーターとスプロケットが直結してないとか、ブレーキとか、ぜんぶ省略。

2017-03-19 17:26:01
yunishio @yunishio

固定ベッド周辺を上から見ると、こういう感じ。駆動機の歯車(スプロケット)が、片側にしか付いていないことに注意。つまり、利用者の体重はくさりを通じて駆動機の片側だけにかかっている。なので、可動ベッド(赤)をしっかり固定しなければ、片側だけが引っ張られてズレてしまう。 pic.twitter.com/iDkScuUvEw

2017-03-19 17:26:39
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yunishio @yunishio

そうならないように、可動ベッドの4隅にクソぶっとい固定ボルト(水色)で固定ベッドにがっつり縫いつけ、さらに押しボルト(濃い青)をスタッドプレート(オレンジ)越しに横からも押しつけている。ガイドプレートも可動ベッドの回転防止に役立つ。

2017-03-19 17:27:16
yunishio @yunishio

2008年の東京ビッグサイトでは、なにが起きていたのか。そのときエスカレーターには最大125人の利用者が乗っていた。平均体重を80kgとしても、積載荷重水平力(重みに耐える力と考えてください)は38,633Nしかかかってない。この機種なら、54,560Nまで耐えられるはずだった。

2017-03-19 17:27:39
yunishio @yunishio

では、なぜ事故が起きたのか…。固定ボルト(水色)に緩みがあり、しっかり締められていなかったため、可動ベッドが重みに耐えきれずに回転していたのだ。しかもスタッドプレート(オレンジ)の厚みが薄すぎて押しボルト(濃い青)が抜け、ガイドプレートも可動ベッドにへし曲げられてしまった。 pic.twitter.com/7iHtDksn5f

2017-03-19 17:28:19
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yunishio @yunishio

その結果、歯車(スプロケット)が踏み段側に40mmほどズレてしまい、駆動くさりとの隙間が空いてしまった。利用者の体重はくさりを通じて歯車にかかっているが、歯車とくさりの隙間がゆるゆるなので、上滑り状態になり、ブレーキもきかずに逆走してしまったというわけなのだ。

2017-03-19 17:29:04
yunishio @yunishio

横から見た図。可動ベッド(赤)が約40mm引き寄せられたため、駆動スプロケット(歯車)と駆動くさりとの間に隙間が空いて、空回り状態になっていた。(踏み段スプロケット(水色)の方が高い位置にあり、駆動スプロケットや可動ベッドには常に斜め上に引っ張る力が働いている) pic.twitter.com/0oUJPcuBD5

2017-03-20 11:28:56
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ああ、しまった。この図では踏み段側のスタッドプレートに乗り上げたように書いてしまってるけど、実際の乗り上げたのは反対側、乗降口側のガイドプレートですね。この図はもう修正しないので、詳しくは最初のツイートのリンク先「事故調査報告書」をご覧ください。

yunishio @yunishio

事故を引き起こした直接原因は「ボルトの緩み」だが、そもそもこの機種の設計そのものもマズかったようだ。さきほど54,560Nまで耐えられると書いたが、これは設計上の荷重の1.9倍にすぎない。他社の製品では、7~8倍は安全寄りに作っていた。

2017-03-19 17:29:28
yunishio @yunishio

他社と同じように7倍以上の荷重(199,715N)に耐えられるように作っていれば、もし利用者125人の体重がみんな小錦クラス(280kg)だったとしても(135,214N)、ぜーんぜん余裕で耐えられたはずなのだ。

2017-03-19 17:30:03
yunishio @yunishio

…というわけで、2008年の東京ビッグサイトにおけるエスカレーター事故は、直接原因が「ボルトの緩み」、根本原因が「設計上の安全係数の小ささ」によって引き起こされたということになるわけです。

2017-03-19 17:30:21