【それぞれの実用】福間健二 #k2fact164
軽くしたい。軽くなりたい。人を愛しながら。地図と予定表に乱暴な赤を入れ、目をつむっていろんな人に会った。みんな怒っている。水辺に行くことは忘れて、音と匂いに過敏になり、背中に負うもの。言い切らない日本語で、どんな恋のじゃまをしたいのだ。(それぞれの実用1)#k2fact164
2017-03-15 20:54:15荒れる。そんな意図はない。でも荒れる。言うこと、書くこと、思うこと、なぜちがってしまうのか。一度植えつけられたら抜きとれないヨコ糸で、不運な沼。壁の鏡、しっかりしていなくてガタガタ言って、目がかすみ、それでも東京は久しぶりに晴れている。(それぞれの実用2)#k2fact164
2017-03-16 13:07:29人の言うことに耳を傾けないと忠告され、四つの弦。一度に鳴るのはそのうちのひとつだが、次の問いを考えている。無感情の東京、自分の何が見えていないのか。見るべきものは見ていると反論する石の目をやわらかくしたいって、この孤児たち、役に立つんだな。(それぞれの実用3)#k2fact164
2017-03-17 18:17:04ちゃんと勝っていない。まじめに言うけど、保護ではなく正当な報酬を求める人生だ。乗ってきた流れが中断してどう降りていいかわからない。孤児のひとりとしてはそうだが、見えてきた床には猫と大きなスリッパが片方。使いたくないナイフの置き場じゃないよ。(それぞれの実用4)#k2fact164
2017-03-18 11:24:11夢を見ないまま、がらんとした朝の裏口から出た。いつまで乾かないつもりか。事件を隠す青いシート。だれかのよい聞き手になることを思いながら、きのうを眠らせた空に目をやると雲の無理解。そんなにわるくない。きみたちよりひどいものはたくさんある。(それぞれの実用5)#k2fact164
2017-03-19 12:22:18陸橋から線路を飽きずに眺めている詩人の金井さんにどう挨拶するか。ためらう唇に育つもの、地面に落ちる前に蒸発しているということがある。その地面では、でしゃばり息子が治療中だ。厚切りのアップルパイがいい。あいまいな言葉づかいによる説得よりは。(それぞれの実用6)#k2fact164
2017-03-20 11:04:13雨になった。濡れながら声がわりする小さなものたちの主張に出会っている。寄りそうこと、よい聞き手になること、沈丁花の香りがただよう地方に入ること。あきらめて、あきらめて、名案は浮かばないが、来るなと言われた場所にしか行きたくない午前十時だ。(それぞれの実用7)#k2fact164
2017-03-21 12:29:57ポリ袋にまとめますか、紙袋にまとめますか。ポリ袋。しかし「まとめる」はおかしい。ひとつしか買っていない。それがポリ袋のなかでそのひとつであるために何を殺すか。道を斜めに横断して、何を拒まなかったためなのかわかる重荷。卵をもうひとつください。(それぞれの実用8)#k2fact164
2017-03-22 18:20:36奇跡的に会場に着く。東京のなかを移動して、もうだめかと思うたびに助けられて。本能の壊れ方、いい壊れ方はどれなのか。助ける者と助けられる者。待ってくれていた人たち。学生服の彼もいる。何十年ぶりだろう。死んでいたのに今日のことよくわかったね。(それぞれの実用9)#k2fact164
2017-03-23 15:52:52残っていた弁当をもらったが、食べそこなう。舞台に現れる前にその機能に出会っている部位。それぞれの実用の、色彩のなかに入りくむ線が、音楽のなかにほどかれる。色彩と音楽、逆だったか。夕方から撮影。まず街のロングショット。人をたくさん入れたい。(それぞれの実用10)#k2fact164
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