主任看守宇佐の遊び　囚人笠木くんと。

うさ @usa_kororin

「四〇六、入れ。」 看守室と書かれた札がかけられた他の部屋よりも少し立派な作りの部屋に通されたのは、最近新しく収監された"元"軍人。 顔には大きな火傷跡があり、表情はピクリとも動かない。なんとも面白みの無さそうな男だ。 と言うのが主任看守、宇佐が抱いた最初の印象だった。

笠木正文 @kasagi_soldier

@usa_kororin 　 ジャラリと手に取り付けられた手錠が鳴る。 看守に連れられた先には自分より少し背が低い、顔立ちの整った男がいた。 色素の薄い髪だとか優しそうに弧を描く瞳だとか、いかにも女受けしそうだ。いけすかない。それが笠木正文からの宇佐の印象だった。 「何の用で」

うさ @usa_kororin

@kasagi_soldier 「用というほどでも無いのだが、上が確認しろとうるさくてな？」 薄っぺらい笑顔を貼り付け囚人へ近付く。 「四〇六…カサギか。ようこそ歓迎する。…早速だがお前に脱獄の気配アリとの疑いがかけられている。」 どうなんだ？と視線で問いかける。 よく見れば精悍な顔つきをしていた。

笠木正文 @kasagi_soldier

@usa_kororin 　「あり得ません」 近づいてきた顔を見て表情を変えずに答える。 脱獄。確かに計画はしていたがどこから漏れた。様々な可能性を考えるが分からない。 内心舌打ちをしつつやり過ごすことに意識を集中する。 幸い軍では尋問を担当していた。こういったことに耐性はある。

うさ @usa_kororin

@kasagi_soldier 「ふぅん。まあ…計画していたとして、素直に言う訳なんてないよな。」 書類には"脱獄の疑いナシ"と記入する。 部下に部屋を出て行くよう指示をして追い払う。人払いもついでに言いつけた。 「さて、笠木。私はお前が脱獄しようがしまいがどうでも良かったのだが気が変わった。私と遊ぼう。」

笠木正文 @kasagi_soldier

@usa_kororin 　意外とあっさりと尋問が終わり拍子抜けする。いっそ気味が悪い。 「遊ぶ...?」 何をする気だと警戒する。手錠はつけられたままだが足が自由だから暴力を振るわれたとしてもまあ大丈夫だろう。 「自分は房に戻りたいのですが？看守殿もお暇ではないでしょう？」

うさ @usa_kororin

@kasagi_soldier 「遊びは遊びだ。きっとお前も気に入ってくれる物を用意しておいたんだ。」 机の上に置いてあった風呂敷を持ち上げ広げていく。 「ほら、見覚えがあるだろう？」 中から取り出したのは軍服だった。 それをばさっと広げて直立する笠木にあててやる。 精悍な顔つきによく似合っている。

笠木正文 @kasagi_soldier

@usa_kororin 　見覚えがあるどころではない。つい最近まで自分も身に纏っていた、軍服。 遊びと言う不吉な単語といい取り出された軍服といい嫌な予感がする。直立の姿勢を保つ。 「これを、どうしろと。何をさせる気で？」 極力冷静さを保つようつとめるが、頭に血が昇りそうだ。

うさ @usa_kororin

@kasagi_soldier 「はは、軍服は随分といい生地を使っているな。…これを見にまとったお前が見たい。」 さあ着てみろ、と手渡すがいっこうに受け取らない様子にやれやれと首を横に振る。 「私が着せてやろう。手錠を外してやろう。来なさい。」 平静を保とうと堪えている様子に笑いが込み上げそうになる。

笠木正文 @kasagi_soldier

@usa_kororin 　手錠を外されると聞いて一瞬逃げるという選択が頭にめぐる。が、ここは監獄の奥に配置されている部屋。看守もまだ歩き回ってる時間、逃走は不可能だ。 おとなしく近づき、両手を差し出せばすんなりと手錠が外される。殴られることも考えていたが、少し安堵する。

うさ @usa_kororin

@kasagi_soldier 「私はな、笠木。仕事を良くして、大人しくて、従順な子が大好きだ。」 そう言い聞かせながら襟元に手をかけて脱がせていく。 シャツ越しでもわかるよく付いた筋肉。いい体つきだ。 やがて、シャツと褌だけというなんとも間抜けな姿の笠木が完成した。 次に軍服のズボンを穿かせてやる。

笠木正文 @kasagi_soldier

@usa_kororin 　何を言いたいのか、何をさせたいのかさっぱり分からない。薄気味悪い。 なにも言わず、おとなしく着させられる。自分で着たいところだが、下手に手をだして反抗と受け取られたら面倒だ。皮手袋の少し固い感触と着なれていたはずの軍服の冷たさに身震いをする。

うさ @usa_kororin

@kasagi_soldier 全て着用させ、満足気に頷く。 「どうだ？久しぶりに袖を通した気分は。」 こういう自尊心の高そうな男を屈服させる過程を想像するのはとても楽しい。 どう追い詰めていくか考えるだけで背筋がゾクゾクする。 ああ、そのこちらを気味悪がっているような表情も堪らないな。 頬を一撫でする。

笠木正文 @kasagi_soldier

@usa_kororin 「... 落ち着きます」 懐かしい着心地に少し嬉しくなる。 しかし今さら軍服なぞ着させてどうしたいのか。 頭も坊主ではない。軍人のふりをさせたい訳ではないだろう。いや、これから剃るのか？ 顔をそらし頬を撫でる手から逃げる。 「それで、何をさせたいので」

うさ @usa_kororin

@kasagi_soldier 「つれないな。…実は私は軍人になりたかったんだが何の因果か看守になってしまってな。」 どうせ逃げられないだろうと考え、笠木に背を向け目的のものを取り出すために棚に近付く。 どこにあるかはもちろん分かってはいるが待たせている笠木を焦らす。 「これで遊ぼう。」 麻縄をちらつかせる。

笠木正文 @kasagi_soldier

@usa_kororin 　取り出された縄にぎょっとする。可能性として考えていなかったわけではないが。そういう遊びか。 1歩、後退りして扉に近づく。逃げられないとわかっていても逃げたいものは逃げたい。 「自分で遊んでも面白くないですよ。」 むなしい努力だがしないよりましだろう。

うさ @usa_kororin

@kasagi_soldier 「大丈夫だ、私は楽しめるぞ。なぁに、全身は縛らない。少々手足を縛るだけだ。」 やっと表情らしい表情が出てきた。 後退りをする笠木に一歩、また一歩と近づいていく。 ほら、と一纏めにしていた縄を解けばしゅるりと床に縄が落ちていく。 「あそこで縛ろう。」 ソファを指差す。

笠木正文 @kasagi_soldier

@usa_kororin 断る選択肢はない。 横目で看守の様子ををうかがいながらソファの近くに移動する。 そのまま立ちすくんでいると座るようにと促され。ゆっくりと座る。 見た目からして高級という感じがしたが、座ってみても革の触り心地も柔らかさもそこいらのものとは違う。

うさ @usa_kororin

@kasagi_soldier 今のところ従順だ。つまらない。 この笠木という男は何をすれば面白い反応を見せるだろうか。 腕を背中で組ませてキツく縛り上げながら考える。 その動作に気遣いは一切ない。痛みからか呻く声が聞こえるが無視する。 「そうだ、昨今の軍部は随分と教育がなっていないようだな。」

笠木正文 @kasagi_soldier

@usa_kororin 「なに？」 腕の痛みに耐えてると許しがたい言葉が聞こえてくる。 教育がなってないだと？どういう意味だ。ふつふつと怒りが湧く。 「それはどういう意味だ。」 後ろを振り返ることはない、が、ずいぶんと声音に怒りが出てしまった。 腕に力が入ったせいかミシ、と縄が軋む。

うさ @usa_kororin

@kasagi_soldier 「んん？私は何か間違ったことでも言ったか？お前のような犯罪者を出してしまった事で証明されているだろう。」 これか。この男は軍を…ひいては国を愛しているのか。 自分の目にはこの男がひどく憐れに映る。 「それに国は先の戦争後で賠償金一つ奪えない体たらくぶり…全く、笑えるな。」

笠木正文 @kasagi_soldier

@usa_kororin ソファから飛びのき間合いを取る。無理な動きに腕が悲鳴を上げてるがそんなことを気にしている場合ではない。 「..それ以上言ってみろ。貴様の喉笛を噛みちぎるぞ。」 落ちてくる髪の毛が鬱陶しい。ひどく楽しそうに笑うこの男に憎悪に似た怒りを感じている。

うさ @usa_kororin

@kasagi_soldier 「ははは！お前は面白いな！何をそんなに吠える必要があるのだ。お前を捨てた軍などかばってどうする？ほら、足も縛ってやるから戻ってきなさい。」 興奮しきった様子の笠木をさらに煽るように言葉を選んで放つ。 まさか鉄面皮のような男がここまで感情を露わにするとは。新しい遊び道具ができたな。

笠木正文 @kasagi_soldier

@usa_kororin カッと頭に血が上るのがわかる。 「黙れ」 捨てられてなどいない。俺が判断を間違っただけなのだ。それだけだ。 足に力を込めていつでも蹴りだせるように準備する。殺してやる。それだけが頭の中に渦巻く。 「軍人になれなかった落ちこぼれが。こんなところで罪人相手に遊んでるのは楽しいか？」

うさ @usa_kororin

@kasagi_soldier 「それは私に対する意趣返しのつもりか？ならば残念だな。その言葉は痛くはない。後者の答えは”是”だ。私の唯一の楽しみだ。」 今近づくと確実に蹴りを受けてしまう。体を鍛えていないわけではないから力ずくで押さえられなくもないが無駄に疲れてしまうことは極力避けたい。大きくため息を一つ。