亜里沙のことが大好きな雪穂　短編（６）「つなげたい想い」

亜里沙のことが大好きな雪穂 @yukiho_0_arisa

まだまだ先輩たちの力を借りずに勝てる歌、勝てる衣装、勝てる演出を作れる気はしない。だけど、ここまで９ヶ月ほどいっぱい教えてもらって、きっと誰よりも早く成長して、自信につなげることができた。この歌は、先輩たちへの一番のお礼にしたい。最高の結果を持ち帰って。

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「がんばってるみたいやね？」 いつもの神社で、にこにこと笑いながら希さんが声をかけてきた。 「大会、楽しみにしてるよ」 さて。誰も、希さんにも絵里さんにも、この歌のことは話していないはずだけど。希さん、なにかを察しているような気配もある。勘が鋭い人だからなあ。

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亜里沙と顔を見合わせて、大きく頷いて。 私たちは、希さんの目をまっすぐ見て、一度大きく息を吐いてから、口を開く。 「私たちは、優勝します」 「私たちが、伝説を受け継ぎます」 希さんは、さすがにびっくりしたように目を丸くして。 「うん。待っとるよ」 優しく呟いた。

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そして――振り返りと練習と広報活動の日々を過ごし、あっという間に本番はやってきた。 私たちは、優勝の本命ではない。有力な対抗馬のひとつといったところだ。それでいい。それでこそ、あの頃のμ'sと同じ立場じゃないか。そんなことを亜里沙と言い合って、不敵に笑う。結果も同じにするんだ。

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「今日は大丈夫？」 「……緊張してるよ、まあ」 舞台裏。燃え上がる心はある。それでも、今までとは桁違いの大騒ぎの声を聞くと、やっぱりプレッシャーはのしかかってくる。 大丈夫、大丈夫。Sunny Day Songほどの人数じゃない。 「そう、大丈夫――」

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亜里沙は正面から抱きしめてくれる。私もここは、素直に甘える。 「私たちは、μ'sが大好きだから」 「スクールアイドルが大好きだから」 「雪穂が大好きだから！」 「亜里沙が大好きだから！」 「大丈夫！」 「恐いものなんてない！」

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ぎゅっと強く抱き合ったあと、離れて顔を上げて、両手を上げてハイタッチ。 『次のグループは、音ノ木坂学院の――』 アナウンスが聞こえる。 行こう。スクールアイドルのみんなと、スクールアイドルが好きなみんなと、μ'sが聞いてくれる。伝えよう。 過去から今へ――未来へ！

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「お疲れ様ー！！」 大会、すなわち東京地区最終予選が終わったあと――九人揃ったμ'sと私たちは、うちの居間に集まっていた。さすがに、窮屈だ。でも、今や有名人ばかりのこのメンバーでゆっくり話せる場所はとなると、ここが一番お馴染みだったのだ。 「やるじゃない。なかなかよかったわよ」

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全員が座るなり、にこさんが褒めてくれた。お礼を言おうとすると、希さんが「なんか先輩っぽく落ち着いて言おうとしてるけど、にこっち二人の歌聞きながら完全に泣いてたんよー」と横から突っ込んできた。 「希ー！　ていうかあんただって泣いてたでしょ！」 「うん。泣いたよ」 「……ぐぬぬ」

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「まさか、こう来るとはね。みんなは知ってたの？　ずるいわ」 絵里さんが六人の顔を見渡しながら、やってくれたわね、と呟く。 「私たちもちょっと前に聞いてびっくりしたんだよ！　二人が考えてくれたんだよ、全部」 「そっか……ありがとうね、亜里沙。雪穂ちゃん」 「こちらこそ」 「えへへ」

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「うちにμ'sの話を尋ねてきたときは、μ'sをテーマにした歌を歌うのかなって思ったんよ。違ったんやね。μ'sの辿ってきた道を通じて、μ'sが、穂乃果ちゃんが伝えたかったことをもう一度解釈してくれた、ってことかな。嬉しかったよ……本当に」 希さんは、静かに語り始めた。

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「うちな、みんなに謝らんとあかんのや。特に穂乃果ちゃんには」 静かだけど、はっきりとした声で。 「みんなで納得して終わらせたμ'sやったけど、まだスクールアイドルやってるみんなや、プロとしてやってるにこっちを見て、また戻ってやりたいなって、何回も思ってたんよ。正直、羨ましかった」

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「穂乃果ちゃんみたいに、すべてのスクールアイドルを応援するなんてことは、無理やった。うちにとっては、μ'sがすべてやった。μ'sが過去のものになっていくのが辛くて、うちの時間は止まってた」 「希ちゃん……」 お姉ちゃんが、目を伏せながら、名前だけ呟く。

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「でも、亜里沙ちゃん、雪穂ちゃんのおかげで、やっと時計が動き出した気がする。μ'sの思いを受け止めて心に刻んでくれた人は――うん、きっと本当は前からいっぱいいたことも、知ってた。こんな素敵な歌にしてもらえて、やっとうちも素直に受け入れることができた」

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「μ'sの魂は、きっとスクールアイドルが続く限り生き続ける。穂乃果ちゃんが見ていたものに、今さら気づいた。ごめんな、みんな。ありがとう……亜里沙ちゃん、雪穂ちゃん」 静かになった部屋の中、希ちゃんの声は凛と響き渡った。

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「希ちゃんー！　そんなに悩んでいたなんて……ごめんねっ」 お姉ちゃんが希さんに抱きつく。希さんのほうが、ああ、ええよ、穂乃果ちゃんはなにも悪くないんやし、と逆に慌てる。そして、真姫さんがため息をついて、そうね、と同調した。 「相変わらず、一人で抱え込むのね、希は」

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「寂しいなら、もうちょっとそんな顔してくれればいいのに」 「遠慮する仲じゃないにゃー！」 花陽さんと、凛ちゃんも続く。 「あー……うちの悪い癖やな」 困ったように、希さんが呟く。 「だいたい、μ’ｓの解散に納得して受け入れてるかどうかと、寂しいかどうかは別でしょ」

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「そうですよ。穂乃果だってついこの間、絵里ちゃんに会いたいよー寂しいよーって泣いてたくらいですし」 「わーわー！　泣いてないよー！」 「海未ちゃんがいるのに穂乃果ちゃん贅沢なんだからっ」 お姉ちゃんたちも楽しそうにはしゃぐ。それを見て希さんも、ああ、相変わらずやなあ、と笑った。

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「やっぱり、μ'sは今でもμ'sですね！」 この光景を嬉しそうに眺めていた亜里沙が、そんなことを言った。みんなの視線が、亜里沙に集まる。 「今回の歌を作ったときに想像していたμ'sの日常が目の前にあって、とっても幸せです！」 「希さんの言っていたとおりだよね」

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私も続くと、亜里沙は力強く頷いた。 「この温かさが、μ'sが残したものなんだなって、あらためて思います。私も亜里沙と、楽しく、幸せにやっていきます。それがμ'sの魂を受け継ぐことだと思います」 「うん！　がんばろうね！」 「雪穂、亜里沙ちゃん……」

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「――今のって、結婚式の挨拶みたいだよね」 「お姉ちゃん！　空気読んで空気！」 「あはは」 亜里沙は楽しそうに笑う。ああもう。 「そうだね、今日の主役は二人だし。じゃあ、あらためて」 お姉ちゃんが、ぐっと拳を突き上げた。 「――優勝、おめでとう！」

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「見事な有言実行やったなあ。優勝します、の宣言にはびっくりしたよ」 「へー雪穂、希ちゃんにはそんなこと言ってたんだ？」 「いや……うん、この歌を持って行くからには、優勝しなきゃダメでしょって思いがあったから。でも、まだ全国大会があるからね」 「東京で一番だからもう優勝候補だよ！」

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「――それは、どうかしらね」 お姉ちゃんの確信のような言葉に、真姫ちゃんが真面目な声で釘を差した。 うん？　と首を傾げるお姉ちゃんに、「まあ、今はいいでしょ。先のことは今は置いておいて、優勝祝いで盛り上がりましょ」と表情を緩めて続ける。 「そうだにゃ！」 凛ちゃんがはしゃぐ。

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「ほらほら、乾杯するにゃ！」 「はーい！」 がちゃがちゃとグラスの音が鳴る。もちろん、準備されているのはジュースと、お茶と、おでん缶と―― 「なんで！？　なんでおでん缶！？」 「あ、それ私が買ったの」 「亜里沙！？」 「ああ、懐かしいですね」 それを見て、海未ちゃんがくすりと笑う

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亜里沙もそれに笑顔で返した。なにやら、二人の間のエピソードがあるらしい。 「……あとでちゃんと聞かせてよ」 「ん！　雪穂、やきもち？」 「……まあ、そうかも」 「可愛いっ」 「ああもうっ、恥ずかしいよっ」 亜里沙に抱きしめられて、さすがにみんなが揃っているこの場では恥ずかしい。