オウガ・ザ・コールドスティール #1
「……」「こんなくだらない話をしちまって。私ときたら!……ですが、私の目が黒いうちは、貴方の力になります。モリタ=サン」サブロ老人はフジキドをじっと見た。「これはつまらん身の上話で、独り言です。……私ァね、ニンジャに両親と兄弟を殺されてるんです」
2011-03-09 21:05:01「エー、それでは、そろそろ始めさせていただきます、ハイ」掘りゴタツ式の座席がしつらえられた大型プレゼンテーション・ルームの明かりは仄暗く、隣に座る者の顔も見えるか見えないかといったところである。集められたのは区議会議員、マッポ関係者、オムラの御用ジャーナリスト達だ。
2011-03-09 23:04:05スクリーンの脇でやや緊張した面持ちでマイクを握るオムラ・サラリマンは、咳払いを一つして、話し始めた。「エー、この混迷するネオサイタマ治安、自暴自棄となった末端労働者ですとか浮浪者ですとか、その手の不穏な層の人間が日々さまざまな経済活動を阻害し、市民の安全を脅かしております」
2011-03-09 23:08:34スクリーンには逆関節の二足歩行デザインのロボット兵器の三面図が映し出される。プレゼン・サラリマンの手元の操作にあわせ、スクリーンの左から「モーターヤブ」「実績のある効果」という文言が飛んできて所定位置に固定された。
2011-03-09 23:15:41「そういった治安悪化に歯止めをかけるべく、我が社のテクノロジーは常に皆様に最良に近い選択肢を提供し続けてまいりました。それはこのモーターヤブの導入効果でも明らかでございましたようにですね、ハイ」
2011-03-09 23:18:23続けて、少なからず誇張されたモーターヤブ導入台数と区の犯罪発生率の折れ線グラフがレイヤー表示される。上から「関係は明らか」というミンチョ文字が回転しながら降りてきて、画面に収まる。遠慮の無いマッポ関係者が失笑した。ナムサン!プレゼンテーションにおける典型的なセンスレス文字操作だ。
2011-03-09 23:24:02「エー、と、とにかく、このモーターヤブの成功を踏まえてですね……」「成功というが、そのロボットのずさんな人工知能。相次ぐフレンドリーファイヤーのせいでウチの殉職者もうなぎのぼりだ」先ほど失笑したマッポ関係者が口を挟む。「このままでは遺族の突き上げからもそろそろ庇いきれんぞ、君ィ」
2011-03-10 01:38:10「あ、それは、アイエエ……」「まあまあ」上座に座る男が助け舟を出した。ダブルのスーツを着、ニンジャ頭巾に金属製メンポを装着した尊大な男である。「そういった問題を踏まえての新提案、と考えて良いのかね?」「全くその通りでございます!」サラリマンはひたいの汗をぬぐい、勢いを取り戻す。
2011-03-10 01:42:04サラリマンが手元のキーボードを片手で操作すると、画面は切り替わり、左から文言が立て続けに飛んできた。「そこで新たなソリューション提案」「より賢く」「より柔軟」「もっとスゴイ」「WIN-WIN」
2011-03-10 01:46:13「先程のご指摘は実際、我が社も大変心を痛める問題ではありました。モーターヤブの高すぎる戦闘能力は、友軍……ともに鎮圧に当たるマッポの皆様や、市民の方々への誤射の問題もはらんでおりました。今回、それら諸問題を、このマシンが全て解決します!」
2011-03-10 01:59:52画面が切り替わり、新たなワイヤーフレーム三面図が映し出される。ざわついていた出席者が、その異様なシルエットを前に、水を打ったように静まり返った。
2011-03-10 02:19:19それは四本の脚と八本の腕を持っていた。サイズはモーターヤブよりもふた回りほど小さく、スモトリと同じくらいの背丈といったところだ。格納可能な多種多様な武装が三面図を囲むように、誇らしげに並んでゆく。スペックの数値が素早く表示され、最後に、機体のコードネームが回転しながら降りてくる。
2011-03-10 02:24:13「モータードクロ」。威圧的なカタカナ。その下にオムラ・インダストリの社紋が表示される。「えー、このモータードクロの革新的性能については、チーフエンジニアであるマノキノ=サンが、私にかわりましてご説明申し上げます」「ドーモ、皆さんありがとうございます、マノキノです」
2011-03-10 02:27:23ナムアミダブツ!壇上に上がり、マイクを受け取ったこの若いサラリマンのことを、我々は知っている。サブロ老人の店から泣きながら出て行った息子その人だ……!
2011-03-10 02:28:42