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オウガ・ザ・コールドスティール #1

翻訳チームによるサイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) ニンジャスレイヤー公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 続きを読む
ニンジャスレイヤー
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Ninja Slayer / ニンジャスレイヤー @NJSLYR
埃と煤煙、油と錆。カバヤキ屋台のテリヤキ・ソースが焼ける匂い。タマ・リバーにかかる「絶望の橋」を渡れば、そこは潰れかかったような平屋のプレハブが迷路のように立ち並ぶオオヌギ・ジャンク・クラスター・ヤードである。
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煤と泥で真っ黒になった子供達が獣のようにら騒ぎあいながら駆け抜ける道路の脇で、泥酔者が失禁しながらへたり込み、曇天をぼんやり見上げている。プレハブに打ち付けられた無骨なトタン看板には「アンタイセイします」「毎日集会」「立ち退きしないと思う」といった戦闘的文言。
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それらのスローガンと競い合うように、それぞれの家屋には、粗末な電球で飾り立てられた「キチン宿」「おいしい蒲焼き」「お祭りみたい」「一日の疲れ」など、本業を示す看板が掲げられている。
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「タマ・リバーをわたるとき、すべての希望を捨てよ」。読み人知らずのハイクが「絶望の橋」という俗称のゆえんである。食い詰め、住む場所を失い、カンオケ・ホテルにすら泊まれなくなった日雇い労働者の最後の吹き溜まりが、このジャンク・クラスター・ヤードなのだ。
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半壊したガレージめいた食堂のオープンスペースでモジョー・ガレットを食べていた男の、目深に被ったハンチング帽と重金属耐性のトレンチコートという身なりは、この町のネイティブたちと比べれば小綺麗とすら言えた。
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小麦粉と化学たんぱく質を水で溶いたペーストを鉄板に流し、半生の状態をヘラですくって食べるモジョー・ガレットは、安価な栄養源としてネオサイタマ下層民の間で重宝される食物である。男はトークンを鉄板の脇に置き、オジギして立ち去った。
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住人の胡乱な視線を受けながら、ハンチング帽の男は迷路じみた路地を歩き、やがて目的の店「有限会社ドウグ」のプレハブへたどり着いた。軒先には木彫りのオメンが吊るされ、魔除けめいて通行人を睥睨していた。
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男は軒先でしばし立ち止まった。ショウジ戸の向こうで争うような声が聞こえてくる。男は店の脇に停められた黒塗りの車両を一瞥した。
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「何度来ようが同じだ!お前には何もやらんと言うておる!」「父さん!僕は貴方から何かを奪おうとか、そんな事これっぽっちも考えてないんです!どうかちゃんと話を……」「出ていけ!ドウグ社はワシの代で終わりだ!」「父さん!」「父さんなどと呼ぶな!オムラの人間は出ていけと言うておる!」
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「僕は、僕はただ……クソッ!」「出ていけ!出ていけ!」パァン!音を立ててショウジ戸が開き、オーダースーツを着た若い男が飛び出してきた。ハンチング帽の男とぶつかりそうになり、「スミマセン」と謝罪した。涙声であった。
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ハンチング帽の男は素早くそのサラリマンを観察した。サラリマンの手の甲には雷神を象徴するオムラ・インダストリの社章がバーコードと共に刻印されている。黒塗りの車両のドアにペイントされた金のエンブレムも同様だ。サラリマンは足早に車に乗り込み、発進させた。
Ninja Slayer / ニンジャスレイヤー @NJSLYR
少しして、中から日焼けした老人が塩を手づかみして現れた。ハンチング帽の男に気づくと彼は無言で会釈し、まず道路にその塩を撒くと、あらためてオジギした。「ドーモ、モリタ=サン。もしかして、今の見苦しいところ、見せちまいましたか」
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「ドーモ」モリタ……つまり偽名を使っているフジキドは、奥ゆかしくノーコメントであった。老人は踵を返し、店の中へ戻って行く。「さあ中へ。出来てますから」「ハイ」
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老人はフジキドを伴って、店内へ足を踏み入れる。黒檀の年代物のテーブルの上にはノコギリ、カンナ、象牙のスクリュードライバー等のクラフトマン・ツールが無造作に置かれ、奥には火の入った小型の炉すらある。天井近くの神棚にはカタナと盃、「安全第一」の毛筆が備えられている。
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みすぼらしい外からの眺め、建物のロケーションとはうってかわり、建物内は厳かな日本的クラフトマンシップの精髄ともいうべき、ゼン的調和に満たされた小宇宙であったのだ。こここそが、江戸時代に創業されて以来ネオサイタマの今へ古のワザを伝えるドウグ社の本堂である……。
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「ドーゾ」老人は黒檀の机の上に、ドウグ社の社紋がプリントされた皮袋を置いた。ズシリとした重み。袋の口から、中に詰まった金属塊が幾つかこぼれ出る。
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フジキドはその一つを注意深く指でつかみ、吟味した。クサビ型の刃が放射状に突き出した機雷めいたフォルム……。貴方がシックスゲイツ級のニンジャであれば、あるいはそれが何であるか解るかもしれない。地面に撒いて敵の動きを封じなおかつ傷つける平安時代の非人道兵器、マキビシである。
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「良い仕事です」フジキドは呟いた。老人は無言の誇りをたたえ、頷いた。フジキドは老人にこの武器の用途の詳細は伝えない。伝えれば巡り巡ってソウカイヤに情報をつかまれ、老人に危害が及ぶ恐れがあるからだ。老人もあれこれ詮索はしない。この取り引き相手がいかなる存在であるか、察しているのだ。
Ninja Slayer / ニンジャスレイヤー @NJSLYR
忍殺メンポ、カギつきロープ、スリケン。ニンジャスレイヤーを支えるツールの数々はドウグ社が信頼の元で用立てたものだ。ソウカイヤのニンジャの中にもこの老人・サブロから道具を手配するスゴウデがいるであろう。しかし顧客の秘密は絶対であった。サブロは顧客名簿を残さず、全て脳内に記憶する。
Ninja Slayer / ニンジャスレイヤー @NJSLYR
「お代はいつものように、前金でいただいてますからね、モリタ=サン。そのままお持ちになってくださいよ」「ハイ」サブロ老人は一瞬無言になり、「……今日はお見苦しいところを。スイマセン」フジキドは無言で耳を傾ける。この老人は話したいのであろうから。
Ninja Slayer / ニンジャスレイヤー @NJSLYR
「あれは私の息子でね。嫁があれを連れて逃げたのは、あれが十歳の時です。なに、私が悪いんですよ。まあそりゃいいです、そして先日、嫁の訃報を携えて私の前に現れまして……そして言うに事確欠いて、オムラだと」吐き捨てるように、「これも好き勝手やってきた私への、ブッダの罰なんでしょうねえ」
Ninja Slayer / ニンジャスレイヤー @NJSLYR
ドウグ社の哲学は「人の手足な」である。義手・義足職人から発祥したドウグ社は、人の営みを支え助ける事をモットーに歴史を刻んできた。産業のオートメーション化を率先して推し進め、人間の仕事を容赦なくネコソギにしていくオムラ・インダストリを彼が蛇蝎の如く憎むのも道理であった。
Ninja Slayer / ニンジャスレイヤー @NJSLYR
「いずれ私の体も思うようにいかなくなるでしょう。仕方の無い事です。ドウグ社は私の代で終わりだ」自嘲的に笑った。「ウチのやり方はもう、時代遅れなんでしょう。どこを見ても、サイバネ、ロボット、バリキにズバリだ。弟子もろくに取れなかった私は、ジゴクで先祖に詫びねばなりません」
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