フューリー・ロード #1

ある意味出オチ
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劉度 @arther456

(これからSSを投下します。TLに長文が投下されますので、気になる方はリムーブ・ミュートなどお気軽にどうぞ。感想・実況などは #ryudo_ss をお使いいただけると大変ありがたいです。忙しい方はtogetterまとめ版をどうぞ。それでは暫くの間、お付き合い下さい)

2017-04-14 21:02:17
劉度 @arther456

――なぜだろう。私はずっと、海に惹かれている。

2017-04-14 21:02:24
劉度 @arther456

【フューリー・ロード】

2017-04-14 21:03:09
劉度 @arther456

鎮守府の波止場に1人の艦娘がいた。白露型5番艦・春雨。桃色の髪をツインテールにした彼女は、車椅子に座っていた。何故ならば、彼女の膝から下は失われているからだ。ある作戦で負傷し、彼女の両足は最新医学でも治せなくなるまで千切れ飛んだ。1

2017-04-14 21:06:05
劉度 @arther456

だが、それは春雨にとって、ある種の幸運でもあった。少女徴兵令によって艦娘になった春雨は、戦いに向いていなかった。性格は穏やかで、頭の回転も少し遅い。心の芯の強さは持っていたが、戦場で生きていくにはいろいろなものが欠けていた。春雨自身もそれは良くわかっていた。2

2017-04-14 21:09:06
劉度 @arther456

だから1年、少女徴兵令で義務づけられた1年が経ったら、すぐに艦娘を辞めようと思っていた。幸い、彼女が所属した佐世保鎮守府第15地区の提督は良識的な人物で、1年で艦娘を辞めたいという春雨の気持ちを汲んでくれた。そうして春雨は、輸送任務などをこなすようになった。3

2017-04-14 21:12:07
劉度 @arther456

佐世保鎮守府第15地区が壊滅したのは、春雨が艦娘になってから半年後のことだった。作戦に参加した提督と艦娘は、彼女を残して全滅。護衛していた輸送船も全て沈んだ。提督不在の15地区は、責任を取らされる形で解体。辛うじて助かった春雨は、両足と帰る場所を失った。4

2017-04-14 21:15:08
劉度 @arther456

それ以来、春雨はこの横須賀鎮守府第33地区で、無為な日々を過ごしている。足を無くした彼女は自由に動き回れないが、だからといって特に酷い扱いを受けているわけではない。決して悪くない環境だが――彼女の胸の中には、いつも焦燥感が燻っていた。5

2017-04-14 21:18:02
劉度 @arther456

朝、目を覚ましてから、夜、眠りにつくまで、何かをしなくちゃいけない、どこかへ行かなくちゃいけないという想いが、春雨の中でずっと渦巻いている。そんな必要は無いはずなのに、焦燥だけが日に日に強くなる。だから春雨は海を見る。そうしている間は心が落ち着くからだ。6

2017-04-14 21:21:09
劉度 @arther456

はぁ、と春雨は溜息をつく。自分の心がわからない。戦いたいわけじゃない。なのに、海にこんなにも心惹かれてしまう。でも、ここで海を見ているだけではいけない。何かをしないと海が遠ざかってしまう。こうして海を見ている今も、少しずつ海が、水平線が、波が離れているような――。7

2017-04-14 21:24:04
劉度 @arther456

「……あ、あれっ?」ような、ではない。春雨の体は物理的に海から離れていた。いつの間にか車椅子の後ろにフックが掛けられ、機関車を模した小型の車に引っ張られていた。「ほっぽー」汽笛の音を口で出して、小型機関車を運転するのは、白い髪の少女だった。8

2017-04-14 21:27:05
劉度 @arther456

「ちょ、ちょっと、ほっぽちゃん!?やめて!?」本名不明、通称ほっぽちゃん。この自称艦娘の正体を春雨は知らない。鎮守府古参の艦娘たちに聞いても、軍機だとはぐらかされるからだ。ただひとつわかっていることは、どうしようもないカオスを振りまく存在だということだけだ。9

2017-04-14 21:30:13
劉度 @arther456

「出発進行……」春雨を乗せた車椅子が、客車めいてほっぽちゃんの乗るミニSL(約3馬力)に牽引される。このままではどこに連れて行かれるかわからない。「誰かー!助けてくださーい!」「はいよー」横から伸びた手が、車椅子に掛かったフックを外した。10

2017-04-14 21:34:06
劉度 @arther456

車椅子が止まる。ほっぽちゃんのSLは、客車が外れたことに気づかず、どこかへ走り去っていく。「た、助かった……」「災難だねー、まったく」「はい……。あ、あの、ありがとうござい……」振り返って、助けてもらった人の顔を見た春雨は、その先の言葉を紡げなかった。11

2017-04-14 21:36:07
劉度 @arther456

「ン、久しぶり、香苗姉さん」丁寧に三つ編みにされた赤い長髪。風にたなびく白いマフラー。記憶の中とはまるで違う格好。しかし、その顔を、春雨ははっきりと覚えていた。「由美江……!?」艦娘になって以来、ほとんど会っていなかった実の妹、春日由美江が目の前にいた。12

2017-04-14 21:39:04
劉度 @arther456

「由美江、どうしてここに!?」「ンー、まあ、そこは歩きながら話そうか」そう言って、由美江は車椅子を押して歩き始めた。「由美江も艦娘になったの?」「そうそう。半年ぐらい前にね。あ、どーもーンちわー」すれ違った艦娘に、由美江は気さくに挨拶する。13

2017-04-14 21:43:05
劉度 @arther456

やがて2人は鎮守府の正門に辿り着いた。「すいませーン、ちょっと外出しまーす」警備員の男性が、詰所から顔を出した。「はいよ。許可証は?」「これっす」「はいはい、2人ね」警備員が許可証を確かめる間に、由美江は外出リストに名前を書き込んだ。14

2017-04-14 21:45:02
劉度 @arther456

「それじゃ、行ってきまーす!」由美江は春雨の車椅子を押して、鎮守府の外に出た。「……あ、あれ?由美江、どこに行くの?」妹に久しぶりに会えた感動に浸っていた春雨だったが、ここでようやく、頼んでもいないのに鎮守府の外に連れ出されていることに気付いた。15

2017-04-14 21:48:01
劉度 @arther456

「ンー?いや、説明はもうちょっとだけ待ってくれ」由美江は足を止めない。角を曲がると鎮守府が完全に見えなくなり、春雨は急に不安になった。ここは飲食店の多い通りだ。夜は賑わっているが、昼間はあまり人も車も通らない。シャッターの前に1台のハイエースが停まっている程度だ。16

2017-04-14 21:51:03
劉度 @arther456

そのハイエースの助手席から、男が一人降りてきた。彼はハイエースの後部ハッチを開けた。由美江は迷うことなくその側に車椅子を進める。「重いから気をつけてくれよ」「おう」「え?」由美江と男は両側から車椅子を持ち、春雨ごと車に積んだ。17

2017-04-14 21:54:10
劉度 @arther456

「え?」続いて由美江が車に上がり、男はハッチの扉を閉めた。「え?」エンジンがかかり、車は春雨たちを乗せたまま走り出す。「よし、それじゃあ早速説明するよ」床にあぐらをかいた由美江は、春雨の目を見つめて、こう言った。「姉さんを助けに来た」「……ええーっ!?」18

2017-04-14 21:57:04
劉度 @arther456

「いやあ、悪いわね、不知火。セールスに付き合わせちゃって」「問題ありません。提督からの許可は得ています」東京から横須賀に向かって、1台の商用バンが走っていた。側面には「五十鈴自動車」のロゴが入っている。社長の五十鈴が営業に使う専用車であった。20

2017-04-14 22:00:14
劉度 @arther456

五十鈴と不知火は東京でトラックの売り込みを行った帰り道だった。10年前の深海棲艦の爆撃によって壊滅した東京だが、かつての首都という名残を忘れられず、未だそこに残る人は多い。インフラが壊滅した瓦礫の都市での輸送手段は、電車でもヘリでもなく、トラックが主役だ。21

2017-04-14 22:03:08