フューリー・ロード　＃３

劉度 @arther456

二頭の虎を描いた屏風が、彼の村を滅ぼした。村で幅を利かせていた党員が買った屏風は、夜な夜な絵の虎が抜け出し、周りの人間を食らう呪物だった。党員はそれを知りつつも、「高い金を積んだモノを手放したくない」という、余りにも愚かな見栄のために、村人を犠牲にし続けた。22

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彼が兵役を終えて故郷に帰ってきた時、村人の半分以上が虎に食われていた。家には両親も、妻も、息子もいなかった。これだけの事があっても、党員が金をばら撒き続けたせいで、周りの村も省の役人も誰も気が付かなかった。あるいは屏風の呪いがそうさせていたのかもしれない。23

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生き残った僅かな村人が隣の村に駆け込み、警察が駆けつけた時、村に生者は残っていなかった。党員の屋敷には、牙や爪で惨たらしく殺された死体がいくつも転がっていた。そして、例の屏風には、虎の額を貫くように、２本の矢が刺さっていた。屏風の虎が抜け出すことは、もう無かった。24

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当局は真実を隠し、姿を消した退役軍人を大量殺人犯として追っている。だが、村の生き残りが、彼の戦いの真実を噂した。いつしか彼は、二つ名でもって語られるようになった。描かれた虎を射抜き、屏風の呪いに終止符を撃った男。『二次元ハンター』バオ・リュウと。25

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ハイエースの車上で、バオは矢を番えた。車は派手に揺れているが、山野を駆け巡って鍛えられた足腰にとっては、どうということはない。バオは狙いをつけると、追手の運転手に向けて矢を放った。矢はフロントガラスと運転手の眉間をやすやすと貫通した。26

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コントロールを失った車が急カーブし、道端の瓦礫に激突、爆発炎上する。その間にバオは次の矢を番え、放っていた。ハイエースを追い抜こうとしていた車の運転手が射抜かれる。２人殺されてようやく追手は気を取り直し、爆発槍を手に自殺同然の突撃を仕掛けてきた。27

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「俺を見ろォォォッ！」槍手が吠える。追手の一台が加速し、ハイエースに体当たりを仕掛けてきた。バオは運転手を狙おうとし、舌打ちした。口に銀色のスプレーを吹き付けた運転手と槍手の若者は、どちらも死ぬ気だった。異様な前のめりの姿勢と、狂気に満ちた目を見れば明らかだ。28

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ほんの僅かに深呼吸を行い、バオは深く集中した。主観時間が鈍化する。追突まで５秒。運転手と槍手、どちらを撃ってもどちらかが食らいついてくる。なら、手段は限られる。猶予はないが、バオは落ち着いていた。この程度、故郷で２頭の虎を相手にした時と比べれば、造作もない。29

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バオは運転手に矢を放った。胸を貫かれ、運転手の体が痙攣する。それと同時に槍手がハイエース目掛けて飛んだ。両手に持った爆弾槍が、ハイエースの天井に叩きつけられるまで１秒も無い。その僅かな瞬間に、バオは二の矢を取り、番え、そして放っていた。30

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頭を撃ち抜かれ、槍手がアスファルトに叩きつけられる。彼が取り落とした槍を追手が踏みつけ、大爆発を起こした。最初の包囲網は崩した。だが新たな包囲網が迫ってくる。敵の数が多すぎる。このままでは埒が明かない。バオはしゃがみ込み、運転席に声をかけた。「チェン！」「なんだ！？」31

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運転手が窓から顔を出した。「橋を渡れ！できるだけ狭い橋だ！敵を分断する！」「わかった！」車が一層加速した。バオは矢を手に取り、次の獲物を探す。リーダーらしき改造キャデラックが前に出ていた。自ら決着をつけるつもりだろうか。バオはその運転席目掛け矢を放った。32

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しかし矢は窓ガラスに弾かれた。「防弾ガラスか」いかに必中といえども、木製の矢では強度が足りない。バオは矢筒から新たな矢を引き抜いた。その先端には鏃ではなく、鏑矢めいた丸い物体がついていた。バオが弓を引くと、ヒュウッ、と音を立てて矢がフロントガラスに命中した。33

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矢の先端はペイント弾だった。白いペンキが運転手の視界を奪う。とっさに急ブレーキをかけたキャデラックに、次々と部下の改造車が追突していった。だが、それを避けて高速接近する車もあった。五十鈴の営業バンだ。助手席から紫色の髪の少女が身を乗り出し、バオに拳銃を向けている！34

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「ッ！」バオはとっさに伏せた。銃弾が頭上を通り過ぎた。伏せた体勢から矢を撃つが、少女は車に身を引っ込めて避けた。ペイント弾はさっきの１発しかない。さて、どうするか。バオが作戦を考えていると、ハイエースのクラクションが鳴った。振り返ると、車は埠頭に続く橋を渡ろうとしていた。35

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バオは後方に目をやった。巨大なスピーカーを積んだトラックが距離を詰めてきた。追手はあれを盾にして、このハイエースを包囲するつもりだ。この橋を渡り終えるまでになんとかしなければならない。危険を承知で、バオは立ち上がった。五十鈴の車の助手席の少女が銃を構える。36

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その時、ハイエースのトランクドアが開いた。そこから銃弾の嵐が放たれ、五十鈴の営業バンに襲いかかった。少女は危険を察して体を戻す。誰が撃ったかは知らないが、これで安全に狙いをつけられる。バオが矢筒から取り出した矢には、先程ともまた違う、円錐型の鏃がついていた。37

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狙いは営業バンの後方、スピーカー搭載の巨大トラック。そのエンジン目掛け、バオは弓を射った。放たれた矢はボンネットに命中し、そして――爆発した。爆炎はエンジンに入り込み二次爆発を、更にガソリンタンクにも火が燃え移って三次爆発を引き起こした。38

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巨大なトラックが爆圧によって空中に舞った。後方宙返りしたトラックが背中から地面に落ちる。そこに、追走していた改造車たちが、ブレーキをかけられずに次々と突っ込んでいき、更なる火種となった。橋は燃え盛る残骸によって完全に封鎖された。39

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「よし」小さく頷くと、バオは磁力ブーツのスイッチを切り、車内に戻った。ちょうど、白雪がサブマシンガンを五十鈴のバンに向かって撃っているところだった。「もういい。援護、感謝する」「少々、弾幕が薄いような気がしたので」バオはトランクドアを閉める。防弾装甲が銃弾を弾いた。40

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「し、死ぬかと思った……」江風はへとへとになって助手席にもたれかかっている。その向こう側にいる春雨も同じだろう。そろそろ全員、体力の限界だ。「白雪さんよぉ！そろそろ着くけど、お仲間は来てるのかい？」ハンドルを握りながら、チェンが聞いた。41

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白雪は懐から通信機を取り出し、耳に当てた。「はい、はい。いえ、追手がまだ１台。33地区の車です。……そうですか、了解しました」何度か通信を交わした後、白雪は顔を上げた。「予定通り行きましょう。私と江風さん、春雨さんはヘリで。チェンさんとバオさんはこのまま車で逃げてください」42

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「後ろのバンはどうする？」「ヘリの機銃で追い払います」「よし来た。もう一踏ん張りだなぁ！」運転手がアクセルを踏み込んだ。車は一層加速し、埠頭最西端へと走っていく。その先の空には、１機のヘリコプターがホバリングして、彼らが来るのを待っていた。43

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【フューリー・ロード】＃３おわり＃４へ続く

劉度 @arther456

@entry_yahhoo オツアリドスエ！なんか発作的に出してしまった（