軌跡-locus-

本当の幸せとは、何なのだろう。 その魂は愛を貫くために。 その魂は愛を護るために。 続きを読む
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ばしこし@文垢 @bs_ks_0

いつだってそう。 孤独は幾度も胸を刺し、寂しさは何度も愚かな願いを抉り起こす。 眠りに落ちたその先で、その心は何を想う。

2016-12-28 12:53:18
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

―――彼の者は、堕ちる。1

2017-01-28 00:01:47
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

いつだってそう。 孤独は、幾度もその胸を刺す。絶望は、ひとつ砕いてもまた欠けた希望を探してそれを喰い尽す。 傷ついた心は、拠り所を求めて。感情は、出口のない迷路を永遠に彷徨い続ける。2

2017-01-28 00:01:58
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

かつて己が決意した意思も。己が胸の中に閉じ込めた想いも。それら全てが、永久に己を蝕む毒と化す。眠りに落ち―――しかしその心は今でも求めている。暖かな存在を、愛した者と過ごす日々を。ただ、望むままに。感情の赴くがままに。彼の中、少しずつ少しずつ、愚かな願いを抉り起こす。3

2017-01-28 00:02:29
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

"寂しさ"を無理やりに押し込んだ"箱"にかけた鍵は、こんなにも脆くすぐに壊れてしまうと、きっとどこかで知っていたのに。やがて辿りついた末路は。導き出した答えは。優しかった蒼い瞳をも、いとも簡単に漆黒に塗り潰す―――。4

2017-01-28 00:02:46
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「……あぁ、ハイド……」 ごめんね、俺が間違っていた。これからもずっと…ずっとずっと、一緒に居よう―――。 闇の中、光も何もない世界で。彼の笑顔だけが、不気味な輝きを放っていた。眠りに落ちたその先で、その心は何を想う―――。5

2017-01-28 00:03:50
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

断末魔が響き渡る。空気を震わせるそれは、二人の鼓膜を揺さぶった。巨躯が崩れ落ちる地響きは、闘いの終わりを告げる。太陽の光は、西に傾きかけていた。オレンジ色の陽が横顔を照らす。 「……ふん、呆気の無いものだな」 先ほどまで命のやり取りをしていたとは思えない、落ち着いたベルゼの声。7

2017-01-28 00:27:43
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

その手で相棒である盾斧を片手で軽々と薙ぎ払った。その衝撃で、刀身を彩っていた赤い血が、いくつもの点となって地を飾る。 「…全く、やはり強いな…貴方は」 彼の後ろ、背に双剣を戻しながら、ハイドはその銀の髪を揺らす。頬を撫でる風は、少し冷たい。8

2017-01-28 00:28:22
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

獲物を仕留め終えた二つの武器は、各々の光沢を陽の光と同化させ、一層眩く煌く。緊張の糸が切れたのか、深く呼吸する彼女の背を一瞥するベルゼの瞳が、小さく揺れた。 「……お前の体力が無さすぎるだけだろう。………?」 更に何かを言いかけた彼の眉が、険しくなった。―――なんだ、今のは。9

2017-01-28 00:28:51
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

視線を地に落とし、今一度意識を集中させる。 《―――……ベルゼ、………―――》 「……!」 今度ははっきりと、その声が届いた。聞き間違うはずがない、声。彼の魂に刻み込まれた記憶は、まるで共鳴するかのように心臓を疼かせる。速くなる鼓動に、思わず呼吸が乱れる。10

2017-01-28 00:29:29
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

ハイドを横目で見やると、その様子から、彼女には"彼"の声が聞こえていないのだとわかった。―――何故今さら?何の意図がある?浮かんでは消えていく疑問をベルゼが口にする事はなく。再び神経を集中させても、それ以上声が聞こえる事はなかった。11

2017-01-28 00:30:09
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

ただ、わかった事は。消え入りそうな声色は、まるで何かを彼に訴えかけるようにか細かった。沈む太陽は徐々に光を奪い、地を闇夜に染める。それと同化してしまいそうな、どこか色を失った。 「…?どうかしたのか、ベルゼ」 冷たい風が髪を撫でる。訪れたしばしの静寂を、ハイドの声が破った。12

2017-01-28 00:31:04
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

"彼"と同じ蒼い瞳が、心配そうに彼を覗き込む。紅と蒼が一瞬、交差した。ベルゼは軽く息を吐くと、彼女から視線を逸らし空を見上げた。小さな星たちが顔を出し始めた夜空が、紅蓮色の海に映り込む。 「……何でもない。…帰るぞ」。13

2017-01-28 00:31:42
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

感じた違和感を胸にしまい込み、ベルゼはおもむろにハイドに背を向けた。ざわつく心を、気のせいだと思い込む。すでに薄暗くなりつつある空は、間もなく二人諸共大地を闇へと誘うだろう。果ての無い黒に、飲み込まれる前に。地を踏みしめる彼の足音と、その背を追うハイドのそれが静かに鳴り響く。14

2017-01-28 00:32:13
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

今夜の"黒"は、どこかいつもより居心地が悪く感じた。15

2017-01-28 00:32:19
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

ここは、どこだろう。夢の中、にしては妙にリアルだった。体は自由に動かせるし、視界もはっきりとしている。ただ、見渡す限り一面真っ白で終わりのない世界が、そこには広がっていた。一度、己の姿に視線を落とす。その身を包むのは、荒鉤爪と呼ばれる存在の素材を使い、細かく加工された防具。17

2017-01-28 00:33:01
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

青白く煌くその容姿に、瞳を細めた。背負う相棒もまた、輝きを失う事なく。盾の状態で彼の背に鎮座する盾斧は、静かにその刃が解き放たれる瞬間を待っている。"鉤爪盾斧【荒騎虎】"。ルドラディバイドの最終形態の盾斧。これもまた、かの青きティガレックスの素材が使われている。18

2017-01-28 00:33:32
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

かつてその爪と刃を交えた時に身を以て感じた力強さは、今は己の強い味方としてその身を護り敵を斬る。現実世界と何も変わらない。変わった所といえば、今己が立っているこの場所くらい。音も無く、ひたすらに真っ白な世界。絶望を喰らい闇の中で生きてきた彼にとって、此処は少し眩しかった。19

2017-01-28 00:33:56
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「…お久しぶり、ですね」 不意に、声が耳に届いた。耳に、というよりは、"直接脳内に響いた"といった方が正解に近いかもしれない。昼下がりに聞こえてきた、幻聴のような、しかしやけに鼓膜に絡みつく声を思い出す。そう、今まさに聞こえるこの声は、紛れもなくあの時に聞いたそれと同じ。20

2017-01-28 00:34:29
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

―――俺は知っている。凛としていて、しかしどこか寂しげなこの声も。優しく語り掛けるような、この話し方も。彼は表情を変える事なく、一呼吸置いて静かに息を吸う。 「……ふん、仰々しいな。…俺を呼んだのは、お前だろう」。21

2017-01-28 00:35:03
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

とりわけ驚く様子もなく、ゆっくり振り返ると。この白の世界に、ベルゼとはまた別の存在が姿を現していた。顔を覆う仮面を外し、改めて目の前の人物と対峙する。その姿を紅蓮に揺らめく瞳が映し出す。忘れるはずがない。魂を分かち合った、もう一人の自分の存在を。 「…なんの用だ。…イース」。22

2017-01-28 00:36:08
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

ベルゼの声が、場の空気を震わせた。ふたつの紅い目は、前に立つ蒼い瞳を射抜くように見据える。魂を預け、異なる世界線を生き、次元を超え命を共有した―――己の中で静かに眠っていたはずの、イースの目を。23

2017-01-28 00:36:45
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

その視線の先、"もう一人の自分"がふっと微笑んだ。その笑顔は、場の静けさにとても似つかわしくない程に穏やかで。一瞬、ベルゼの背に冷たいものが走った。胸の奥がざわつき、鼓動が激しく脈打つ。24

2017-01-28 00:37:29
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