【HYDE】Another Story - 2.復讐/断罪

邂逅するふたり。互いに感じたものは何か。物語の歯車が動き出す。
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ばしこし@文垢 @bs_ks_0

仲間と別れてから幾日。ハイドは樹木が立ち並ぶ地に立っていた。背負う双剣は碧と紅に煌き、彼女の背を彩っている。”クシャルダオラ”と”テオ・テスカトル”各々の宝玉の力を結集させた防具を身に纏い、彼女は更に奥深くへと歩みを進める。《…気配はない、しかし油断はするな》。「…ああ」。1

2015-11-11 18:02:04
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

自らの頭に直接流れるように響くクシャルダオラの声に、ハイドは肯定の意を返す。《…しかし珍しいな、お前が他の人間の頼みを断らぬとは》。そう、彼女がこの樹海へ足を踏み入れたのには理由があった。数刻前、街のほとりにあるこの樹海の入り口で、彼女は目に涙をためた小さな女の子と出会った。2

2015-11-11 18:05:28
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

『この樹海の奥地にしか無いと言われている薬草が欲しい』。泣き出すのを堪えながら言葉を紡ぐ女の子へハイドは静かに頷いた。『…待ってな』。ーーーそして今に至るのである。《仲間と戦う内に…思いやりの心が生まれたのかもな》。「……うるさいぞふたりとも」。小さく溜息をついて悪態をつく。3

2015-11-11 18:08:28
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「最近目撃が多発してる狂竜化したモンスターの調査のついでだ。勘違いするな」。これ以上何も言わせまいと、少し強い口調で言葉を締める。果たしてその言葉は本心か否か。二頭のモンスターは何も口にはしなかった。ただ贖罪と断罪の為に剣を持ち、懺悔の糧とする…その心根は、未だ彼女の第一だ。4

2015-11-11 18:12:44
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

【訂正】Another Story2-断罪/復讐 2P 街のほとり→街の外れ

2015-11-11 23:39:36
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

しかしその中で、確実にハイドの”心”は光を取り戻しつつある。常にそばにいた相棒達はそうも感じていた。仲間と接する中で、あるいは”何かの為に”剣を振るう事で、図らずも奥底に閉じ込めた感情の鍵としてしまったのかもしれない、と。もしそうだとするならば。(…なんと、皮肉なものか)。5

2015-11-11 23:43:45
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「…?」。遥か遠く、本当に微かな。しかしそれは確実にハイドの耳へと届いた。「咆哮…これは、この樹海で目撃情報が多かったティガレックスのものか」。街の人々が最近専ら”轟竜の蠢く森”と噂して近付かなくなったと言われるこの樹海。今までも轟竜の目撃情報はあったが、ここ最近は特に多い。6

2015-11-11 23:48:21
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

短時間で急激に個体数が増えるのは些か異常な感じさえする。捕食対象が枯渇したか、縄張り争いが激しさを増したのか。それとも。「…何かに、住処を追われたのか」。すべての可能性が決してありえない訳でも無く、ハイドは一旦その情報を思考回路からシャットアウトさせた。今は探索が先だ。7

2015-11-11 23:51:55
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

ふと注意を周囲へと戻すと、咆哮はおろか微かに感じ取れた気配すら消えていた。対象が生きていれば何かしら感じ取れるものはある。「…クシャ」。少し気味の悪さを感じ、ハイドは相棒へと声を投げる。《…いや、わたしももう何も感じない》。ほぼ予測通りの答えが返って来た。ハイドは眉をひそめる。8

2015-11-11 23:54:43
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「少なくとも2頭は居た。それがこの短時間で共食いでもしたか?」。柄にもない冗談を口にしてしまうくらいには、空気は穏やか過ぎるものだった。しかし念には念を、背の双剣を手に持ち、抗竜石の効果を乗せる。万が一生きている個体が居て、それが狂竜ウイルスに犯されていても対処出来るように。9

2015-11-11 23:57:40
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

道を遮る木々を避けながら歩みを進めると、広く開けた場所へ出た。そこで目にした光景は。「……これは」。地に伏した2頭の轟竜の果てた姿と、鉄槌を持ち佇む、1人の人間の姿。返り血を浴びて煌めく金の防具が、ハイドの視界を支配する。見る限り、1頭はウイルスに犯されていたようだ。10

2015-11-12 00:03:37
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「……、」。不意に、視線の先の人物が振り返った。目が合う。返り血を纏う銀の髪は、この場にそぐわぬ美しささえ感じさせた。《…ハイド》。クシャルダオラの声が頭に響いた。その声色からおおよそを察し、彼女は大丈夫、と一言。「…少なくとも、わたしへの殺気は無い」。11

2015-11-12 00:08:20
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

静かだ。風の音も木々のざわめきも無い。一瞬無の中に居るのではと錯覚してしまう程の静寂。一呼吸置いて、ハイドは視線を逸らす事なく、目の前の存在に問いかける。「これは、お前が仕留めたのか」。返答はすぐには返らない。銀の髪を風が揺らした。青い瞳が彼女を射抜く。「…だとしたら」。12

2015-11-12 10:40:14
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

どうする、と。静けさに溶け込むような、しかし力強い声だった。表情を変える事なく、その手に持った鉄槌を背に直す。「捜し物があった。だが見つからなかった…それだけだ」。ハイドの言葉を待つ事無く、彼は歩き出した。その距離が少し、また少しと確実に近付く。すれ違う時、目の前に手が。13

2015-11-12 10:47:46
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

余りにも予測不能な行動に戸惑いはしたものの、瞬時に我に帰ったハイドはその差し出された手に視線を移した。そこには。「…秘薬草?」。これは、彼女自身が捜していたものと全く同じだった。「…渡しておいてくれ」。それだけ告げて、彼は再び歩き出した。ふわり、とハイドの頬を銀の髪が掠める。14

2015-11-12 10:53:06
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「…ハイド」。お互い背を向けた状態で、ハイドは自らの名を口にした。足音が、少し先で止まった音がする。「わたしの名だ。…お前の名を、知りたい」。表情は見えない。それはお互いに言える事。暫しに渡る静寂を破ったのは、鉄槌を負う背の持ち主。「……イース」。一言。彼女の望む答えだった。15

2015-11-12 10:57:46
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「イース、……」。その名を復唱するハイドの声は、風の中に融け消えてゆく。いつの間にか背後からは気配が消えていた。幾度目の静寂が訪れる。倒れ伏した轟竜達を一瞥し、ハイドは樹海の入り口の方向へ踵を返した。「想定外ではあったが目的は果たせた。…帰る」。頭の隅に、先の姿を浮かべて 。16

2015-11-12 13:05:02
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「あっ、お姉ちゃん!」。入り口まで戻ると、女の子が泣き腫らした目をぱぁっと見開いて走ってきた。「ずっと待っていたのか」。相変わらず表情を変えないハイドとは正反対に笑顔になったりしゅんとしたりする女の子。「うん………」。そんな小さな命を、ハイドはそっと撫でてやった。「ほら」。17

2015-11-12 13:10:56
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

その手には頼まれ物が乗っていた。それを見るや女の子の顔が一層輝く。「わあ!ありがとう!」。これでお母さん良くなる!と跳ねて喜ぶ女の子を宥めながら、ハイドはある疑問を投げかけた。「君は…鉄槌を背負う銀髪の男にも声をかけたか?」。首を傾げる女の子。《…ハイド、些か言葉がかたい》。18

2015-11-12 13:14:34
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

炎王龍に指摘され、ハイドは少し頭をひねった。「……銀色の髪の毛のお兄ちゃんにも探し物を頼んだのかい?」。その言葉にはすぐに反応を示し、女の子は肯定の意を頷きで表した。「うん、お姉ちゃんが来るほんの少し前でね…。ここ殆ど人が立ち寄らない場所だから縋る思いだったんだ」。19

2015-11-12 13:18:51
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「…そうか」。ハイドは少し何か考えた後、再び女の子の頭を撫でた。「これはそのお兄ちゃんから渡された物なんだ。また見かけたら彼にも礼を言ってやってくれ」。その言葉に対しても笑顔で首を縦に振り、女の子は街の方へと駆けて行った。《……お兄ちゃん………》。「…………斬るぞ」。20

2015-11-12 13:21:08
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

ふと、先程イースと名乗った人物の言葉を思い出す。”捜し物”とは一体何の事を示すのだろうか。轟竜の事なのか、ウイルスに犯された個体なのか、はたまたそれ以外の何物か。考えれば考えるほど考えは絡まり合い、彼女だけの情報処理能力では答えを見出せない。「……気になるな、あの者の存在」。21

2015-11-12 13:23:55
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

轟竜の死体を見下ろすイースの瞳は、今でもはっきり覚えている。光も生気すらも宿さない、闇を抱えたもの。それは以前の己自身の瞳と合致する。ただ武器を取り、破壊と殺戮の衝動だけで己を生かす存在。しかし、あの瞳は他人を拒絶はしなかった。…彼の事を知りたい。純粋に浮かんだ望みだった。22

2015-11-12 13:28:40
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「…クシャ、テオ」。彼女は己の中に宿る二つの古龍の魂に語りかけた。「…しばらく、行動の最優先事項を変更する」。《…構わない。我らはどこへも共に行く》。肯定の言葉を受け、ハイドは静かにありがとうとだけ述べた。《…先の者は…、》。ふとクシャルダオラの言葉が頭を走る。23

2015-11-12 13:32:13