【HYDE】Another Story - 3.再会

数日の時を経て、二人はまた樹海の一角で出会う。互いを知り、物語の歯車はゆっくりと回り続ける。
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ばしこし@文垢 @bs_ks_0

不思議な出会いから数日が経とうとしていた。ハイドは街にある酒場を兼ねた集会所を訪れていた。この街に来てまだ日が浅かったのもあり、多くの情報が飛び交うこの場所はうってつけだった。噂を元に辿りついたこの街…噂とは正に”轟竜”の、ウイルスにより狂竜と果てた個体を含めての異常な目撃数。1

2015-11-15 17:44:15
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

異質な上に無視できない何かを感じ取った彼女は、その噂について確かめる為の調査に来たのだった。思いがけぬ出会いは、調査の為…と少女の為に訪れた樹海で、ターゲットではなく、それを屠りし鉄槌を持つ狩人と。「…あいつも、捜し物をしていると言っていたな」。あいつ、とはイースの事だろう。2

2015-11-15 17:48:27
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

時刻はもう夕方になる所か、空は橙に輝きを放っていた。酒を煽る者が段々と増えてくる。しばし前に商人に聞いた話だと、轟竜の噂は瞬く間に広がり、それらが街に下りてくるという恐怖を無くす為に多くのハンターが訪れているという。実質、ハイドがここに来た日と今日を比べてみると一目瞭然だった。3

2015-11-15 17:51:30
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

街を歩く狩人が増え、集会所は一層賑やかになっていた。周りを一瞥し、彼女は小さく息を吐く。「…なあ、イースは何を捜していると思う」。誰にも聞こえない程の小さな声、しかし”彼女の内に生きる命”は明確にその質問に言葉を返す。《わからぬ。あの者の目からは殺戮以外の目的は見出だせん》。4

2015-11-15 17:55:25
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

クシャルダオラの返答に、彼女はわかっていたかのように「まあ、そうだな」と呟いた。あの瞳は戦場を求めしもの。光を失った目はただ相手の血を焼き付ける事で潤い、渇きを癒す為にまた戦いを求める負の連鎖。彼の捜しているのはただ戦える場所なのでは。「…なら、最初から薬草なんて探さない」。5

2015-11-15 17:58:45
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

単なる気紛れだったのか。気紛れにしてはハイドに対する殺気は微塵も感じなかった。モンスターへの殺気は鋭く、しかし人への殺気は打ち消す事の出来た彼。”一昔前の自分”なら、決して出来はしなかった行動。イースの光の見えない渇いた瞳は、ハイドの知らない心を持っているのかもしれない。6

2015-11-15 18:03:22
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

同じだと感じた。確かに同じ部分は持ってはいるだろう。しかしまだハイドの知らない、己とは違う何かを持っている。”興味”を抱くのはいつぶりだろうか。集会所を後にすると、遠くで微かだが咆哮が聞こえた。「…近いな、樹海の奥までも行かない…半ば辺りからか」。7

2015-11-15 18:22:02
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

体内に眠る2つの”宝玉”は、ハイドの体に大きな跳躍を与えていた。聴力もその1つだ。聴力を司る神経を研ぎ澄ます事で、一時的にその能力を格段に上げる事が出来る。賑やかになった街で音を拾うには絶好のものだった。しかし、当然頻発に駆使すると疲労として体にのしかかる。使い過ぎには用心だ。8

2015-11-15 18:22:20
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

無意識の内に、その歩みは樹海の方へと向かっていた。「行こうか。何かわかるかもしれない…それに、また”彼”に会えるかもしれない」。西日がハイドを照らし出し、その防具が光を反射して煌めいた。《…しかし気は抜くな、ハイド。今日は空気が一層殺気立っている》。「あぁ…感じてるよ」。9

2015-11-15 18:32:33
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

テオ・テスカトルの慎重な声に、ハイドは頷いた。その言葉の通り、一層殺気を増した空気が彼女の肌を掠めては消え、また掠めては消える。その変化は微量なものではあったが、身体中に突き刺さる冷たさは確かなもので。それだけに歩みを進める脚は速くなる。その手には、”抗竜石”が握られていた。10

2015-11-15 19:59:40
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

ーーー所変わり、樹海のほぼ中心部にイースは居た。1頭の轟竜と対峙するその場所は、殺気に満ち溢れた亜空間のようだった。”抗竜石”の効力を得たその鉄槌は光を放ち、彼の瞳は標的を射抜くほど鋭い。目の前で低く唸り声を上げるティガレックスは、どす黒いオーラのようなものを纏っている。11

2015-11-15 20:06:29
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「狂竜化されたとて所詮は轟竜…か」。己の鉄槌により傷を負った轟竜の姿を見据え、イースは静かに呟いた。求め続ける存在は、こんなちっぽけな力を振るうだけの奴じゃない。本当に奴に辿り着けるのか。こんな戦いは、回り道に過ぎないのだろうか。「………」。考えたが頭を振って思考を捨て去る。12

2015-11-15 20:11:09
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「…構いはしない。俺は決めたんだ…辿り着けるまで、捜し出すまで、この鉄槌を手に取り続けると」。再び鋭い眼光を取り戻し轟竜を睨みつけると同時に。背後の樹木が勢いよく倒れる音がした。反射的に振り返ると、そこには。「ーーーもう1頭いたのか…!」。黒みがかったオーラを纏う、黒轟竜。13

2015-11-15 20:13:18
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

殺気が上乗せされた空気は淀み、イースの肌を刺す。鉄槌を握る手に力が入った。「…来い」。しかし物怖じず、彼は言った。飛びかかって来る巨躯を避けると、先程まで対峙していた轟竜が追い討ちをかけてくる。「っ!」。一瞬の判断、彼は真っ向からその突進を受けた。頭めがけ、武器を振り下ろす。14

2015-11-15 20:19:55
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

悲痛な叫び声と共にその突進は阻んだ、が。「ーーーっ、!」。目の前の巨躯の微かな動きを感じたが、刹那の遅さ。後ろへと飛び退く瞬間に、その爪がイースの右脚を抉る。距離をとった先で思わず膝をついた。傷を確認すると幸いあまり深くはないようだが、流れ落ちる血は止めどなく流れている。15

2015-11-15 20:27:13
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

傷を付けた個体はすでに息絶えているのか、ピクリとも動かない。しかしその後ろで殺気立つ新たな乱入者は、その鋭利な牙をちらつかせながら彼を捉えていた。「…ぐ、」。立ち上がろうとするも、右脚には激痛が走り思うように力が入らない。「仲間が感じたのは、こんな生ぬるいものじゃない…!」。16

2015-11-15 20:31:15
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

己を奮い立たせるように、ぐっと力を込めて立ち上がった。こんな生ぬるい痛みが何だ。体を支配せんとする痛みに耐えながら、イースは鉄槌を握り直す。黒轟竜が傷ついた彼への慈悲など持ち合わせるはずもなく。大きく咆哮を上げ、狂気に満ちた赤い瞳が距離を詰める。「この距離ならまだ…っ」。17

2015-11-15 20:39:42
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

左脚だけで地を蹴りその突進を避けると共に、渾身の力で体へと鉄槌を振り下ろした。「ーーーっ!!!」。しかし、その攻撃は全て己に跳ね返ってきた。(…効力が、切れたのか…っ!)。こんな時に限って。彼の持つ相棒から抗竜石の効果は切れ、狂竜と化した黒轟竜の体はその衝撃を突き返してきた。18

2015-11-15 20:42:57
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

完全に体勢を崩した。目の前には鋭い爪。何をしているんだ。動け。そう信号を発しているはずなのに、体は言う事を聞いてくれない。痛みが思考回路を遮る最中でも、巨躯のその爪は無慈悲に彼を引き裂かんと迫る。「…こんな所で死んでやるつもりは、ない!」手から離れた相棒を、再び手に持った。19

2015-11-15 20:51:02
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

衝撃は、落ちてはこなかった。変わりに、イースにかかる影。「……その傷で鉄槌を持って、一体何をすると?」。声の主を、彼は知っていた。ゆっくりと視線を上げると、黒轟竜の爪を青い光が纏う短剣で受け止める狩人と、目が合う。「……ハイド」。ハイドは静かに目を閉じ、視線を目の前に戻した。20

2015-11-15 20:58:04
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「…クシャ、頼む」。刹那、ハイドの持つ短剣が輝きを増す。受け止めていた鋭い爪を弾き飛ばすと、爪が砕け散った。怯む黒轟竜に隙を与える事なく、ハイドは喉元目掛けて氷の剣を突き立てる。「凍れ、その命と共に」。冷気を纏う短剣はクシャルダオラの力を具現化し、巨躯の体はみるみる変色する。21

2015-11-15 21:04:04
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

絶対零度をも超えるその冷気は、瞬く間にその命を融けぬ氷へと変えた。暴虐だった姿は、今はもうかけらも無い。「…脆い」。ボソッと呟くと、彼女は背に負うもう一振りの短剣を手に取り、氷の短剣と共に振るった。その斬撃はものの見事に氷を砕く。その中に眠る命も共に。「…さて」。22

2015-11-15 21:08:18
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

一呼吸置いて、彼女は振り返った。そこに居るのは、再会を望んだ存在。「…深くはないが出血がひどい。ずいぶんなやられようだな」。しゃがんでイースの傷の具合を確認する。ハイドの言葉に彼はバツの悪そうな顔をした。「…、不運が重なっただけだ」。「…なら、わたしが来た事もか?」。「…」。23

2015-11-15 21:14:28
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

冗談だ、と目の前の彼女は小さく笑った。「…意外と意地の悪い冗談も言うんだな」。予想外なハイドの言葉に、イースは少し戸惑いを覚えると共に、先程までの張り詰めた気持ちが一気に解れるのを感じた。手先に暖かさが戻る。「助かったよ。君が来てくれてなければと思うと…結構ゾッとする」。24

2015-11-15 21:17:54