【HYDE】Another Story - 2.復讐/断罪

邂逅するふたり。互いに感じたものは何か。物語の歯車が動き出す。
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ばしこし@文垢 @bs_ks_0

ただ中途半端な所で途切れ、その先を待つが声は聞こえず。「…?どうした」。《…いや。気にするな》。訝しげに問うハイドに、相棒は一方的に言葉を終わらせる。少し疑問が残る返答だったが、ハイドもそれ以上は追求はしなかった。”昔のお前に、そっくりだった”。具現化する事の無かった、言葉。24

2015-11-12 13:36:10
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

某の命、誰が為に。某の刃、何が為に。 其の心、何処に在りて。其の想い、此処に在り。 断罪の刃は心切り裂いて。懺悔の涙は血に同じ。贖罪の地に心など要らぬ。 ーーー生きる意味。答えは既に。簡単な事だ。誰しもが等しくして通る道なのだから。ただ、”寄り道”によって変わるだけ。25

2015-11-12 17:56:07
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

友人の言葉を思い出し、独り笑う。上手く言ったものだ、”寄り道”など。「ならば、俺の寄り道は、」。樹海に存在する深い深い崖を超えた先、次に彼はそこに居た。眼前で己に牙を剥く、黒い轟竜と対峙しながら。「……違う」。ただひたすらに、機械のように呟く。「お前じゃないんだ」。26

2015-11-12 18:04:43
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

咆哮を上げる黒きティガレックスを前に、彼の表情は変わらない。物怖じなど微塵も感じさせない。青の中に光は見えず、されど鋭い瞳は標的を見据える。背の煌々と輝く鉄槌を片手で持ち上げ、前へと構え出す。ここ最近、急激に轟竜種の目撃情報が増えているのは、きっと”奴”が関係している。27

2015-11-12 18:09:02
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

イースの原動力は、その事柄によってのものだった。根拠など無い、しかし。「…どこなんだ」。そう信じたかった。ひたすらに標的を屠る一方で、自分の存在を見失ってしまいそうだった。”何の為に生きている”のか。確実なものに辿り着けない限り、彼が彼自身の命を赦す事が出来ないままなのだ。28

2015-11-12 18:11:59
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

凄まじい咆哮と共に、目の前に爪が降ってくる。「ーーー黙れ」。刹那、彼の姿は既にそこになく、鉄槌は後脚の爪を粉々に砕いていた。バランスを崩して倒れる轟竜を背後に感じながら、彼はその手に力を込める。「俺は”死ねない”。生きていなければ、いけないんだ」。それは、友と交わした約束。28

2015-11-13 12:07:48
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

いつの間に歪曲した最後の約束は、果たして”友の願い”なのか。「…きっとあいつが俺に望んだのはこんな今なんかじゃない。わかってるさ、この感情が何も生まない事も。何の意味も無い事も」。否。再び咆哮が上がる。体勢を立て直した黒轟竜の怒りに燃ゆる眼が鈍く輝く。「わかってる。でも」。29

2015-11-13 12:17:21
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

鉄槌に力を込める。立ち止まる事など出来ない。するわけもない。死より深く抉られた心を一時的に埋める事が出来るのは、断末魔の奏でる不協和音。「…決めたんだ」。飛びかかる巨躯を間一髪で避ける。肌にざわついた感触を感じる程に近い距離で、彼は思い切りその腹めがけて鉄槌を振り上げた。30

2015-11-13 18:51:40
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

悲鳴なのか絶叫なのか、甲高く声を上げる轟竜。着地すら出来ず、岩場に転げ落ちるように倒れた。イースの青い瞳が、その姿を見下ろす。「……さよなら」。振り下ろされた彼の武器の威力は、死を与えるに申し分なかったようで。標的とされた一つの命は、それ以上動く事はなかった。31

2015-11-13 18:57:06
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

横たわる姿を見やりながら、先刻の記憶を辿る。”お前の名を知りたい”。そう己に告げた人物の瞳。仮面とも呼べる頭装備を外した時に感じた、氷のように冷たく、鋭く、自らを突き刺すような視線。その奥に小さく揺らめく殺気。綺麗だった。迷いない意思が垣間見えるような、強い心を映し出す瞳。32

2015-11-14 20:44:54
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「…ハイド、か」。今一度その名を口にした。誰に届くでも無いその言葉は、風の中に消えていく。 一瞬での出来事ではあったが、彼の中には彼女の姿が印象強く残っているらしい。刹那、遠くで轟音が聞こえる。咆哮だ。「今日は一段と騒がしい」。もしかしたら奴が、なんて。淡い期待は捨てる。33

2015-11-14 20:53:56
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

今は前に進むしかない。必ず求めるものの前に立てると、求める未来を掴めると、そう信じて。「…寄り道がいくつあっても悪くはない」。呟いて、イースは目を閉じる。そこには果てのない暗闇が広がるだけで、何も見えない。が、予想外の刺激に少し心は踊る。閉ざしたはずだった心が、ざわつく。34

2015-11-14 23:35:00
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

名と容姿だけしかわからない、しかしあの凛とした、氷のように鋭い雰囲気。己と同じ、戦場を求める者。理由こそわからないが、なんとなく…また会えるような、そんな気がした。「…ふっ、」。自然と口角が上がった。望む存在には会えず、思わぬ出会いは突然に。皮肉だが。「しかし、悪くはない」。35

2015-11-14 23:49:24
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

何があるにしろ、彼が武器を棄てる事などあり得ない。片腕を失おうと、片脚を失おうとなお、失われない殺気は前を向き続けるのだろう。然すれば、この胸の内に小さく生まれた”興味”を殺す理由などあるだろうか。否、無い。久しく抱く感情に違和感すら覚えながら、彼は再び武器をとったーーー。36

2015-11-15 17:26:35
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

Another Story -2- 復讐/断罪 終

2015-11-15 17:27:08