#ダークエルフ王国見聞録　その１３

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

彼女は女王の警護に戻るとのことで、部屋の外に控えていた近衛の兵を呼び、私を案内するように伝える。案内の兵は、二階下にある見張り場へと私を案内した。ここには壁に狭間がいくつか設けられており、近衛に所属することを示す服装の魔道兵や弓兵が数名控えていた #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

案内の兵が事情を説明すると、中央の狭間を覗いていた兵が私のために場所を空けてくれた。中を覗くと水晶のように透明な球体がはめ込まれており、両目の範囲よりも少し広い程の大きさである狭間にも関わらずこの球体を通して観客席を含めて広間全体を見渡すことができた。 #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

おそらくは魔力が籠められた設備なのであろう。会場の音声もよく聞こえる。また、これは外からは城壁塔の壁の一部であるように見え、警備の目を悟られないようになっているとのことである。このような仕掛けが他の箇所にも様々に存在するのであろうと察せられた #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

広間を見ると流鏑馬の試合場の準備が整えられ、試合に臨む騎馬武者達が入場してくる。女王の御前での試合であるため、予選の際の装束よりも煌びやかな装いをしており、これはそれぞれが属する氏族や身分などに合わせて、祭祀を司る役人達から貸し与えられるものである。 #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

愛馬を他の騎馬と共に祭壇の前に並ばせるセラは、箙を吊り下げる腰に豹の毛皮を巻き、長い脚は何本もの黒皮のベルトを白金の金具で留めた照りのある革ズボンを履き、鷹の羽を襟にあしらった錦の上着を螺鈿で氏族紋を象嵌した魔法銀の胸甲の上に羽織っている。 #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

後方に長く垂らされる細布を頭に巻き、細工の施された銀の額金を止めているのは予選の際と同様であるが、黒に錦糸の刺繍が為された細布が陽光に煌めいて、より華やかな印象を与えている。それに加えて、長い熊鷹の羽飾り二本が後頭部に角のように立っている。 #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

案内の兵が言うには、競技の内容や作法は予選の時と変わらないが、御前試合においては馬走の横に据えられた五個の的は更に小さなものとなっており、弓術と馬術の更に高い技量が求められるとのことである。司祭から手渡される矢も高質の大鷲の羽を用いたものである #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

御前試合では、競う二騎が、二本の馬走を逆向きに走り、射抜いた的の得点を競って、同点であれば先に駆け抜けた方が勝者となる勝ち抜き戦である。セラの初戦の相手は、白黒の布を肩から巻き、額の鉢金から白く染めた牦牛の毛を束ねて後ろに広げた“魚鷹”氏族の者であった #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

陣鐘が鳴らされると、向かい合う形で二騎が駆け出し始める。セラの対戦者は一の的と二の的を高い得点で射抜くと、馬に強く鞭を入れて一気に加速する。馬を彩る飾り紐が激しく揺れ動き、馬走りの中央よりもセラの側に押し込まれた形で両者はすれ違う #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

これは、両者が相対して走りあう御前試合での駆け引きの一種であり、相手よりも早く駆けることで、相手の焦りを誘うものである。競技者は後方や相手の的を確認する余裕はないため、相手の方が速ければ的の合計点が同点であれば負けてしまうことを恐れてしまうからである #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

セラとすれ違った後は、相手の騎手は速度をいくらか緩めて、改めて四の的、五の的をよく狙えるようにする。先程の加速は一種の威嚇であるのだが、セラはこれに動じることなく、自らの調子で駆け抜け、正確な射撃を繰り返して時間内に駆け抜け、この試合の勝者となった #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

これを勝てば決勝戦となる二回戦において、セラの相手となったのは前回の矢馳せ馬での優勝者である“矢よりも速き鷂”氏族のスベルヴァリであった。白虎の腰巻を巻き、胸甲の上から灰青色の上着を重ね、金色の鉢金に鷂の羽飾りを指した彼女は自信に満ちた笑みを浮かべている #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

出走の陣鐘が鳴らされると、双方の騎馬は一気に加速を始める。射撃に優れ、おそらくは満点に近い得点を得るであろうスベルヴァリに勝るには、やはり高い得点を得た上で先に駆け抜けねばならないとセラは考えたのであろう。困難ではあるが、これより他に上策はない。 #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

弦が空気を震わす音が、固唾を飲んで観衆が見守る会場に響き、矢が的に突き刺さる乾いた音がそれに続く。スベルヴァリが腰から背のしなりを生かした独特の射法に対し、セラは背をピンと伸ばして狙いを固める射法であり、両者の矢は的の中央へと吸い込まれる様に刺さっていく #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

両者の馬がすれ違わんとする時、セラは馬を思い切って馬走の右端ぎりぎりに寄せる。小柄にもかかわらず体格の良い馬に乗るスベルヴァリは、この動きに一瞬たじろいだ愛馬に体を揺られて一瞬体勢を乱した。自らの射形が乱れる恐れを顧みずに、相手の動揺を誘うセラの作である #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

僅かな体のぶれに四の的では少しだけ中央から外れた射撃となったが、スベルヴァリと彼女が駆る愛馬はすぐに落ち着きを取り戻して五の矢を放つ。両者はほぼ同時に馬走を駆け抜け、採点者の表示する点数を振り返る。なんと、二人の得点は同数であった #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

的の得点と馬の駆け抜けが同着であったため、即刻の再試合が宣言させる。会場には大いに歓声が湧いたが、肩で息をするセラの表情は厳しい一方、スベルヴァリは歓声に応えて腕を上げ、変わらず自信に満ちた表情である。再試合では駆ける方向を先程の逆として行われる #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

私はセラの勝利を神に祈ったが、仕掛けを見破られたセラはあえなくスベルヴァリに完勝を許すこととなった。その後、スベルヴァリは決勝も勝ち抜き、今回も覇者となったが、それと再試合までを行ったセラは三等として騎馬武者を象った青銅の首飾りを授けられた #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

首飾りと花冠の授与が終わり、一同が祭壇に礼をして会場から引き揚げていくのを確認すると、私は見張り台に詰めていた兵達に礼を述べて退出し、城壁塔を駆け下りる。城門から出て広間の外周、競技者達が詰めている一角へと走り、セラの姿を探す #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

すると、競技の際に着用していた衣装を返却し終えたのであろう、一つの天幕から普段の装いのセラが出入り口の幕を上げて出てくるところであった。私は駆け寄って三等に入賞したことを大いに喜んでいること、立派な勝負をしたことを誇らしく思うことを伝えた #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

一瞬あっけにとられた表情を浮かべるセラは、次いで優しい笑みを浮かべ、私と抱擁して左右の頬を交互に三度合わせる。 「我が好敵手にまたも敗れたのは武人として口惜しい。ただ、お前が喜んでくれるのなら何よりも嬉しく、誉であることだ。」 #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

大祭はこの後も競技が続き、夜にはヴゥルペスの出場する剣舞の競技会もあるようだ。明日には、各競技の一等の者たちは女王の主催する晩餐会に呼ばれ、その他の出場者達や閲兵式出た兵達にも歓待と慰労の宴が王府によって用意され、大祭は終わりを迎えるそうだ #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「あの女狐であっても同じ氏族、舞いを見物に行ってやろう。しかし、その前に汗を流したいな。ふふ、またあの風呂にでも行くとしようぞ」 そう言うセラに手を引かれ、女王から賜った菓子などを二人でつまみながら、賑わう王都の通りへと歩み出した #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

ダークエルフ王国見聞録 大祭編 おしまい！