#ダークエルフ王国見聞録　その１３

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

神像を移す儀式が終わると、一団は祭壇の脇に用意された長椅子に座り、そこで御前試合を見守る。城壁塔を繋ぐ壁面の通路に控えていた楽士の一団によって華々しい音楽が奏でられ、神祇の役人が御前試合の開始を告げると、先ずはレスリングの競技者達が広間に進み入る #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

祭壇の前に並んだ競技者達は、係りの者によってその姓名と氏族を読み上げられ、女王に拝謁すると共に、神官達が取り出した聖別された朱の塗料を以て、その額に二重の楕円が描かれる。彼女らは、国を統べる女王と精霊達を統べる女神の御前にて武勇を最大限示すことを宣誓する #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

香油を塗った競技者達が組み合うレスリングの試合は、予選を勝ち抜いた者達による攻防である分、技の応酬が続く見ごたえのあるものが続いた。決勝戦では体格差で終始追い込まれていた小柄な競技者が捨て身の回転投げを放って逆転勝ちを納め、大きな喝采を浴びていた #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

祭壇へと続く階段の前で優勝者を含む上位の者達の表彰が行われ、土俵の形を模り、組み合う戦士の姿が彫り込まれた首飾りを花輪が授けられていく。その光景を眺めていると、私の肩を叩くものがあり、振り向くとそこには一人の近衛の兵が立っていた。 #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

彼女が言うには、女王が私を呼んでいるとのことである。突然のことであるが、彼女に続いて城壁塔の間を渡す壁上の通路を通り、女王が会場を見渡すバルコニーがある中央の城壁塔を向かう。近衛の兵はバルコニーがある階の上層に位置する部屋へと私を案内した。 #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

扉を叩いて私の到着を告げると、近衛の女兵士は私に一人で部屋に入るよう伝えて扉の横に控える。恐る恐る入室すると、細やかな細工の金具を散りばめた革張りの長椅子に背を預けて座る女王の姿があった。次の競技の準備が整うまで休憩を取っているのであろう。 #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

椅子の横にある台には菓子や果実が盛られた朱塗りの高坏が置かれ、女王のしなやかな指がそこから宝石めいた色合いの果実菓子を一つとって艶やかな唇の間から白い歯を覗かせて口に入れる。右手に持つ翡翠の杯を静かに上げると、傍に控える侍女が水差しから飲み物を注ぐ。 #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

小さな窓から入る陽光のみが照らす部屋の床には、色とりどりの花が絨毯の上に撒かれ、壁には落ち着いた香りを放つ香草を詰めた絹の薬玉が絹の紐であちこちに吊り下げられている。室内の調度品はいずれも貴重な品々であり、女王のために用意された部屋であることが分かる #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「学士殿、陛下の御前に寄られよ」 ただ菓子を食べるだけの所作にも関わらず、そこに漂う妖艶な色香に当てられ、立ち尽くしていた私は、女王の傍に控えていた近衛の副長である女騎士・フェルレーオに声を掛けられて我に返り、女王の座る椅子の前まで進んで平伏する #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

中身を飲み干した翡翠の杯を椅子の横の台に置きながら、こちらに視線を移すことなく女王が口を開く。 「此度の大祭を見物するのもそなたの仕事であるか。大儀であるな。仕事は順調であるか？まぁ、妻と浴場で怪しげな遊戯などを嗜むくらいには順調であろうよ」 #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

驚いて顔を上げると、私を上から見下ろす女王は嗜虐性を感じさせる笑みを溢していた。 「なに、そう驚くことはあるまい。余は自ら治めるこの都に知らぬことなどない。それにな、そなたは余の庇護を失えば、短命者を憎む者達に血祭りに上げられる可能性もないわけではない」 #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

宝玉を散りばめた金銀の腕飾りをじゃらりとならして頬杖を付いた女王は続ける。 「監視などと思うのではないぞ。これは余の親切、言ってみればそなたを保護するためのものと考えよ。ふふふ、そう固まるな。闇渡りの者達がお前を見ているのは都にいる間だけのことよ」 #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

冷や汗を流しながら陛下の御親切に深く感謝いたしますと答えた私に対し、女王が問いかける。 「さて、異種族の学士であるそなたから観て、我らの大祭はどのように思えた。包み隠さず申すがよい」 #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

私は、このような国を挙げての大祭は人間の諸国では現在において行われておらず、古代に存在したという大帝国での開催を伝え聞くのみで、それよりも競技の多彩さや特殊さは上回り、斯様な大祭を脈々と続けてきたのは、女王の英明なる統治の成果を示すものであると返答する。 #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「ふ～む、つまらぬ答えだ。余の臣下としての受け答えとしては十分であろうが、余はそなたに異種族の学士として答えよと言ったのだぞ」 退屈そうなあくびを取り出した黒羽の扇子で優美に隠しながら、私の返答に不満であると伝えてくる。 #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

それでは文化異種族学の徒としてお答えしますと恐る恐る前置きをしてから答えた。この大祭は閲兵式も競技も軍事訓練としての側面が非常に強く、氏族が競い合うことで個々の能力が高まることが一つ大きな目的と感じたと先ず述べる。 #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

それと共に、それらの競争が女王の権威の下に行われることで、閲兵や競技において示される氏族の武威が女王の管理下にあることを諸氏族と民草に示し、王権の位置付けを高めることが大きな意義であること、それらは人間の祭りでも同様であることを述べた #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

また、いずれの競技においても神前で行われており、そういった王権の強化に神の威光を役立てていることは明白で、特にこの御前試合において、高い階段の上に安置された祭壇が、女王のおわすバルコニーより下側にあることが、王権による神威の利用を感じさせると述べた #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

ここまで一気に話して、私は神威の利用については踏み込み過ぎたと後悔した。 「学士殿、その物言いはあまりに不敬と言うものであるぞ」 案の定、フェルレーオが厳しい声色で私の発言をたしなめてくる。冷や汗が額と背を伝う。 #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「くくくっ、よいよい。そなたの率直な意見を求めたのは余である。この部屋内ではそのような物言いも許そうぞ。それにしても、我らの始祖たる偉大なる黒の女神を、血族たる私が利用するなどと考えたこともなかった。我らの種族にはない発想ぞ」 #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

珍妙な者を見た喜びといった表情を浮かべながら、女王は言葉を続ける。 「いずれ人間という種族は、彼らの神を“利用”できなくなった時、神は死んだ、もう居ないとでもいうのであろうかな？その時、彼奴らが彼奴らであることを何に求めるのであろうかな？」 #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

私が返答に窮しているのを認めると、 「ふむ、なかなか面白かったぞ、学士よ。そなたをそのうち伽衆に加え、進講に呼び出すので心せよ。娘達の見聞を広めるには、なかなか良さそうではないか。なぁ、フェルレーオよ」 #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

次いで女王は侍従に銘じて高坏の菓子を袋に入れさせ、それを私に下賜する。 「あの良き武者たる妻と共に食べるがよい。そうそう、折角だ、この塔の見張り台から矢馳せ馬を観ていくとよい。そなたの妻が出るのであろう。それも余からの褒美であるぞ」 #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

女王に対して再び平伏して礼を述べ、下賜された菓子袋を侍従の手から受け取る。女王は侍従を連れて部屋の奥へと歩み去り、私がここまで登ってきたものとは異なる階段を下っていく。おそらく階下のバルコニーへと至る専用の通路となっているのであろう。 #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

部屋に残ったフェルレーオは、フッとため息をついて安堵の表情を浮かべる 「学士殿、率直であることは美徳であるが、陛下への物言いについては、臣下としての心構えというものをもう少しだな・・・。此度は無事に済んだが、知人の首を刎ねる役目はご免であるぞ」 #ダークエルフ王国見聞録