金剛のものがたり。七話『零号たるもの』

はるか @Kurosu_Haruka

「ほわっつ……？」 「自分の命、好きに使ったよ」 　深海化していた偽装が崩れ落ち、元の那珂の姿に戻った。力尽きたのだろう。 ──暴走する力すら失って。 「私……かっこよかった？」 「かっこよかったヨ」 「金剛さんに近づけたかな」 「とっくに追い抜いてるネ」 #金剛のものがたり

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「私の歌、届いた？」 「最高にハートが震えたネ……」 「そっか。それなら本当に……」 　──良かった。 　那珂は満足そうに微笑み、一筋の涙をこぼすと全身を弛緩させまぶたを閉じる。 　彼女の船体は浮力を失い、その両脚は海中に沈む。 「那珂ちゃん、起きてヨ」 #金剛のものがたり

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「見なさい、金剛。そのバカが死んだおかげで、深海棲艦は見境なく攻撃を始めた。あなたの仲間も私の部下も長くはもたない」 「シーライオン」 「もういいわ、決着をつけましょう」 　彼女は微笑み私を指差す。 「勝利して仲間を助けに行けるのは、どっちの艦む──」 #金剛のものがたり

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「シーライオンッッッッッ！！！！！！！！！！！！」 「……なっ！？」 「わたしはお前が怖かったヨ」 「当然よね」 「でもね、艦娘は夜明けを信じて夜の海に立ち向かう。絶望にも折れない心で立ち向かうノ」 　──金剛石（ダイアモンド）のように。 #金剛のものがたり

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「そうネ、意見の一致。決着をつけよっカ」 「ええ。あなたの死をもってね」 　──ごめんね、那珂ちゃん。必ず、必ず引きあげるから。怖いかもしれないけれど、少しだけ待ってて。 　私は那珂から両腕を離し、微笑む。彼女は笑い返すように笑顔のまま、海中へ沈んでいった。 #金剛のものがたり

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「金剛ぉッッ！」 「シーライオンッッ！！！」 　互いに放つ砲弾と水雷は着弾ぜず、海中にきえていく。 「殺してやる！　殺してやる！　金剛、あなたは絶対に！」 ──死ねぇ！　そう叫び、シーライオンは異形のモノへと変貌した。紫に光る瞳。 「コロシテヤル……金剛！」 #金剛のものがたり

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シーライオンは船体を胸元まで海中に沈めながら憎しみに歪んだ表情で嘲笑う。 「私を許さないですって？　どうするの？　私が水中に入ったら、あなたもうなにもできないじゃない」 　フフフフフフフ。不敵な笑いが夜の海に満ちる。 「一方的に挫かれるがいい！」 #金剛のものがたり

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「逃がすモンカ！！」 　わたしが不甲斐ないから仲間たちがいっぱい傷ついていっぱいいっぱい……失った！ 「オオオオオ！！！！」 「深海化……！？　金色の光……！？」 ──逃さない。 「完全深海化……金色の……深海棲姫！？」 「ばあにんぐ！！！！！！！！！」 #金剛のものがたり

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「ぐうっ！？」 「らああああああああぶ！！！！！！！」 　水中のシーライオンの首を掴み、海底まで一気に進み叩きつける。 「こいつ、水の中を！？」 「深海ニ棲カラ深海棲艦ネ」 「戯言を……！」 「砲撃ワ……届ナクテモ腕ハ届ク」 #金剛のものがたり

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「金剛ッッ！！」 「ごめんネ、シーライオン」 「……今更なにを」 「ソーリー……」 　目を見開き、彼女は言葉を失う。 「戦争だったからなんてイワナイ。わたしは望んであなたの仲間を同胞を……友人を手にかけてきたワ」 　お互いに多くの血を流した。 #金剛のものがたり

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「痛み分けともイワナイ。でもネ、シーライオン。あなたの憎しみはあなただけのモノ。当然のキモチ」 「…………」 「わたしもあなたに沈められた浦風のコトヲ想うと憎いし今すぐにでも、その首をねじ切りタイ」 「なら殺ればいいじゃない」 「でもサ、シーライオン」 #金剛のものがたり

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「なによ」 「もうわたしたちは敵同士じゃナイ。艦娘ヨ」 「艦娘……」 「だから謝りタイ。仲間の友達を手にかけてしまったコト。ココロから」 　──ソーリー。 　その時、確かに彼女の瞳に涙を見た。海中なのに。確かに。 　海底（うなぞこ）の涙。輝く真珠のように。 #金剛のものがたり

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「黙れ！」 「……ッ！」 　わたしの腹部に彼女は激しい蹴りを放ち、拘束を解く。 　その瞬間だった。彼女の周囲に無数の水雷が迫っていたのは。 「謝罪、ありがとう。金剛」 　──ごめんなさいね。 「シーライオン！」 　彼女は微笑み爆発の中へと消えていった。 #金剛のものがたり

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「助けられたネ。シーライオン」 　謝ってくれてサンキュー。あなたも最後は仲間だった。確実に。 　分かり合えたはずなのに。戦争はなにもかもを歪めて殺意に塗り替えた。きっとシーライオンも優しい艦娘だったに違いない。 「……それでもわたしは戦艦ネ」 #金剛のものがたり

はるか @Kurosu_Haruka

提督のために。仲間のために。戦い続ける。 「今は──」 　仲間守るために。そして新しい友人の弔いのために。 「深海艦、お前たちを討ツ！」 　金色の深海棲艦。わたしをシーライオンはそう呼んだ。ならば鬼の金剛の名の通り。鬼となろう。戦場を駆ける鬼姫に。 #金剛のものがたり

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────── 「またここにいたのか」 「ひゃ！？　ていとくぅ！？」 　頬に当てられたジュースの冷たい缶。 「好きだな、ここの堤防」 「この泊地で一番好きな場所デース！」 「なんでだ？」 　彼は堤防に座る私の横に腰掛けて、苦笑する。 #金剛のものがたり

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「提督が、わたしを見つけてくれた場所だからネ」 「ああ。そう言えばそうだったな」 「悲しい時や拗ねてる時は、ここにいれば提督が見つけてくれるって信じてるノ」 「そういう時は執務室に来いよ。言ってるだろ。扉はいつでも開けておくからって」 #金剛のものがたり

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「自分から素直に甘えられなくて、提督から来てほしい時あるノヨ」 「乙女は複雑だなぁ」 「こっちから要請するんじゃなくて相手が自主的に助けに来たっていうのが大切ネ」 「なんだそりゃ……」 「ふん、乙女心ヨ」 「よくわかんねぇ」 #金剛のものがたり

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私はジュースの蓋を開ける。プシュッと小気味よい音とともに少し泡が吹き出す。紅茶の次に大好きなドクペだ。 「提督。わたし、加賀と谷風を守れなかったヨ」 　──ごめんなサイ。 　うなだれて謝ると提督は頭にくる軽くチョップをしてきた。 「アウチ」 #金剛のものがたり

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「艦娘に犠牲が出た時、それはお前たちの責任では決っしてない」 「デモ……」 「でももだってもいりません。すべては命令を出した軍や俺たち提督の責だ」 「ていとく」 「俺にも背負わせてくれ。お前はよくやってくれたよ」 「ていとく……」 #金剛のものがたり

はるか @Kurosu_Haruka

「加賀も谷風も、お前とともに海で戦い抜いたこと誇りに思ってるさ」 「そうだよ、金剛さん」 　背後からの言葉に振り返ると、そこには── 「那珂ちゃん！」 「はろーはろー」 「もう外に出ていいノ？」 「車椅子だけどね！」 　その車椅子は妖精さんたちが押していた。 #金剛のものがたり

はるか @Kurosu_Haruka

「助けてくれてありがとう」 「こっちのセリフネ」 「金剛さんが海底から拾ってくれなかったら轟沈してたよ」 　わたしは深海化し、シーライオンと交戦後、海底の那珂を引き上げ、浜風に託した。深海棲艦を殲滅した後、那珂は浜風の蘇生術式により息を吹き返していたのだ。 #金剛のものがたり

はるか @Kurosu_Haruka

「あと数分遅れてたら命がなかったって浜風が言ってたよ」 「間に合って良かったヨ、ホントに」 「えへへ、そだね」 「そういえば矢矧と浜風ワ？」 「なんかね、蒼蓮華と白檀虎は彼女たち専用に調整された秘薬らしいけど、使うとその後の副作用ひどいらしくて」 #金剛のものがたり

はるか @Kurosu_Haruka

「マジですカ」 「筋肉痛と眠気で入渠中だよ」 「あちゃ〜……」 　あの二隻にも助けられた。後で礼を伝えなければ。 「鈴谷もすぐに復帰できるし、失った五隻はかえらないケド、私たちは生きてる」 「うん、そうネ」 「生きよう。みんな金剛さんを生かそうと必死だった」 #金剛のものがたり

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「……そうネ。死にたいなんて甘いこと言ってらんないネ」 「うん。でも自分の命は自分で好きに使おうね」 「ウン」 「その上で生きてくれたら、那珂ちゃん、超嬉しい」 「ふふ」 「えへへ」 　笑い合うと那珂は車椅子を半回転させ、わたしに背を向けて手を振る。 #金剛のものがたり