#5「四羽の若鳥」フォビドゥンフォレスト5話「選ばれし者、選ぶべき者」

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まとめを更新しました。「#4「早くて遅い!②」 フォビドゥンフォレスト5話「選ばれし者、選ぶべき者」」 togetter.com/li/1111759

2017-05-22 02:04:10
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フォビドゥンフォレスト5話「選ばれし者、選ぶべき者」 #5「四羽の若鳥」

2017-05-27 01:02:58
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風見市の中心街・高月の外れ、最寄り駅から20分離れた貸オフィス。3階建ての白い建物で築20年。昨年4月に開設されたばかりのアイドル事務所、紅エンターテイメントの本社である。社員は社長を入れて2名、所属アイドルは4名。はっきり言えば零細事務所だ。知名度も低い。 1

2017-05-27 01:07:06
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北里瑠梨は自宅の神社で朝の仕事と朝食を終えると、社員の運転する車で事務所にやってきた。後ろには途中で合流した同僚の近藤留美もいる。昨晩、共にラジオに出演した同い年の少女だ。借りた鍵で事務所に入ると、階段で二階に上がり壁際のロッカーに荷物をしまう。 2

2017-05-27 01:13:05
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瑠梨はポットの湯を再沸騰させるとソファに座り、その間に留美は紅茶の準備をする。湯は社員が二人を迎えに行く前に軽く沸かしておいたものだ。部屋もエアコンが既に利いており暖かい。土日のいつもの流れだ。所属アイドル全員が学生の為、水曜を定休とし土日のどちらかは全員で集まる。 3

2017-05-27 01:18:33
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「お砂糖要る?」 沸きかけの湯でティーポットとカップを温めながら留美が尋ねる。 「じゃあ一杯だけ」 瑠梨は気分や疲労度、付け合せの有無で砂糖の量を変えるタイプである。菓子の備えは十分にあったが、今は昼が近い。菓子を食べない代わりに砂糖を少し入れて貰うことにした。 4

2017-05-27 01:25:05
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「睡眠薬は要る?」 洗い場で加温に使った湯を捨てながら留美が尋ねる。 「いらな~い」 瑠梨は慣れた様子で平然と答える。留美は隙あらば瑠梨に睡眠薬を盛ろうとする。実際何度か飲んで貰えたことはあるのだが、その全てが周囲に第三者がいる時のことであったのでご安心頂きたい。 5

2017-05-27 01:30:22
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3人分の紅茶を淹れ終わると、ちょうど社員の中村香澄が、二件隣の月極駐車場から戻ってきた。 「香澄さん、紅茶はどうします?」 「どうも。デスクに置いておいてください。社長たちが来る前に一件片付けておきたい作業がありますので」 香澄は無表情に軽く頭を下げると、ロッカーへ向かった。 6

2017-05-27 01:37:30
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留美が言われた通りに紅茶を運んでいると、瑠梨のスマホにSNSの通知が入った。卓上に置いたままの留美の物も光る。 「あっ貴子ちゃんもすぐ来るみたいだね」 彼女は3人目のアイドルである。高月の逆側の端に住んでいる。徒歩でも20分ほどの距離だが、社長の勧めで基本バスで来ている。 7

2017-05-27 01:43:23
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社長と4人目は渋滞に嵌ったらしくまだ掛かる…と既に連絡があった。留美はひとまず貴子の分だけを用意することにした。ロッカーから戻った香澄は、自分の卓上でパソコンをスリープから復帰させると、カタカタと何かの打ち込みを始めた。その音をBGMに4杯目の紅茶が注がれる。 8

2017-05-27 01:48:14
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香取貴子は幸い紅茶が冷める前に事務所に着いた。 「おはようございます。中村さん。おはよう皆」 「おはよう貴子ちゃん」 挨拶を交わして荷物を片付けると、ソファで紅茶を飲む。 「社長たちはまだかしら?」 「丁度さっき連絡があったよ」 9

2017-05-28 23:57:53
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貴子はグレーのスマホを取り出してSNSをチェックする。後10分は掛かるという新しいメッセージが1分前に入っていた。マナーモードのまま歩いていたので気が付かなかったのだ。高月は風見市の中心街では有るが、そもそも風見市自体が田舎である。片側一車線以下の道路も多い。 10

2017-05-29 00:03:12
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貴子がバスで通る高月中心部はそこまで酷くはないが、今社長たちが通っている道は正にそのような狭い道が多い。あいにくと鉄道もない。今日は身内の会議以外は、昼下がりの仕事だけなので焦らずとも良いが、早朝の仕事の時は事務所などに泊まることも多い。 11

2017-05-29 00:08:34
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「そう言えば、北里さん」 貴子はカップを置いた。 「なぁに、貴子ちゃん?」 香澄が仕事中なのでテレビやラジオは付いていない。室内ではエアコンやパソコンの駆動音や香澄のタイプ音だけが静かに響く。 「ラジオの件なんだけど」 「うん」 「お家の用事ってなんなのかしら」 12

2017-05-29 00:19:12
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FM風科のミュージックウインドは紅エンタの現在唯一の冠番組である。瑠梨をメインパーソナリティにし、他の3人のアイドルから一人を週替りで相方として進行する。去年の夏に始まったばかりだが、最近ではローカル局では珍しい様な大物アーティストをゲストに迎えるなど好評である。 13

2017-05-29 00:27:34
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この半年強の間、特番で枠が潰れたり時間がずれることはあっても、瑠梨が休んだのは4回だけである。多いと言えば多いが2回は急な体調不良、残りは家の神事が理由で、こちらは一月前から予告してのことである。今週の土曜のように急な神事での休みは初めてのことだった。 14

2017-05-29 00:40:45
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「うんと…急な話で迷惑掛けてゴメンね。詳しくは話せないんだ…」 瑠梨は頭を下げる。これまでの4回の休みのうち3回と同様に、今回も貴子が司会の代役を務めるからだ。ちなみに残る1回は留美が司会だったが、瑠梨の不在を嘆きに嘆き放送事故寸前だった(リスナーのウケは良かったが)。 15

2017-05-29 00:47:36
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木曜にその旨の話し合いを行ってはいたが、その後で二人が顔を合わせられたのはこれが初めてだった。 「まあ、元々貴女の家は特殊な神社で?そういう場合があるというのも聞かされていたし、代役をやること自体は良いのよ。良い経験にもなるしね」 貴子はもどかしげな表情で溜息をつく。 16

2017-05-29 00:51:25
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瑠梨は貴子の顔を見ながら両手で紅茶を口にした。カップを卓上に戻すのを待ってから、貴子が言葉を続けた。 「北里さん。貴女はもっと真面目に…いえこれは失礼ね」 貴子は首を振った。 「そうね…もっと本腰を入れてアイドルに集中してみる気はないのかしら」 17

2017-05-29 00:57:25
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「本腰をって…それはつまり…」 「家や学校の仕事を減らせないのかってことよ。貴女の実力なら、すぐにアイドルランキング百位以内…いえ、それ以上も狙えるわ。全力を注ぎ込めば2年も掛からずにトップアイドルにだってなれる筈よ!!」 貴子は卓上に置いた右手を左手で強く掴んでいた。 18

2017-05-29 01:01:13
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「そうよ!瑠梨ちゃんならなれる!瑠梨ちゃん最高!」 瑠梨の隣の留美が左手を瑠梨の肩に乗せ、右腕をぐっと掲げる。 「それは…」 瑠梨は謙遜の言葉を言おうとしたが、止めた。貴子のアイドルを見る目は確かだ。下手な雑誌やウェブサイト等よりも余程信頼できる。 19

2017-05-29 01:07:49
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マイナーなアイドルの人気の急上昇や、逆に人気アイドルの失墜を貴子が的確に予想したことは一度や二度ではない。それこそアイドルではなく、アイドル評論家にでもなればすぐに大成できる程に。だから自分への評価もきっと適切なのだろう、と瑠梨は受け止めた。 20

2017-05-29 01:11:17
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「例えそうだとしても、巫女の仕事は減らせないよ。そもそも仕事というより…生活…ううん、生き方の一部になってるから、切り離せないかな。ゴメンね」 瑠梨は言葉を選びながら慎重に話す。 「そうよ!瑠梨ちゃんは巫女でアイドル!最高!」 留美は瑠梨の右肩に縋りつく。 21

2017-05-29 01:14:21
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「ごめん近藤さん、ちょっと息止めててくれるかしら二分くらい」 「息まで止めなくていいけど、静かにして貰って良い?」 貴子の呆れ顔と瑠梨の苦笑に、流石の留美も瑠梨の腕を離して脚一本分、横にずれる。そして親指を立てると、口にチャックをして見せた。 22

2017-05-29 01:19:28