梅桃桜。第一話『梅桃（ゆすら）桜子、十二歳！』

はるか @Kurosu_Haruka

あの日、わたしたちの世界はとっても狭かった。小さな箱庭それがすべて。すべてが詰まっていた。 桜子〜！　朝よー！ 「んん〜……」 「デートに遅れるわよー！」 「はっ！？」 　わたしは飛び起き、櫛とワンピースを掴み部屋を駆け出す。 「朝ごはんはー？」 #梅桃桜

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「いらない！　太郎と食べる！」 　寝間着代わりのシャツの上にワンパースを被り、わたしはよろめきながら玄関へ向かう。 　ドアを開くと真っ青な空と緑の木々が広がっていた。 「よし、今日も元気だっ！」 　【梅桃桜（うめももさくら）。第一話『梅桃（ゆすら）桜子、十二歳！』】 #梅桃桜

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突然ですが、わたしの住んでる桜ヶ島は文字通り島です。日本列島からは隔離され、物流的には難民です。欲しい漫画が発売日に届かないらしく、友達のエイジくんなんかはいつもボヤいてます。スマポで買って読めばいいのにって、わたしなんかは思いますが、本には本の良さがあるそうです。 #梅桃桜

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人口二百五十人の小さな島。でもここがわたしのすべてです。生まれも育ちも桜ヶ島。観光名所も特にない、この寂れゆく町が、わたしの全部でした。 「あっ！　今日もいい眺めっ！」 　町内の人専用のバイク置き場へ続く坂道。そこは崖になっており、港や海が一望できた。 #梅桃桜

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わたしは山と海に囲まれたこの島が大好き。毎日のように風景が変わるから見て飽きない。それは風一つで顔色を変える。 「きれい……ひゃ！？」 　風景に魅入ってると突然誰かに肩を叩かれる。 「お遅刻さま」 「た、太郎！？　おまたせ！」 #梅桃桜

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「目ヤニ、寝癖。服装の乱れ」 「あ、そっか！」 「ホント、干物だなぁ」 「干物じゃないよ……！」 　慌てて目をこすり、髪の毛をなでる。 　草薙太郎。十五歳。なんとこの島では三十以下の男子は一人しかいない。その一人が彼である。 #梅桃桜

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背は小さいけど容姿端麗。文武両道。たった一人しかいない若い男子。そんな彼を取り巻くほのかな恋愛物語。それが当お話である。 ────── 「お前って本当にいつも楽しそうだな」 「うん、お外歩いてると楽しいからねっ！」 「飽きないのかよ、島の風景」 #梅桃桜

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「うん、飽きない」 「そんなもんかね」 「空も山も海も、いつも違う顔見せてくれるから」 　何時間でも見てられる。 「そういうところは面白いよな、桜子」 「え？　ホント？　面白い？」 　彼に褒められるとドキドキしちゃう。だって実はわたし、この人に恋してるから。 #梅桃桜

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「で、今日はなんのよう？　神社になんか呼び出してさ」 　島の中央にある巨大な神社。わたしは彼を境内の裏へと呼び出した。その理由は── 「ずっと好きでした！　付き合ってください……っ！」 　全身全霊。渾身の告白。我が人生で恐らく最高に勇気を必要としたであろう。 #梅桃桜

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「冗談だろ」 　そんなわたしの渾身の一撃は見事に物理反射を受けることとなる。 「俺、好きな人いるし」 「ええぇ……！？」 　幼馴染のわたしに隠れていつの間にそんなもん作ってやがったんだ！ 「そうじゃなくても桜子はないなー」 「な、なんでよ！！」 #梅桃桜

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「部屋の掃除できない。鬱になると騒ぎ出す。人見知りだし、メンヘラーだし、外食はハンバーグと寿司しか食べようとしないし、風景見始めると一時間くらい放置されるし、髪の毛ボサボサだし、ノーブラで平気でうちに来るし、脇毛ちゃんとそってないし」 「うわわわ……やめ！」 #梅桃桜

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「お前と付き合うとか考えたことないよ」 　満面の笑みでそう言われ、わたしは満面の笑みで応えつつも内心穏やかではなかった。それはもう嵐の海のごとく穏やかではない。 「他に用事は？　ないなら飯でも食って行こうぜ」 「い、いや。いいや。用事あるんでしゅ……」 #梅桃桜

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────── 「チクショオオオオオオオオオオオオ……！」 　マウントポジションを取った枕に数発拳を叩き込み、わたしは雄叫びを上げる。自室でご乱交である。 「ほんとのことばっかり言いよってからに！　おのれ！　おのれ！」 　叫んでいると部屋のドアがノックされた。 #梅桃桜

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「お姉ちゃん。静かにしてください、眠れません」 「は、春菜……」 　梅桃春菜九歳。小学三年生。生まれながらにしての── 「太郎さんにふられたんですか？」 ──悪魔である。 「ぎえええええええ！　この豚ァァ！」 「こわーい」 #梅桃桜

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「枕投げか！　愚妹めが！　貴様は、枕投げを所望しているのか！」 「そんな野蛮なことに興じる趣味はありません」 「この毒婦めが！　成敗してくれる！」 　全力で投げた枕を、妹は余裕の顔でつかみ取り平然と投げ返してきた。 「むご……！？」 「そもそもお姉ちゃん」 「む！？」 #梅桃桜

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「部屋の掃除できないし、鬱になると騒ぎ出すし人見知りだし、メンヘラーだし、外食はハンバーグと寿司しか食べようとしないし、風景見始めると一時間くらい放置されるし、髪の毛ボサボサだし、ノーブラで平気で家の中ウロウロしてるし、脇毛ちゃんとそってないし」 「な、なんだと貴様」 #梅桃桜

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「そんなんで島で唯一の王子様の彼女になろうなんて──」 「……っ！？」 「──千年、　いや一万年早いです！」 「貴様ァァァァァァァァァァァ……！！」 　バタン。ドアは閉じられ、わたしの投げた目覚し時計は虚しく跳ね返させる。 「くっ……わたしは……」 #梅桃桜

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小さい頃からずっと好きだった。太郎はわたしを守ってくれて。怖い時は励ましてくれた。ずっもわたしを見てくれていた。憧れだって言ってくれてた頃もあったのに。 「わたしじゃ、釣り合わないよねぇ──」 　目を閉じると、どっと疲れが遅いかかってきた。 #梅桃桜

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────── 「おはようウサ！」 「おはー、いちごちゃん」 「今日も元気ですね、いちごちゃんは」 「うんっ！　いつも元気ウサ！」 　宇佐木いちご。十二歳。毎朝、一緒に登校するために、わざわざ遠回りしてうちまで迎えに来る元気少女。 #梅桃桜

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うさ耳付きフードに、うさ耳つきランドセル。とにかくうさぎが大好きらしい。 「今日も一緒に登校だよ！」 「なんで毎朝うちにまで迎えにくんの？　友達いないの？」 「ぎく！？　そ、それは……その」 「ん〜？」 　赤くなり、目をそらすいちごを視線で追う。 #梅桃桜

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「お姉ちゃんは女の子にはモテるです」 「はぁ？」 「や、やめてよ、春菜ちゃん！」 　慌てるいちごに、わたしは微笑み頬を撫でる。 「きゃう……」 「ねぇ、わたしのこと好きなの？」 「は、はうう……」 「わたしも好きだよ」 「はうう……！？」 #梅桃桜

はるか @Kurosu_Haruka

ごめんなさい！　と叫び、まさしく脱兎のごとくいちごは走り去った。 「お姉ちゃん意地悪です」 「サービスサービス」 「いちごちゃん、先に行っちゃいましたのです」 　島の中央へ続く階段と石畳の通路。そこには民家や店が並んでいる。その階段を上りきると学校がある。 #梅桃桜

はるか @Kurosu_Haruka

わたしの家は断崖絶壁に建てられており、崩れたら間違いなく死ぬであろう立地である。高所恐怖症の、わたしは日々地震が起きるたびに泣き叫ぶ始末で、妹はそんな姉を指差しながら笑った。 　黒髪の姫カット。容姿端麗、スタイル抜群。わたしたちは『桜ヶ島の双宝珠』と呼ばれている。 #梅桃桜

はるか @Kurosu_Haruka

だが、この腐れ外道の妹の中身を知れば人はこう呼ぶだろう。桜ヶ島の超ど外道『悪魔豚』と。 「お姉ちゃん、今よからぬことを考えましたね」 「いや、そんなことは……」 「えい」 「痛い！？」 　妹は笑いながら、わたしの背中をバシバシと叩いてくる。 #梅桃桜

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梅桃桜子（12）デース！わーい！へいすけらーぶ！ RT @mineduka_koto: @Hishokan_kongo とりあえず髪型姫でｒ～ 続きは帰ってからね、というわけで要望あったら頂戴！（出したいキャラまとめてくれると pic.twitter.com/hMzkLnO8KP

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