梅桃桜。第二話『冗談でしたじゃ済まされない！』

はるか @Kurosu_Haruka

「わたしのことなんだと思ってるの！！！　女の子なんだよ……！」 　──太郎のことが大好きな。 「保護対象だよ」 「ほ、ほご……た、たい」 「保護対象だ」 「…………は？」 「お兄ちゃんみたいなものだからな」 「な、なにそれぇ……」 #梅桃桜

はるか @Kurosu_Haruka

好きでもない女からの好意なんて迷惑極まりないと思う。わたしも女の子たちに告白されて同じ気持ちだった。いや、利用してやろうとした分、太郎よりたちが悪いだろう。しかしなんだこの、全く微塵もお前なんか恋愛対象じゃないぞ、みたいな感じは。 「ほ、本気で割と傷ついたんだけど」 #梅桃桜

はるか @Kurosu_Haruka

「気持ち悪いだろ、桜子とじゃ……なあ？」 「は、はあ？」 「妹みたいなもんだし……オレに好きな人がいなかったとしてもないぜ」 「んきょぱー！！！！！！！！！」 「……！？」 「ハゲ！！！！　このハゲ！！！　うんこまん！」 「な……！？」 「わたしは旅に出る！」 #梅桃桜

はるか @Kurosu_Haruka

「お、おい！　待て、桜子！」 「黙れ、ハゲうんこ！　二度と話しかけるでない！」 　全力で走り、わたしは島の中を駆け巡った。 ────── 「はあはあ……あの豚野郎……はあはあ……女心を平気で傷つけやが……はあはあ」 　夜の展望台。海が見える、ちょっとしたスポット。 #梅桃桜

はるか @Kurosu_Haruka

「夜の海も綺麗」 　柵に座って足を振る。ここからは遠く離れて見える対岸の明かりがポツポツと輝いていた。 「今日はここで一晩過ごそうかな〜」 　お腹も空いたし、喉も乾いた。でもお金もなにも持ってない。でもいい。 　雲も風に流れて、月を時折隠したりしている。 #梅桃桜

はるか @Kurosu_Haruka

風景がきれいなら、わたしはずっと楽しめる。 「今日も元気だっ！」 　わたしは微笑み、柵の上で横になる。一歩先は断崖絶壁。高所恐怖症なので正直、怖くてたまらないが、今は怖いよりスリルが楽しい。一歩間違えば死。その感覚が風景をより刺激的に美しく思わせる。 #梅桃桜

はるか @Kurosu_Haruka

「お姉ちゃん」 　背後からの言葉に、わたしはピクンと震える。 「帰りましょう」 「ううん。わたしはここで空を見てる」 　春菜は無言で、わたしの横の柵に両肘をつく。可愛らしい頬杖だ。 「お姉ちゃんは、いつも寂しい時にそばにいてくれました」 「な、なによ、急に」 #梅桃桜

はるか @Kurosu_Haruka

「わたしもお姉ちゃんが寂しい時に、そばにいますから」 　春菜の言葉に思わず涙が溢れそうになった。 「恋はうまくいかないことばかり。愛し合っていても傷つけ合ったり、すれ違ったり」 　優しくわたしの髪を撫でながら、春菜は呟く。 「お姉ちゃんも傷ついたかもしれません」 #梅桃桜

はるか @Kurosu_Haruka

「うん」 「でもそれ以上に暖かいものを太郎さんから受け取ったでしょう？」 「……うん」 　いつもドキドキやワクワクをくれる。言葉を交わすだけで楽しくなれる。好きな人ってそんなものだ。 「片思いでもいい。好きならきっと──」 　春菜は優しく抱きしめてくれた。 #梅桃桜

はるか @Kurosu_Haruka

「素敵で素晴らしいことですよ」 「…………」 　なにも応えず、わたしは春菜の腕を抱きしめて泣き続けた。片思いって本当に辛い。 　でも確かに暖かいものもたくさんもらえる。きっとそれは素敵で素晴らしいことだから。 　振り向いてくれなくてもいい。 　 #梅桃桜

はるか @Kurosu_Haruka

好きなものは好きなんだからしょうがない。 「帰ろう、お姉ちゃん。風邪引いちゃいますよ」 「うん。ありがと」 　わたしは柵から飛び降り、苦笑いを浮かべる。 「ダメなお姉ちゃんでごめんね」 「昔からです。今更」 「こいつめ」 　春菜の頭を小突き、二人は笑い合う。 #梅桃桜

はるか @Kurosu_Haruka

小さな島の小さな物語。それはなんでもないお話だけれど、わたしたちには大切な青春のイチページ。 【梅桃桜。第二話『冗談でしたじゃ済まされない！』】終 #梅桃桜

はるか @Kurosu_Haruka

おうけい！　全力で愛しマース！　フィンランドからの眼鏡っ子留学生、シルマ。彼女はなんと太郎にぞっこんだったことが判明。どうする、桜子！　太郎には女の子とすら見られてないのにライバル出現なんて！　 次回、梅桃桜。第三話『へーい！　あたしが一番デース！』今日も元気だっ！ #梅桃桜