稲川淳二のつぶやき怪談　2017年5月31日投稿分

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「タクシーに長く乗っていたし、ゆっくり風呂に浸かりたいんだ」 「それではその間にお床の方は、準備しておきますので」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「そうだ、その前に、ビールを飲みたいや」 でも、その部屋には冷蔵庫がないんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「じゃあ、お風呂から上がる頃にはお部屋に用意しておきます」 岡本さん、ゆっくりと風呂に浸かって、 疲れも取って、部屋に戻ってきたんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

座布団に座って部屋をあらためて見回してみて、 「それにしても、薄暗い部屋だなぁ、ここは」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

造りはなかなか凝っていて、数寄屋造りなんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

でも、とにかく陰気なムードを漂わせる部屋なんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

くつろいでいるんだけど、いやーな匂いが鼻を突くんです。 生臭いようなカビ臭いような、嫌な匂いなんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

そこへ仲居さんが現れて、 「お待たせしました。ビールをお持ちしました」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

岡本さんは仲居さんに、 「どーも、この部屋、暗いよねぇ」 「それに、生臭いような匂いが鼻を突くんだけどねぇ」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

仲居さんが困ったような顔をしていたんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「この部屋、よどんでいるんだよね。しばらく使ってないんじゃない？」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「はぁ、それは･･･」 なんだか答えづらそうな顔なんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

岡本さんも疲れていたから、 「まあいいや、休めるだけでもついているんだから」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

仲居さんは、そそくさと部屋を出て行ったんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

いろんなことがあった日だから、 岡本さん、あっという間にビール二本を飲んだんです。 そのまま、うつらうつらして、眠りだしたんですよ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

でも、何故かのどが渇いて、目が覚めたんです。 それで部屋を出て、板の間になっている洗面所に行ったんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

そこでコップに水を入れて、飲み干してから、周りを見たんです。 すると風呂場のガラス戸が閉まっているんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

番頭さんが、改装中と言っていた風呂場です。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

元々、岡本さんは建設関係の人だから、 （どんな風呂場に改装してんのかな？）

稲川淳二 @Junji_Inagawa

って興味が湧いて、中を見ようとガラス戸を“ガラガラ”と開けたんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

真っ暗だから、明かりをつけようとスイッチを押したんですが、 明かりがつかないんですよ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「あっ、つかないや」 でも、洗面所の明かりが、 うっすらと差し込むと、風呂場の中が少し見えてきたんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

床も壁もコンクリートが剥き出しなんです。 「なんだぁ、こりゃ？」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

床のタイルも剥がしたままなんです。 その床には、すっかり埃が積もっているんです。 浴槽も壊れたままなんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「なんだよ、こりゃ改装中なんかじゃないよ。 ずいぶん前からほったらかしだよ」 呆れながら中を見ていたんです。