#ダークエルフ王国見聞録　その１４

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

最も上腕側に伸びる枝の部分に付け加えられた輪郭の中を、夫となる者が赤の染料で塗りつぶすようにと薬師に伝えられ、その筆を手渡される。筆に付けた染料を肌に付けると、ジュウと肌が焼けるような音がして染料が泡を立てながら褐色の肌に沁み込んでいく。 #ダークエルフ王国見聞録

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これを数度繰り返して染料がよく固定されるようにと薬師は指示してくる。一筆ごとに脂汗を額から流し、くぐもった声を浮かべて咥えた布を更にかみしめるセラの姿を見て、大変に心配で不安になるが、薬で少し蕩けた瞳は強い意志を湛えて続けるようにと私を見つめてくる #ダークエルフ王国見聞録

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新たな紋様の描き込みが終わると、鎮痛の軟膏を上から薄く塗って清潔な布で巻く。痛みが引いたならばこの布をとってもよいが、婚姻の儀式がある日にお披露目をするまで、改められた刺青の紋様を、家族の者以外に対しては隠しておかなければならないと里長は私に教えてくれた #ダークエルフ王国見聞録

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・・・そのようなことを思い出しているうちに、氏族長の祝詞は終わり、里の祠の前での儀式はつつがなく終わった。私は同席した男衆の一人から黒曜石の刀身を持ち、銀の象嵌がされた鞘に入った守り刀を渡され、これを帯びに挿して後、飾りつけられた馬に乗せられる #ダークエルフ王国見聞録

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二人の少年が隊列の先頭に立ち、一人は金属の棒を三角に曲げたものを金棒で叩き、もう一人は柄の付いた小太鼓を叩いている。男衆は儀礼に用いる青銅の鉾と、金属線をよりあわせた垂飾を数多く付けた金属象嵌の鞘の宝刀を肩紐でさげ、私の乗る馬の周りに立つ。 #ダークエルフ王国見聞録

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更には隊列の横には里で使役している恐狼達が、色とりどりの布でその背や首を着飾って控えている。里長は先に集落へと戻り、諸々の準備が整った知らせが来次第、この様な隊列を組んで集落の中にあるセラの家屋へと私の婿入りのために同行してくれるのである #ダークエルフ王国見聞録

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学士として斯様に珍しい儀式を記録できる喜び以上に、私はセラとの婚儀が終に行われることの喜びや緊張で胸が一杯であった。それ故、この婚儀の様式において記録し足りぬこと、記録を間違えたことがあれば、恥かしいことであるが、私の心中を察して頂きたい #ダークエルフ王国見聞録

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里長からの使いが儀式の準備が整った旨を伝えに来ると、婿入りの隊列は祠から集落へと歩み出す。宝刀に下げられた金属の垂飾がガチャガチャと音を立て、赤味をおびた金色の矛先が陽光に輝く。先頭を行く二人の少年が鳴らす楽器は次第に賑やかな調子となっていく。 #ダークエルフ王国見聞録

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この隊列は、本来は他の里から婿を迎える際に、その里の男衆が婿入りする男性を邪悪な者から守り、また婿の身元が確かであることを婿入り先の里の者達に伝えるために同行するものであるそうだ。流れ者であってもこの儀式を行うことで、里に入るという形式を取る #ダークエルフ王国見聞録

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隊列が環濠に囲まれた集落の入り口に至ると、引橋の袂に二人の戦士が待ち受けていた。二人とも抜身の山刀を持ち、赤や藍の顔料で顔に複雑な紋様を描き、一人は熊の頭骨を、もう一人は熊鷹の頭骨を麻紐で額に縛り、様々な毛皮や羽飾り、蔓や堅果の飾りを身に付けていた #ダークエルフ王国見聞録

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この二人の姿は里の家や畑を守る精霊を模したものであり、婿入りの隊列の一行は彼女らに対して跪く。私も口取りの者に助けられて馬から降り、予め教えられていた通りに彼女らの前に進み出て跪く。すると、二人は剣をこちらに向けて問い掛けを始める #ダークエルフ王国見聞録

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姓名や生国、生業、婿入り先を問われ、それに答えると、氏族の法と里のしきたりに従うかと問われたので、従う旨を返事する。すると、二人は刀の腹を私の両肩に置き、この者を里の一人として認めると宣言し、橋の袂の両脇に立って、橋を渡るよう私達に告げる #ダークエルフ王国見聞録

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同行の男衆たちと徒歩で橋を渡ると、里の女性達が狩り装束で道の両脇に並んでいる。私がその間を通ると、携えた弓の弦を、矢をつがえずに次々と鳴らしていく。これは里に迎え入れた者に付いてくるかもしれない邪な精霊を追い払う儀式である。 #ダークエルフ王国見聞録

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セラの家へとたどり着くと、家長であるセラの母親と里長が我々を戸口で待ち受けており、改めて婿入りの意思を私に尋ねる。頷きながら間違いなく婿入りをする意思を告げると、家の中から花嫁装束のセラが歩み出でて、私の手を取り、家の中へと導いていく。 #ダークエルフ王国見聞録

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花嫁装束は首元から肩を大きく露出させるもので、婚姻の印が付け加えられた入れ墨がお披露目されるようになっている。首からはガラス玉や翡翠、紅玉を連ねた飾りが下げられ、ゆったりとした黒の長衣は、氏族の紋章や家紋を錦糸で縫い込み、緋色の布で袖や襟を形作っている #ダークエルフ王国見聞録

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頭には春の野に咲く花々を幾重にも巻いた蔦に挿した花輪を被り、耳には普段とは異なる金の大輪の飾りを付けている。瞼には雲母の粉を紫の顔料に溶いたものを引き、唇には紅をひいて、額には赤の顔料で涙滴の周囲に古代文字が散りばめられた紋様が描かれている。 #ダークエルフ王国見聞録

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私の方を向いて誇らしげに微笑むと、絨毯の上に朱塗りの膳が並ぶ奥の壁に私が織った飾り布がかけられているのを指し示す。その手前に羊毛の厚布を幾重にも重ねた座が二つ設けられ、その左方にセラが、右方に私が座り、セラの横には家長である母・フェラフェレスが座る #ダークエルフ王国見聞録

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里長や、主だった家長達、セラの親戚の者などがお祝いを家長に告げながら、家の内へと入ってきて、座に並んでいく。列席者が揃うと、里長から改めて婚儀に至った理由を述べ、氏族長のみならず女王からも認められた正当な婚姻であり、里にとっても誇らしいことだと言う #ダークエルフ王国見聞録

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セラの母は客の応対で忙しく、セラの妹であるアクゥイラはまだ幼いため、給仕は近所の者が手伝ってくれていた。私とセラの膳の横には、蝮の香草焼きと茹でた姫甘藍、栗の甘煮が盛りつけられた高坏が用意されており、まずセラが二股の楊枝でこれを刺して私に食べさせる #ダークエルフ王国見聞録

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卵でなく幼蛇を生む蝮、茎に多くの芽を付ける姫甘藍、一つの毬の中に複数の実を宿す栗はそれぞれ子孫繁栄を願うものであり、婚儀の際には欠かせない料理とされている。他種族に比して繁殖力の強くないダークエルフ達の、子への願いが込められた料理と言えるだろう #ダークエルフ王国見聞録

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三種とも食べさせてもらうと、今度は私が同じものを楊枝で刺してセラの口元へ運ぶ。これが終わると、銀の杯にこの日のために漬けられた酒が注がれる。これは黒棘李の実を香料と共にアニス酒に漬けたもので、薫り高く強い酒である。これを二人で飲み干し、杯を交換する #ダークエルフ王国見聞録

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取り換えた杯で再び注がれた酒を飲み干すと、夫婦の間で食物と酒を食べさせ合う儀式が終わりとなる。これは前述した子宝に恵まれ、食物や酒に困らぬようにとの願いが込められたものだ。同じ料理や酒が、列席した客たちにも振る舞われる #ダークエルフ王国見聞録

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客たちがそれらに口を付けると、座の中央には様々な料理が運び込まれる。山鳥の腹に香草を詰めて焼いたものや、鯰や川魳のフライ、春の山菜と川海老の寄せ揚げに、里ではめったに食べない小麦だけのパンに果実のジャムなどが蜂蜜酒や果実酒と共に並べられる #ダークエルフ王国見聞録

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料理は給仕の者達によって取り分けられ、客は席を立つことなく膳に供された料理を口にする。氏族長より祝いとして下賜された上等の葡萄酒の樽や、やはり祝いとして女王より下賜された菓子が紹介されると客席は大いに沸き立つ。セラやその母を褒める言葉が客から相次ぐ #ダークエルフ王国見聞録

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「学士殿もこの里の婿となったからには色々と働いてもらわねばな」 「しかし、王府より賜った仕事もあるとか。あまり縛り付けてもよろしくなかろう」 「先日の熊狩りの折には、パーンセラ殿の背に隠れてばかりであったぞ」 「まぁ、得手不得手というものがあるのだ」 #ダークエルフ王国見聞録