Side Story 8 存在しない第参型 三幕 後編

脳内妄想艦これSS 独自設定注意 詳細は此方 http://www65.atwiki.jp/team-sousaku/pages/18.html
0
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

__ Side Story 8 存在しない第参型 三幕 後編__

2017-06-12 22:06:43
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS-8-16 失踪した艦娘母艦の目撃情報があった浜松沖はその日、その時間、異様な様相を呈していた。 現場へと急行した航空機が目撃したのは、異常な『濃霧』だ。 時期が時期とはいえ、気候条件からは想像もつかない程の濃い霧が局所的に発生し、捜索を拒むかのように白い空間を形成していた。

2017-06-12 22:13:45
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS-8-17 巡視船、漁船、果ては海鳥。海上を通行する者達からすれば一目で『入ってはいけない』と頭が警告を発する白の樹海。 ひとたび中に分け入ろうものなら白の奔流が容赦無く絡みつき、視界や平衡感覚をたちまち失わせてしまうだろう…この異常な霧に近隣では既に警報も発せられていた。

2017-06-12 22:14:45
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS-8-18 ザーン…ザーン… 浜松沖の白い空間の内部。外界の全てをシャットアウトしたかのような霧の中では、ただただ波の音が静かに繰り返されていくばかりだ。 ザーン…ザザッ…ザァッ… …ふと、そんな濃霧の中の静寂に、波を割って進む音が微かに混ざった。

2017-06-12 22:14:53
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS-8-19 ザンッ ザザァッ… 鬱蒼とした空間に5つの影が朧げに揺らぐ。 …艦娘達である。先頭を務めるのは、緑のリボンをはためかせる川内型の軽巡洋艦…神通だ。そしてその後方を朝潮、荒潮、大潮、満潮が随伴する。 5人はこの濃霧の『中心』と思しき場所に向けて前進していた。

2017-06-12 22:16:25
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS-8-20「…面舵3度」「了解」 神通が僅かに進路を修正する。後続も前に倣って従う。 視界はほぼ0、お互いの姿さえ輪郭でしか捉えることが出来ず、平衡感覚を維持するのさえ難しい状態。5人はこの条件下で神通を筆頭に正確な進路と隊列の維持をやってのけている。 …凄まじい集中力だ。

2017-06-12 22:17:01
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS-8-21 程なくして、彼女らの進路上に薄ぼんやりと何かの影が浮かぶ。 素早く神通が合図を送り、警戒しつつ対象に接近…近づくにつれてハッキリとしてくる視界が、それが『残骸』である事を伝えてきた。 濃霧の下チャプ、チャプと波間を漂うそれは『笹蟹』の成れの果て…ではなかった。

2017-06-12 22:17:39
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS-8-22「これは…」 今にも沈みそうなそれを視認し、満潮が顔をしかめる。 黒光りする残骸は、身体を大きく穿たれたロ級の亡骸だ。 神通は何も言わずにロ級に近づくと、その口元を指先でつぅとなぞる。 手袋の先に燻った粉が付着し、サラサラと霧散していった。

2017-06-12 22:21:04
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS-8-23「朝潮さん」 「はい」 神通が目配せすると、朝潮は『何をすべきか分かっている』という様子でロ級の正面に立った。 「やっぱり黒煙でしたかー」 神通の指先を見て大潮が言った。 それを聞いた満潮がフン、と鼻を鳴らす。 「その位は想定済みでしょ。問題はそっちじゃないわ」

2017-06-12 22:23:17
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS-8-24「誰よ、これをやったのは」 彼女は深い白に煙る行く先を見て訝しむ。 よくよく目を凝らして先の方を見てみれば、似たような黒い影はこの場所を皮切りに点々と浮かんでいるのだった。 「今日来る予定だった母艦には~、護衛さんは付いていなかったのかしら~?」 荒潮が首を傾ぐ。

2017-06-12 22:25:01
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS-8-25「護衛はいません。強いて言うなら」 神通が付近に浮かんでいた木材に引っかかった漂流物を拾い上げる。 駆逐艦娘用の艤装だ。 「乗船していた23名の艦種様々な艦娘達がそのまま護衛です」 彼女はまじまじと手にした艤装を眺める。傷が無いどころか、未使用だ。

2017-06-12 22:25:46
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS-8-26「申し訳ありません、時間がかかってしまって」 朝潮が待機中の4人のもとへ戻ってきた。 彼女の肩越しに見える筈のロ級は、影も形も無くなっていた。 「…では行きましょう。単縦陣を維持。この先は一層警戒するように」 神通は艤装を駆動する。 4人も直ぐにこれに従った。

2017-06-12 22:29:34
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS-8-27 そこから先、艦隊は襲撃に備えつつ前進したが、戦闘は起こらなかった。霧の中に影が揺らぐ度に兵装を持つ手がピクリと反応したが、影の正体は全て最初に見た光景と同じ…深海棲艦達の死骸なのだった。 乗船していた人間の姿も、艦娘の姿も、母艦そのものの姿も見えてこなかった。

2017-06-12 22:34:58
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS-8-28 そんな事を何回か繰り返して、神通達は霧の発生域の中央付近まで辿り着いていた。相変わらず、視界の中は濃厚な水滴の集合体、耳に届くのは波の音と自分達の艤装の駆動音のみ… 「…!」 今までと異質なものに近づいているという事は直ぐに分かった。 霧の向こうが明るいのだ。

2017-06-12 22:35:29
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS-8-29 引き寄せられるようにそこに近づくと、僅かながら霧が薄くなった。 「…あれは」 次第に見えてきたのは…炎上し、沈みゆく艦娘母艦『笹蟹』の船体と…ゆっくりと水中に消えていく船体をぼんやりと眺めている一人の艦娘の姿だった。 「神通さん」 「分かっています」

2017-06-12 22:36:24
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS-8-30「貴方は」 神通は立ち尽くしている艦娘へ声を掛ける。 霧の中、海風にブロンドの髪が靡いた。 「この船に乗っていた艦娘ですね?」 艦娘はゆっくりと神通の方へ顔をやる。悲しんでいるでもない。放心している訳でもない。神通へ向けられた紅い目は、ただただ冷たかった。

2017-06-12 22:37:17
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS-8-31「貴方達、誰?」 興味無さげな声調で艦娘が聞く。駆逐艦だ。 「貴方を迎えに来ました。横須賀の艦隊です」 「…そうなんだ」 そしてまた興味無さげに視線を炎上する船体に戻してしまった。 「襲撃を受けたのですね?」 …手に握られた12.7cm連装砲を見て神通が更に問う。

2017-06-12 22:39:13
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS-8-32「うん、でも襲ってきた奴らは皆壊しちゃった」 彼女は炎を見つめ続ける。幾つもの血の跡が照らされる。 「では、他の艦娘は。貴方の他にも22名居た筈ですが」 「居るよ」 彼女は曖昧に笑みを浮かべ、右手できゅっと胸の辺りを掴むと同じ言葉を繰り返した。 「居るよ」 「…」

2017-06-12 22:40:08
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS-8-33「ねぇ、今度は『私』からも一つ聞かせてもらっていーい?」 神通の眉がピクリと神経質そうに動いた。 「…はい、なんでしょうか」 「貴方達…」 駆逐艦 夕立は今度は身体ごと神通達の方へ向き直った。 夕立の鼻が『すん、すん』と鳴る… 「何か嫌な臭いがするっぽい」

2017-06-12 22:46:23
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS-8-34 直後、夕立の左右後方、水中から突如として触腕のような物が現れ、夕立に向かって襲い掛かった。 しかしそれが彼女のもとへ届く前に、彼女は高く宙返りすると、水面に着地するまでに左右の触腕に砲撃を撃ち込んだ。 「うぐぅっ!!」 神通の後方で朝潮が呻く。

2017-06-12 22:47:13
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS-8-35「…やっぱりそう」 顔を上げる夕立の雰囲気は、先程までの無気力なものとは明らかに違っていた。怒りが身体から滲み、紅い目の奥はギラギラと燃え盛っていた。 「貴方達も、私の敵っぽいッ!!」 海面を蹴り出し、爆風のような速度で夕立の連装砲による強打が神通を襲った。

2017-06-12 22:49:07
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS-8-36 ガキィン!! 鉄と鉄が重くぶつかり合う音が霧の中に響く。 神通は帯刀していた刀を抜き、夕立の強打を受け止めていた。 反動で両者とも大きく後ろに下がり、ブレーキを掛けようとフル稼働した脚の艤装が派手に波を割った。 「うふふふ~」 それを合図に、他の艦娘達も動いた。

2017-06-12 22:49:31
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS-8-37 荒潮が背にしていたリュックからボートのような物体が発艦し、滑るように夕立に向かっていく。 先程まで呻いていた朝潮も痛みに耐えるように手には連装砲を構え、更に水中に『伸ばしていた』ものを引き上げる。砲身が装着された大口の付いた触腕のような物体が海を割って現れる。

2017-06-12 22:51:02
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS-8-38「そーれ!」 大潮も背のリュックから球状の何かを展開する。 珠は射出されると薄霧の空中に留まり、妖しく赤い炎を纏い始めた。 更に満潮は複数の『錨』を展開すると…それは錨本来の機能を果たさず、蠍の尾のように満潮の背から夕立を威嚇するように広がった。

2017-06-12 22:55:47
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS-8-39「…何なのよそれ…!!」 夕立の目が一層激しい憎悪に包まれる。 「貴方が知る必要は有りません」 体勢を立て直した神通は、バイザー状の艤装を展開し、刀と砲を構えた。 「其方の敵意を確認した以上、少々手荒になりますが仕方ありません。貴方をあの方の下まで連行します」

2017-06-12 22:57:02