『阿・吽 6』(おかざき真里著)が凄すぎて、初読からしばらく語る言葉を失ってたんですが、ゆっくり3回くらい読んでやっと何か呟けそうなので、ゆるゆると感想などを呟いてみます。すげえ。本当にすげえ。『阿・吽』はもちろん1巻から読んだほうがいいのですが、6巻から読んでもいいくらいです。
2017-06-17 15:27:16まずやっぱり強烈なのは白居易と空海の邂逅。これ平安文学好きは全員仰天するのでは。端的に言って最高だ。というのも本作中、空海が代筆した(という設定の)白居易のラブレターにある一文「梨花一枝春帯雨(美しくも寂しげなあなたの泣いている姿は、梨の花が一枝、春の雨露に濡れているようです)」
2017-06-17 15:27:58これはご存じ白居易の最高傑作の一つとして名高い『長恨歌』にそのまま同じフレーズがあるわけです。すごい。すばらしい。長恨歌の成立は806年、空海が長安に入ったのは804年。ミラクルだ。なんでこんなに興奮しているかというと、白居易の詩はほぼ同時期に日本へ輸入されて大ブームになります。
2017-06-17 15:28:26白居易の全集『白氏文集』は、平安貴族社会の基礎教養テキストとして認知されます。「知らない人は相手にされない」というレベル(この200年後、紫式部は当初これを中宮彰子に教えるための家庭教師として藤原道長に雇われた)。特に長恨歌は広く深く読み込まれて、多くのオマージュ作品を生みます。
2017-06-17 15:29:10そう、そうなんです。ご承知のとおり、みんな大好き『枕草子』にも『源氏物語』にも、長根歌が元となったフレーズが頻出します。 枕草子「木の花は」にはそのまんま「梨花一枝春帯雨」が出てくるし、中宮定子と清少納言の絆を深めた「香炉峰の雪」も、「すこし春ある」も「草の庵」も白氏文集です。
2017-06-17 15:30:50源氏物語の「桐壺」には『長根歌』のクライマックス「比翼の鳥、連理の枝」がズラッと引用されるし、源氏物語登場キャラはたびたび漢詩を引用しますが、全引用シーン154例のうち14例が『白氏文集』からだそう(参考 hokuriku-u.ac.jp/about/campus/l… )。作中引用の11%て!
2017-06-17 15:31:59つまり、現代に続く日本語の美しさの土台を作ったとさえ言える『枕草子』や『源氏物語』、その作品のさらに土台となった白居易の詩風に、(清少納言や紫式部が活躍した時代よりさらに約200年前に生きた)空海が強く関わっていたと『阿・吽 6』に込められているのです!(ゴロゴロゴロ!!
2017-06-17 15:32:34ほかに書きたいこともあったのですが(空海が語学に堪能だったのはその火の玉みたいな好奇心を満たすためであり、語学を「その言葉を操る人と会話するため」でなく「その言語そのものに秘められた概念を知るため」だったのだな、とか、字の美しさが内面の美しさを表す時代!とか!!)、
2017-06-17 15:34:06空海→白居易→清少納言&紫式部のライン構成が美しすぎて、他のことを全然書けないままもう9ツイート。しかしまったく悔いなしです。『阿・吽 6』すごいです。未読の方、羨ましいです。 これからこの作品に出会えるなんて、なんという贅沢。(了 amazon.co.jp/dp/4091895921/
2017-06-17 15:35:25