ウィア・スラッツ、チープ・プロダクツ、イン・サム・ニンジャズ・ノートブック #5

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【ウィア・スラッツ、チープ・プロダクツ、イン・サム・ニンジャズ・ノートブック】#5

2017-06-17 15:03:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

何も知らぬ市民から見れば、その二人はハードな業務を終えてようやくチープな食事にありつこうとする労働者に見えただろうか?否、帽子を目深に被る男の方はどこか浮世離れしたアトモスフィアを持っていたし、対面のオレンジ髪のオーエルとの組み合わせがその言葉にしづらい奇妙さを倍加していた。 1

2017-06-17 15:12:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「お歓迎」のオムラ・ゴチックが点滅する砂色の店内、ニンジャスレイヤーとコトブキはスシ・コンベアに乗って運ばれてくるカレー・スシの皿を無作為に取り、流れるゼン・ラーガBGMに紛れて注意深い会話を交わすのだった。「奴のジツは直接見た。解析は……」「タキ=サンは?」「反応待ちだ」2

2017-06-17 15:17:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「反応待ち……やはり」コトブキは神妙な顔でヨーグルト飲料を飲んだ。「急性自我希薄化症状の進行が予想外です」「急性自我希薄化症状?奴が?」「ここのところの様子はおかしかったのです。薬価が228倍になった事で彼はおそらく服薬が滞っており、応答にすら支障が出ているものと」 3

2017-06-17 15:19:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」ニンジャスレイヤーは沈思黙考した。コトブキは励ますように言った。「大丈夫です。昏睡したらお客さんが気づく筈ですし、たぶん死にはしないです。協力して頑張りましょう!頑張ってデシケイターを倒すんです。とても悪いですよ!」「タキはともかく、お前は何故ついて来る」彼は尋ねた。4

2017-06-17 15:25:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

他者への関心が希薄な彼ですら、確かめずにはいられぬ疑問だった。「奴はおれに借りがある。お前は無いぞ」「難しい質問ですね」コトブキは眉根を寄せた。「幾つもの旅の中で、わたし自身の答えははっきりしてきました。ですが、貴方がわたしのロジックを理解して納得できるか、自信が無いのです」 5

2017-06-17 15:32:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「サツガイを探し、ニンジャを殺す。そこにロジックもクソもない」「わかります。貴方の、とても……すごい敵なのでしょう。復讐の戦いです……!」「復讐?」「言わずともわかります」コトブキは頷いた。「貴方はとても執着しています。ならば、復讐でしょう」「……」「今回の敵も非常に悪いです」6

2017-06-17 15:41:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「殺す事に良いも悪いもあるものか」ニンジャスレイヤーは言った。「サツガイに連なるニンジャ達が何をしていようが、おれの標的だ。慈善事業をしていようが、どこかのボンズだろうが、おれは殺す」「そういうのはよくわかりません」コトブキはスシをつまんだ。「ひどい事にはならないと思います」7

2017-06-17 15:44:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「たとえば、あれがサツガイのニンジャならば、おれは」ニンジャスレイヤーは窓際で楽しげにスシ盆を囲む家族を横目で見た。コトブキは首を横に振る。「たとえばの話じゃありません。あの家族はサツガイのニンジャではない、それが結論です。そうでしょう」「……」ニンジャスレイヤーは渋々頷いた。8

2017-06-17 15:50:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「わたしはこれまでの経緯から、貴方に協力する事を決めていますので、そうします。納得ずくです。これはわたしがどうするかの話であって、貴方の意見や道徳の善悪と関係無いのです。この説明が難しいと考えています」コトブキは思い至り、「裏切りを警戒していますか?わたしには義心があります!」9

2017-06-17 15:57:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「もういい」ニンジャスレイヤーは問いを切り上げた。「ならば、今回の計画を続けるだけだ」「そうですよ」コトブキは頷いた。「せっかく立てた計画です!」「暗殺のな」「……暗殺の計画です」コトブキは神妙に頷いた。 10

2017-06-17 16:03:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「奴のジツは……」ニンジャスレイヤーは言葉を切り、頭を押さえた。ニューロンに違和感。彼のローカルコトダマ空間に、タキからのIRC通信が繋がったしるしだった。彼の合図をうけてコトブキは自身の携帯端末を操作。IRCセッションに加わる。簡易的な会話空間に三つのアカウントが出現した。11

2017-06-17 16:14:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「よォ、ニンジャスレイヤー=サン。元気か」低解像度のアカウントが不明瞭な声を発した。ニンジャスレイヤーは問うた。「なぜ応答が無かった?」「ああ、それはな……」「無理しないでください」と、コトブキ。「今は大丈夫ですか?物理肉体が植物状態になっているという事はありませんか?」 12

2017-06-17 16:16:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「物理……植物……」「やはり、服薬できていないんですね」コトブキは呻いた。そしてニンジャスレイヤーに説明した。「いずれタキ=サンの自我はネットワークに拡散し、電子的な応答すらもできなくなってしまうんです。危険なんですよ!」「あ、ああそうだ」タキが追認した。「オレは……ヤバイ」13

2017-06-17 16:19:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「もう少し頑張ってください……!」コトブキが気遣った。「社内潜入で内部調査を行っていますが、カイシャの人達も渋々従っている状況です。デシケイターを倒しさえすれば、ニューログラの薬価は是正されます、きっと……!」「ああ……頑張るぜ。オレはもうダメかもしれねえが……致命的だ」 14

2017-06-17 16:22:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「非致命!ダイジョブ!」コトブキがタキの手を電子的に掴んで励ました。「これがオーエル活動の最中に蒐集したデータですよ」彼女は簡易会話空間に電子A4オフィス紙を電子的に並べていった。「ムンバイオフィスは急ごしらえで、充分にサポートされておらず、セキュリティが弱いのです」 15

2017-06-17 16:28:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「見立て通りだ」タキが電子的に頷いた。「解析は出来たか?」ニンジャスレイヤーは尋ねた。彼はデシケイターの用いる恐るべきジツを自ら観察し、事前に幾つか残されている戦闘情報との擦り合わせを行い、タキの解析を待っていたのだ。「当然だ。オレはテンサイ・ハッカーだぞ。今にも死ぬが……」16

2017-06-17 16:37:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

タキの低解像度画像に誇らしげなノイズが走った。「奴のあの金属虫、あれはアダナス社の製品だ……ニンジャスレイヤー=サンが送って来た残骸の画像でしっかり確認した……オレはテンサイだから間違いねえぞ」「アダナス社?」「うさんくせえテック企業さ。デシケイターは盛んに取引してる」 17

2017-06-17 16:41:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「個人的にか?」「ああそうだ、あんなモノ、公の運用データはどこにも無い。オレはチップ品番から辿った。ありゃ何かの試作品だ。提供を受けてンだ……奴ら、きっとツーカーだ。そこでだな、デシケイターのアカウントを乗っ取って、アダナス社にアクセスするのが段取りって事……」「本格的です」18

2017-06-17 16:48:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーは推論をたてていた。デシケイターの金属虫は遠くニンジャスレイヤーすら嗅ぎつけて襲ってくるほどの探知能力を持つが、そこに意志の介在は感じられなかった。となれば、ニンジャソウルを探知する自動操作の類いだ。その点にデシケイターのジツの介在がおそらくある。 19

2017-06-17 16:52:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

デシケイターのアカウントを使ってアダナス社に繋ぎ、そのテクノロジーサポートを騙して金属虫を何らか無効化させる事ができれば、あとはカラテでどうとでもなる。それが想定される最善の流れだ。「だから、後はうまくやれ。そっちでガンガンやれば解決なンだ」「それが……」コトブキが口ごもる。20

2017-06-17 17:00:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「どうした?後はお前らがムンバイのセキュリティホールを衝き、ネオサイタマの本社にアクセス、アカウントを盗む。簡単だ」「そこなんですが、」「何渋ってやがる?一大事……やらねえと世界のニューロ危機……」「そうなんです。何としてでも。タキ=サンも頑張らないといけないんです」「ん?」21

2017-06-17 17:03:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「かろうじて得られた情報ですが」コトブキはA4紙を電子的に追加していく。「CEOの電子情報が管理されているのはシンケンタメダ社内の最高機密領域なのですね」「ん?そりゃそうだ、それで?」「ムンバイ支社からではアクセスできないようになっていて……UNIX自体が切り離されています」22

2017-06-17 17:08:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「待て」「こちらのUNIXにわたしがLAN直結して可能になるのは、下位領域のセキュリティ操作。本社の監視カメラを停めたり、ゲートキーを無効化したり」「オレは……自我が……まずい……」「そうです!急がないとタキ=サン自身が危ない!タキ=サンが潜入してソーシャルハックしないと!」23

2017-06-17 17:11:20