【けれども耳】福間健二 #k2fact170

福間健二 @acasaazul

火曜日と水曜日の夜のことはあまりよくおぼえていない。ひとりでダンスしてコンピューターを相手に将棋をしたこと以外は。木曜日、用があって子どものときに住んでいた町に行った。あったはずのものがほとんど消えていた。でも、小学校と郵便局と暗い夜はあった。（けれども耳１）#k2fact170

福間健二 @acasaazul

不安を受けとめる胸の倉庫。ラジオが鳴っている。ＮＨＫ第二、気象通報。電源の切り方がわからない。いや、切ったよ。切ってもずっとやっている。ここだよ。壊れたテーブルの下にだれかいた。ビワを食べていた。その指、その手。スカートの襞でぬぐっていた。（けれども耳２）#k2fact170

福間健二 @acasaazul

ところどころ濃い霧のため、見通しがわるくなっています。それをいいことに線状に走る腐食が広がって、みんながもういらないというもの、ぼくには必要だ。拾った。暗い夜。そんなもの、彼女ができるだけでなくなっちゃうかもしれないけどね、と翁二さんは言った。（けれども耳３）#k2fact170

福間健二 @acasaazul

拾った。拾った。手で、目で、耳で。最初のキス、ぬくもりと寒さ、炸裂しそこなった管たち。もっと汚れたいというわけじゃない。いちおう、てれくさそうに。壁からだとしたら何をはがす天才なのだろう。数時間後、地面にきれいな若草色の靴下の片方が落ちている。（けれども耳４）#k2fact170

福間健二 @acasaazul

金曜日、テレビの0655で歩いてきた瓶容器が並びなおすのを見る朝。いい朝だ。瓶たちの素直さに感謝しながら、パジャマと一緒に洗濯できる。層状にはがれてそれで終わりというわけじゃないもの。音がうるさいのは我慢して。では、また来週。腰、大事にね。（けれども耳５）#k2fact170

福間健二 @acasaazul

三一〇日前、ということは終わりかけている夏の酒場。動きたがらない「未来」と言い合いをした。不注意というわけじゃなく「ビヨンセもリアーナも藤本紫媛もいない暗い昔を保存するＢ地区の夜にも線をつないで」。胸の倉庫は左側だけ火事。ハイボール、濃いめで。（けれども耳６）#k2fact170

福間健二 @acasaazul

ウイスキーとソーダ。アメリカ人はそう言う。さびしいアメリカ人。相手はだれでもいい。ぼくがだめなのは最初の一杯をはやく飲みすぎること。そのため一時間後には防戦一方になって、言いふるされたパターンを組み合わせただけの「未来」もはがせないＡ地区だ。（けれども耳７）#k2fact170

福間健二 @acasaazul

人の声がして、それだけは願いがかなったというわけだろうか。血の線でたどる苦しみからの、でたらめはでたらめでも物語的構成への出口。死体ではないがもう新しいとは言えない相手。考えないで反応するだけ。とくに風と光に反応する。よく乾くということだ。（けれども耳８）#k2fact170

福間健二 @acasaazul

だれかに迷惑をかけている。もう一杯。そのきれいな襞、必要なのか。蓋のできるものには蓋をして。パルプ、膨れあがる繊維質で保ったこの高さよりも上には何もないとわかって。やっとポテトサラダを食べながら目を閉じる土曜日の朝だ。たとえばそういう物語。（けれども耳９）#k2fact170

福間健二 @acasaazul

いまは、洗濯機。反応するだけで考えない機械の音。窓からは日曜日の人々の声とピアノ。二〇一七年六月十八日。だれかがまだ暗い夜を歩いている。けれども耳、聞いている耳と聞いていない耳がある。読者よ、もうバレてるかな。どちらもしばらくすれば夏になる。（けれども耳10）#k2fact170