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会長には弱みを見せたくねぇってのは分からねぇでもねぇし、俺も頼られて悪い気はしなかった。だから出来るだけ付き合ってはやっていたが、いかんせん数が多過ぎた。だからって無視すると落ち込みやがるしなぁ…戻ってきてからのここ数日は落ち着いてるが…今後はどうなることやらな。 20
2017-06-25 23:04:09「すみません…本当に…」 「いや自重してくれりゃいいから…な?」 鳩寺の手に肩を置いて宥める。 「それより、呼び捨てじゃ馴れ馴れし過ぎるよな?」 「いえ!そんなこ」 「そ、そうだなぁ…お前は人間だから…」 俺は言葉を止めた。鳩寺は怪訝そうに見ている。 21
2017-06-25 23:13:57しまった、ついクワガタ気分で考えちまった。いつもは種類や色、性格を見て人間風の名前をつけて、下の名前で呼ぶ。あだ名では…呼ばねぇな。待てよ、よく考えたら人間もラッタ以外はあだ名で呼ばねぇな俺。ラッタのあだ名を付けたのも俺じゃねぇし…。あだ名ってどうつけりゃ良いんだ!? 22
2017-06-25 23:24:54「先輩?」 「おっおう…そうだな…鳩寺だから…『トデラ』ってどうだ?」 「それじゃあ別の苗字みたいだろ」 久浦が呆れ声で言いやがった。ちっ言い返せねぇ…! 「じゃあ、望だから…『ゾミー』!」 空気が凍った。書類やキーボードの音も止まった。 「鳩寺くん…頭大丈夫?」 23
2017-06-25 23:31:18金枝先輩が可哀想なものを見る目で俺を見てくる。いや他の皆もだ…。朝来も…鳩寺まで! 「ゾ…ミー…」 特に鳩寺はこの世の終わりのような顔をしていやがる。そりゃそうだ。俺だってそんなあだ名を付けられたらそうなる。誰だ付けたのは。俺だ。 24
2017-06-25 23:35:45ダメだ。俺にあだ名を付けるセンスはねぇ!あだ名以前に人の呼び名にも結構迷うくらいだからな。佐祐里さんをどう呼ぶかも悩むし、新司も本人を前にするとまだ名字で呼んじまうんだよな…。救いを求めて周りを見るが、皆もこれと言ったアイデアは思い浮かんでいねぇようだ。どうする…? 25
2017-06-25 23:47:55「あれ?」 鳩寺が何かに気付いたようだ。俺の目線を追うように周りを見ていた鳩寺はショーケースに視線を注いでいる。 「げっ」 ケース正面の一番上の金属部をノゾムが歩いている。 「あっもしかして片桐先輩のクワガタですか?」 「お…お…おぅ…」 まずいまずいまずい! 26
2017-06-25 23:51:34いや待てよ。考えてみれば、鳩寺はノゾムたちの名前は知らねぇ筈だ。メールのやり取りでも話題に出した覚えはねぇ。それにクワガタの個体の見分けがつく奴は意外なほど少ねえ。種類すら分からねぇってんだから驚く。だから大丈夫だ。 「この子はなんて名前なんですか?」 ダメだった。 27
2017-06-26 00:02:52適当な別の名前を言うことは俺には出来ねぇ…。詰んだ。 「鳩寺」 呼びかけたのは藤宮先輩だ。 「そういえば戻ってきてからすぐ作戦が始動したから、まだ聞いていなかったな」 「な、何でしょうか?」 「…イギリスでの生活のことだ」 28
2017-06-26 00:14:14「えっと…何をお話すれば…」 「その…生活の…」 落ち着いて見える藤宮先輩だが、割りと焦っている。話を逸らそうと咄嗟に考えてくれたが、お互い日常会話が苦手同士だったのが災いしちまった。 「向こうの学校は毎日どんな感じだったの?」 そこへ金枝先輩がフォローを入れてくれた。 29
2017-06-26 00:22:33「はい!ええと…まず寮生活だったので、その時点でこっちにいたときとは違うかも知れませんけど…」 鳩寺が元気に喋りだした。これは多分タイミングがあえば自分から離したいと思ってたパターンだ。メールでもそういう時があった。助かった…。俺達は話を聞きながら作業を再開し始めた。 30
2017-06-26 00:35:15「ただいまー!」 勢いよく扉が開いた。 「うげっ!?」 まずい、恵里だ。 「そっちか」 ずっと窓の方を見ていた朝来が扉の方を向いた。いや、窓から戻ってこられてたまるかよ! 「ごめんねー。窓から戻ったほうが早いとは思ったけど、陸上部が来ちゃって…」 おい…! 31
2017-06-26 00:43:07「窓から降りるのは誰でも出来るから平気だけど、登るのはちょっとまずいかなぁって思ったから、普通に戻ってきたわ」 「お前の判断基準はおかしい」 「それより…はい!」 恵里は自分の席側を通って俺のところに来ると、買ってきた飲み物を渡してくれた。黒豆ソーダとかいう奴だった。 32
2017-06-26 00:46:00「ありがとうな…」 「うん!」 恵里は良い笑顔を見せると、そのまま左回りで朝来の方へ向かった。 「ものすごく感謝する」 「良いから良いから」 俺が異形の炭酸に気を取られている間に恵里は朝来にジュースを渡し、そのまま自分の席に戻ろうとしていた。 33
2017-06-26 00:54:57「……」 ポカンとする鳩寺に、恵里はノゾムを差し出してみせた。 「さっきの話、ハルが呼んでたのは鳩寺くんじゃなくってこの子よ」 ノゾムはジャキンジャキンと自慢げに鋏を鳴らす。 「恵里…お前…お前…」 言葉にならねぇ俺に対して、鳩寺はゆっくりと首を回して見つめてきた。 34
2017-06-26 01:05:55「すまねぇ!本当!気が付かなくて!」 「いえ、こちらこそ!僕如きが簡単に名前で呼んで頂ける訳がなかったんです!」 「そうじゃねぇ!…でもそういう訳だからお前の呼び方は、鳩寺で勘弁してくれ!」 「それは…!」 「…俺のあだ名のセンスは思い知ったろ?」 「…鳩寺でお願いします」 35
2017-06-26 01:09:22俺達が互いに土下座し合っている所で、再び扉が開いた。 「片桐くん…?望くん…?」 顔をそっと上げてみると、会長は俺たちを呆然と見下ろしていた。顔がよく見える。 「まさか…とうとう心までクワガタになっちゃったんですか!?望くんまで!?」 「とうとうって何すか!?」 36
2017-06-26 01:16:38フォビドゥンフォレスト5話「選ばれし者、選ぶべき者」 #10「望とノゾム③」終わり #11 に続く
2017-06-26 01:18:58