#ダークエルフ王国見聞録　その１５

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

風呂から上がって湯帷子のまま、山風にあたってのぼせた体を涼ませていると、山床の者の少女・アセントアは、清流に浸していた鉄の水差しから薄い琥珀色をした液体を木杯に注ぎ、私とセラに渡してくれる。これを口にすると爽やかな甘味が口中に広がり、ほのかに木の香もする #ダークエルフ王国見聞録

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この飲み物は、雪解けの頃に水白樺の樹に穴を空けて取る樹液を煮詰めたものを、ハーブを浸した清水で割った飲料であると彼女は説明してくれる。樹液をそのまま飲むこともあるそうだが、保存が効かず、その時期以外はこのように煮詰めた糖液として用いるそうである #ダークエルフ王国見聞録

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涼み終えた我々は再び元の服装に着替えて彼らの宿営地に戻ることにする。せっかく温めた体を冷やすのも良くないとアセントアは、木タールをしみこませた布を私達の靴に巻き、水避けの呪いをかけてくれた。行きよりは時間をかけて、昼ごろに彼らの宿営地へとたどり着く #ダークエルフ王国見聞録

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アセントアとその父親に案内の礼を述べ、帰りの道中にセラが弓で仕留めた大地栗鼠を皆で食べてくれるようにと渡す。彼らはこの肉に岩塩を振って焼き、滴る脂を麦と蕎麦の粉を練って薄く焼いたパンに吸わせ、焼いた肉と山菜などをそのパンに包んだ料理を私達に分けてくれた #ダークエルフ王国見聞録

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昼食の後、我々は里へと一旦戻ることとし、昼食後の休憩を取る彼らと別れる。一日を経ただけで山中の細い道の通り順はおぼつかなくなり、もし私だけであれば戻れる自信はなかったが、山渡りに長けるセラのおかげで会話を楽しみながら山中を歩んで、無事に里へと戻った #ダークエルフ王国見聞録

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その後、私は１月ほど山床の者たちへの宿営地へと通い、彼らの炭焼きや薬種採りといった山仕事、山で得た様々な鉱物や薬草を精錬・精製する作業を見聞し、記録したその驚くべき細やかな作法を本にまとめた （訳注：学士の手によるこれらの資料は現在散逸している） #ダークエルフ王国見聞録

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山仕事によって木炭や木タール、顔料や樹脂などが完成する度、俵や甕に入れ、籠で背負ったり、赤毛の大角鹿に載せたりして里へと運び、集落の外の空き地に建てた雨除けの屋根を設けた簡易な小屋にそれらを蓄えていった。 #ダークエルフ王国見聞録

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最後の炭焼きが終わると、木々が切られた斜面に新たな苗が鹿の害を防ぐ枝の囲いと共に植えられる。窯を包む粘土の壁が崩され、宿営地には道消し草の種が撒かれる。山床の者達は小さな祭壇を取り出し、一同は長を先頭として地に伏せ、山の精霊への感謝を伝える儀式を行う #ダークエルフ王国見聞録

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彼らは里に戻ると、里長達に山で得られた産物の一割強を里の領域で仕事を行ったことの対価として引き渡す。単に山野の土地を使うだけでそれだけの対価を支払うことに不満はないのか、彼らの長に尋ねると、山の精霊達が心安らかにあるのは縁深き里の者達のおかげだと言う #ダークエルフ王国見聞録

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ダークエルフは土地々々に宿る種々の精霊との関わりを、それを仲立ちとして通う魔力を含め、日々の生活のあらゆる側面において大切にするが、山床の者達は特にその意識が強い様である。この対価は、里の者に加え、それと密接な関係にある土地の精霊に対するものでもある #ダークエルフ王国見聞録

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里に納められるのは煮炊きや暖房具に用いる木炭や、屋根の修繕や雨具に用いられる木タール、山菜や岩魚の干物など、日用品や食料として用いられるものであり、毒蛾の粉や岩顔料といったものは納められない。里の者の生活に資することが精霊との結び付きに資するからである #ダークエルフ王国見聞録

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里長への挨拶が済むと、山床の者達はこのまま氏族長の町へ行って今回の仕事で得た産物を売り、また季節ごとに納めることになっている税を氏族長へと納めるそうである。近場の里や町の材木商や荒物屋に卸すこともしばしばあるそうだ #ダークエルフ王国見聞録

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里に残していた荷物から木板や車輪を取り出して荷馬車を組み上げると、蓄積していた産物をそこに載せていく。その作業を見守る里の者達の中から一人の少年が歩み出て、積荷の作業を手伝っていた一人の少女へと近づく。少女もそれに気付いて作業の手を止める。 #ダークエルフ王国見聞録

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獣使いの双子の弟であるマーシュは、この一月の間に作ったのであろう、鳥が翼を広げる様な形に鷹の羽根を配置し、それが挿された円形の黒木に革紐を通した首飾りをアセントアに手渡す。少しばかり驚いた表情の彼女は直ぐに笑顔になってそれを受け取る #ダークエルフ王国見聞録

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また、彼女は頭巾の下、額に巻いていた布を取り外すと、それをマーシュの額に手ずから巻き、白に複雑な幾何学模様が緋色に染め抜かれた布がマーシュの長い銀髪を押し上げて、真っ赤に染まる表情を更に露わにする。二言三言言葉を交わしてから、少年は少女の元を離れる。 #ダークエルフ王国見聞録

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「ふふ、愛いものであるな。習わしの異なる者同士、困難もあろうが、それでも結ばれるとよいな」 傍に立っていたセラが優しい笑みを浮かべ、私の手を握りながらそのように述べ、私もそう思うと答えながら、山床の者達の出発を見送ったのである #ダークエルフ王国見聞録

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ダークエルフ王国見聞録 山床の者達編　おしまい～