#ダークエルフ王国見聞録 その15

著者 へどばんさん pixiv版(https://www.pixiv.net/series.php?id=823771) 山床の者のはなし
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へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

この黒い液体は木タールと木酢液が溜まったものであり、よく見るとどろりとした黒いタールが下層に、その上層には茶色がかった液体である木酢液とそれを覆う木油に分かれている。この煙の色が薄まる頃に、窯と窪みをつなぐ部分を閉じ、新たな煙穴を中途に穿つ #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-09 18:52:26
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

木タールを取り合えた後は、この煙が完全に無色になるまで待ち、その後煙穴も閉じて窯の中で木材が硬い炭となり、温度が十分に低下してから入り口を崩して炭を取り出すのだと言う。ハウタは木タールが主な目的で炭は副産物であるが、木炭用の高い窯でも同様の作業をする #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-09 18:52:47
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

石組みの鉢状の窪みに溜まった液体の上層を先ずは大まかに掬い出し、大鍋に取る。この表面から木油を取り、残った木酢液からは一向に属する薬師が精製し、木精を得るのだと言う。次いで大きな布を被せ、木タールの上に残る薄い木酢液を吸わせ、これを搾って回収する #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-09 18:53:08
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

目の細かい金属製の籠にして太い枝から吊るし、その下に藁を編んだもので包んだ甕の蓋を開けて置く。籠へ木タールを入れ、塵を取り除きながら、布を通り抜けてしたたり落ちる木タールを回収する。粘りのある液体が落ちる速度は遅く、炭焼き同様に時間を要する作業である #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-09 18:54:02
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

木材が炭になるまでの時間や、木タールの精製が済むまでの時間に山床の者達は、木酢液の精製や集めた枝を使って籠編みなどをしている。窯の様子を見守る者以外では、宿営地を離れ、塗料に用いる樹液を集めに行くと言う者や薬種となる冬虫夏草や松蘿を探しに行く者などもいた #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-09 18:54:25
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「ふ~む、お役目とは言え、何もせずに見物だけしているというのは落ち着かぬな。山鳥でも射て夕餉に供するかな」 彼らの仕事を記録することに忙しい私と対照的に、手持無沙汰なセラは狩りに出ようとする。妻に同行するか、ここに残って記録を続けるか、私は思案した #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-09 18:54:41
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「それならば、ご夫婦で温泉などいかがですか?私の娘に山向こうまで案内させましょう」 我々の様子に気付いた山床の者の男性がそのように提案してくれた。少女であっても彼らには貴重な労働力であるので、ありがたい申し出だが、面倒をかけることにならないか尋ねる #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-09 18:54:56
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「山中の道案内も我らの仕事。娘にも経験を積ませないといけませんので、構いませんよ。パーンセラ殿は道中で狩りをされるのもよろしいでしょう」 そう言って彼は一人の少女に呼びかけて手招きする。見ると、里でマーシュに独楽を教えていた少女であった #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-09 18:55:10
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

木々の緑に解け込むような濃淡の入り混じる緑の外套を着た彼女は、虎目石の宝玉を銀鎖で額に据え、銀の髪には山鳥の飾り羽を挿している。 「山向こうの硫黄泉までご案内しますね。私どもの足ならば三刻程で着く所です。よろしくお願いします」 #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-09 18:55:25
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

宿営地のある山腹から西側へと向かい、尾根を越えて下ると小さな湿原が広がっている。そこから先の山を少し登り、その側面を回る様に進んでいく。しばらく進むと、両側から伸びる低木が隧道の様になった小道を下っていく。小道には山水が流れ、小さな沢の様でもある #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-09 18:55:41
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

私の靴には水が沁み込み、不快感があるが、道案内の少女は脛まである長靴に木タールが沁み込ませてあるらしく、湿原や沢を歩んでも水が沁みこむことは無いそうである。 「悪路ですみませんね。とは言え、目立つ道を作ってしまうと山中で要らぬ危険を呼び込みますので」 #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-09 18:56:06
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

この木々の間の小道を下っていくと、視界が開ける。そこは草木が僅かに生えるばかりで、河原の様に石や礫のみが広がり、その中央に白く濁った水が溜まった湖があった。そこから濁った水が溢れて何本かの流れを作り、その一部は北側へと降りていく川へと注ぎ込んでいた #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-09 18:56:24
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

湖から湯気を立てて溢れ出る一つの流れの脇から、真っ直ぐな流路で白濁した水が引き込まれ、川からは透明な水がやはり引き込まれて両者の水路が合わさる箇所で円形の池に溜まっている。これが風呂で、温泉の湯と川の水が合わさってちょうど良い水温になるそうだ #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-09 18:56:44
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「私は足湯に致しますが、せっかくですからお二人はお湯に浸かってくださいな」 山床の者の少女は私達に緑を帯びた天蚕糸で織った湯帷子を差し出す。湯に入る前に、岩陰で服を脱ぎ、川の水で体の汚れを落としてから湯帷子を着てから、硫黄の香がする湯の溜まりに入る。 #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-14 22:46:54
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

湯に浸かった体は温泉の効能であろうか、芯から温まって山歩きの疲れを癒し、山の涼しい風が河原に吹き抜けて頭部の熱を冷ましてくれる。上流の斜面には夏の緑の中に、小さな桃色の花を咲かせる瓔珞躑躅が見える。斯様に風流な風呂に入ったのは初めてである。 #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-14 22:47:10
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

アセントアという名の山床の少女に、山床の者達も疲れを癒すためにこの温泉によく浸かるのかを尋ねてみる。 「ええ、もちろんです。山を渡る中での楽しみの一つです。それと、こういった温泉が出る山では硫黄華や明礬を取るために寄るのですよ」 #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-14 22:47:24
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

彼女の話では、硫黄の息吹が噴き出る場所に簡易な小屋を建て、中に金気を含んだ粘土の板を並べて立てておくと、硫黄華や明礬が採れるのだそうである。ダークエルフは、自然毒に対する耐性が強い種族であるので、地から噴き出る硫黄の空気を恐れずに利用するのであろう #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-14 22:47:40
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

ゆったりと温泉に浸かる中で、アセントアは色々な話を語ってくれた。東に高くそびえる山を指し、その山の頂は常に雲に包まれ、強い風に阻まれて登ることができないが、稀に雲の晴れる時には、山の女神が天上へと出かける時であり、その時に限って登頂することが出来ると言う #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-14 22:48:35
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この氏族領を渡り歩く山床の者達は、一人前として認めてもらうためには、男女の別なく、独力でこの山に登る必要があるそうだ。山頂の近く、強い風が当り続ける露頭からは辰砂のかけらが零れ落ち、これを袋に詰めて持ち帰ることで、霊山の頂きに至ったことの証とすると言う #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-14 22:48:54
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持ち帰った辰砂は細かく磨り潰して、それから紅色の顔料を作り出し、その者の婚儀において化粧に用いるのが習わしなのだとアセントアは語った。彼女に、もう霊山へは登ったのかと聞くと、まだまだ修行中の身であって、そこまでの技量はないとはにかんだ笑みで答える #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-14 22:49:10
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「婚儀と言えば、お二人はどのように夫婦になられたのですか?人間の男性と結ばれた方には初めてお会いしましたので」 「こ、この男が、ど、どうしてもと言うのでな!アセントア殿は立派な働き手の様子。自信を持って構えておれば数多の男から言い寄って来ようぞ」 #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-14 22:49:31
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湯の効能とは異なる赤味を頬に差したセラが、黙っていろとばかりに濁り湯の中で私の腿を抓りながらそう答えると、山床の少女はクスクスと笑う。 「ありがとうございます。でも、我々山床の女は自由に婿を迎えることは出来ず、異種族を婿に選んだ貴女を羨ましく思います」 #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-14 22:49:58
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

聞けば、彼ら山床の者達はその活動領域の西側に位置する領域の者達から婿を迎え、またその東側にいる集団へと婿を出すそうである。王国の周囲を囲う山脈で、右回りの円弧を描く様に、集団間での婿入りの方向が定まっており、それが王国全土で山床の者達の絆を作り出している #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-14 22:50:23
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

十年に一度ほど、活動領域の接する山床の者達がその境界で出会う儀式があり、適齢期となった男女は、親族同士の話し合いや本人、特に女性側の意向に基づいて夫婦となる相手を選ぶそうだ。また、この儀式は異なる集団での技術や情報を交換する場にもなっていると考えられる #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-14 22:50:56
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

この儀式の存在から、山床の者達が、里の男子を婿として攫って行くことがあるという風聞が間違っていることが分かると共に、アセントアもそのように婿を取るのかと考えると、里で彼女と手を触れて頬を赤らめさせていたマーシュはそれを知ってどう感じるだろうかとも思った #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-14 22:51:16