#ダークエルフ王国見聞録 その15

著者 へどばんさん pixiv版(https://www.pixiv.net/series.php?id=823771) 山床の者のはなし
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へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

二間から三間程の高さの木々を手斧で切り倒すと、手ごろな長さに切りそろえて、束ねた者を肩に担ぐ。彼らはそれらを担いだまま木々に囲まれた山道を造作もなく歩み、先程の窯の据えられた場所へと戻る。これらは木炭にする楢で、彼らが前にここに来た折に植えたものと言う #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-04 21:45:48
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

彼らは木炭にするのに木を切ると、その場所に新たな苗を植え、好ましい大きさになるまで待ってから再びそこを訪れて伐採するということを繰り返し、そのために山中を渡り歩き続けるのだという。植えた木のいくらかは切らずに残し、大樹まで育てて家具や樽の材料にするという #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-04 21:47:22
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

また、彼らはやはり同様の大きさの緋色樺を切り倒し、これも窯へと担いで運んでいく。この樹種からはよい木タールが採れるそうである。また、窯の前で燃やすために、枯れ木や黒松を切り倒し、枯れ枝などを集めていく。 #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-04 21:47:39
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

木炭を作る窯の中には、同じ長さに切りそろえられた木が縦にぎっしりと詰められ、木タールを得る窯には奥へと向かう傾斜の付けられた金板の上に手ごろな大きさに切り分けられた木材が詰め込まれていく。火入れから取り出しまで三、四日程かかるそうだ #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-04 21:47:56
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

山床の者の一人が荷物の中から、藍錆色の宝珠が長い金串の伸びる台座にはめられたものを取り出し、窯を包む粘土の部分に慎重に指す。これは、窯の中の温度を測るための道具であり、金串から伝わる熱の高低で、宝珠の色が藍色から徐々に緋色へと変わるのだそうだ。 #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-04 21:48:13
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

窯を整え、材料を揃えたところで山中の早い夕方を迎えた。私とセラは予め今晩は山床の者達と共に山中で夜を過ごすことを彼らと里長に伝えて許しを得ていた。というのも、文化異種族学の徒として彼らに色々と聞きたいことがあり、セラはそれに付き合ってくれるのである #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-04 21:48:28
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

山腹に張られたいくつかの天幕の中心に篝火が焚かれ、彼らは干し肉や乾燥させた茸、山菜を獣脂やハーブと共に煮込んだものに、里での物々交換で得た麦の粉を水で練ったものをちぎって入れたものを夕食にしていた。私とセラもこの夕食の相伴に預かることになった #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-04 21:51:52
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

話を聞かせて貰うお礼にしようと里から持ってきた果実酒の入った甕を、夕飯の返礼としても彼らに差出すと、彼らは喜んでそれを受け取る。何か山中で過ごすなかで変わった話はないかと聞くが、彼らは互いに顔を見合わせながら相談して、口々にこんな話があると語り出した #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-04 21:52:09
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

彼らが語るには、深い山中を歩む際には、群れからはぐれて彷徨うゴブリンやオーク、邪な目的を以てダークエルフの領域に踏み込む人間、稀に地上へ姿を現す魔物など、様々な危険があると言う。それらを退ける力量と手勢が無ければ山床の者達は生業を営めないのだ #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-08 20:13:18
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

それらよりも彼らが恐ろしいと口を揃えるのは、深山や霊峰に住み、子を為す季節に入ると男性を奪い去るというラミアやハーピーだそうだ。それらの種族は、彼ら以上に山の神々や精霊と密接な存在であり、彼女らの怒りを買うことは山中での仕事に大きな差し障りがあると言う #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-08 20:13:54
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

下半身が大蛇で上半身が美女であるというラミアは、森深い山中の洞窟に住み、太股より先と上腕の半ばより先が猛禽のハーピーは、岩の険しい高山の尾根に住むと言う。深山の中には、彼女らに供え物をする小さな祭壇がしばしば山床の者達の手で設けられ、管理されている #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-08 20:14:12
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

箱の中に布や鏃、酒、金属器などを亜麻紙に包んで入れ、ラミアのための祭壇に置いておくと、しばらく後にそれらの代りに妙なる色を出す岩絵具や不思議な輝きの宝玉、そして山の恵みに関する予言めいた詩が書かれた木簡が入れられているそうである #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-08 20:14:26
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

同様の贈り物をハーピーに捧げる祭壇に置くと、後に上等の毛皮や羽根、紫や黄色の水晶が収められており、こちらは特に託宣めいた返礼はないが、時にハーピーの羽根が収められており、これを矢羽に用いた矢は特段の風の加護を得て珍重され、高値で取引されると言う #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-08 20:14:42
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

これらはある種の沈黙貿易の役目を果たしていると思われるが、その形態としては明らかにラミアやハーピーの側に“支払い”の有無や内容に決定権があるもので、彼女らが山床の者達から畏怖されていることを物語っている。 #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-08 20:14:59
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

ラミアは水と毒の魔術を操る賢き種族で、ハーピーは鋭い爪と力強い羽ばたきの猛き種族と聞くが、もし彼女らと戦えば勝てるのかと尋ねると、さも恐ろしいことを聞いたといった表情で、そんなことは考えたこともないと言う。戦いの種族である彼ららしからぬ反応である #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-08 20:15:16
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では、もしも、繁殖期で猛った彼女らに出会ってしまった場合にはどうするのかと彼らに尋ねると、初夏の時期にはそもそも彼女らの領域には立ち入らないが、若い男を彼女らの婿として差し出すしかないのだと言う。一度婿を得た血族からは再び婿を取ることは無いそうだ #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-08 20:15:31
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

ラミアは情愛に厚いが、嫉妬深く、一度婿にした男性をその生涯に渡って手放すことはないそうである。これに対してハーピーは子を為してしまえば男性に興味を失うそうで、その巣山から逃れて戻った者がいたという言い伝えが山床の者達にはあるそうだ。 #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-08 20:15:49
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

その他、山中での恐ろしい怪異や数年に一度しか見られない珍しい果実、星の巡りから山の豊かさを占う術などを山床の者達から様々に聞き、私はそれらを手帳に書きつけた。隣のセラも知らぬことが多いらしく、興味深げな表情で彼らの語る話に聞き入っていた #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-08 20:16:09
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

一通り話が終わると、山床の者達は今夜はちょうど良く新月の夜であるので、これからもう一仕事をすると言う。私もセラと共にその仕事に同行することとした。彼らは宿営地からしばらく離れた山中の草原で龕灯を熾し、その前に白い大きな布を二本の樹木に結んで張る #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-08 20:16:26
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

白い布は光に照らされると次第に青と紫の混じった淡い光を静かに放つ。これは特殊な染料を布に沁み込ませたもので、炎の光と熱に晒されることで人の目に見えぬ光を独りでに放つのだと山床の者が説明してくれる。暗闇の中で静かに青白い光がゆったりと夜風に揺れる #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-08 20:16:46
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

山床の者が私とセラに、密に編まれた薄布を手渡し、口を鼻を覆うように言う。指示に従ってその場に控えてしばらくすると、緋色の紋を持つ茶色の羽根をゆったりと羽ばたかせて大きな蛾が森の中から草原へと集まり、一匹また一匹と張られた布に止まっていく #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-08 20:16:59
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

息を殺した山床の者の女性が細く鋭い金串を止まっている蛾の胸へと慎重に刺す。これを水晶の瓶の中にいれて金串を振うと、蛾の羽根からぱらぱらと鱗粉が零れ落ちる。この作業を繰り返し、瓶がいっぱいになると龕灯の灯りを消し、それ以上蛾が集まらないようにする #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-08 20:17:14
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

この蛾の鱗粉は触れた者を痺れさせる毒であるそうだ。この毒で仕留めた獲物を煮たり焼いたりしても毒は消えないためにもっぱら戦闘に用いる毒矢に用いるとのことである。蛾の種類によって毒の量や性質は異なるそうで、今はこの緋紋毒蛾が夜に舞う季節なのだそうだ #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-08 20:17:56
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

夜も深くなったため、暗闇の山中を宿営地へと戻る。私は夜目の効くセラに手を引かれて獣道のような細い道を歩んだが、山床の者達は夜闇の中でもやはり足音一つ立てていなかった。私とセラは小さな天幕の中に布を重ねて敷いて、その上で毛皮に包まれて夜を過ごした #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-08 20:18:14
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

大郭公の鳴き声で目覚めると山床の者達が既に起きて窯に火を入れていた。ハウタと呼ばれる低い窯からは筒状の構造物が延びており、その先からは白い煙が噴き出していた。筒状の構造物の先には石組みの窪みがあり、そこに窯から流れ出る黒い液体が溜まっていく。 #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-09 18:52:10