#ダークエルフ王国見聞録 その15

著者 へどばんさん pixiv版(https://www.pixiv.net/series.php?id=823771) 山床の者のはなし
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へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

周囲の山腹に植えられた胡桃の花が落ち、産毛の様な細やかな毛を生やす実が膨らみ始めた頃、養蜂や狩りに勤しむ里に珍しく来訪者の集団の姿があった。彼らはダークエルフの言葉で“山を床にする者達”と呼ばれる漂流民であり、里には数十年ぶりに来たとい言う。 #ダークエルフ王国見聞録

2017-06-25 21:40:00
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

彼らはその名の通り山野での仕事に従事する者達であり、霊峰や深山にも入って炭焼きや様々な薬種の採集、野鍛冶、砂鉄や砂金の採集などを生業としている。今回、この里に寄ったのは里の領域を含む山中でしばらく仕事をするために、里長の了解を得るためであった #ダークエルフ王国見聞録

2017-06-25 21:40:29
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

十人程の集団である彼らは、異形の風体であり、木細工をちりばめた首巻や熊や鹿の頭骨を用いた帽子、複雑な緑が入り混じる衣、皮の外套などを着こみ、山蚕糸の布で口元を隠すなどして肌を極力隠しており、老若男女とも自然木の形をそのまま活かした杖を携えていた。 #ダークエルフ王国見聞録

2017-06-25 21:41:14
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

この姿は山野の精霊とより近しくあることを示すものであり、時に川床を崩しての砂金掘りや、森林を切り開く炭焼きなどにおいて、山野や河沼の精霊の怒りを買わぬように自らを自然に近いものと位置づけ、戒めるためのものであると後に聞いた。彼らは里長の館へと向かう #ダークエルフ王国見聞録

2017-06-25 21:41:35
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

一団の長と思しき男性のダークエルフが、氏族長から与えられた山渡りの許可状を示しつつ、この周囲での仕事を許可して貰いたいと里長に伝える。里長はこれを許可すると共に、彼らが活動する範囲や彼らへの要望について里の主だったものと相談を始める #ダークエルフ王国見聞録

2017-06-25 21:42:02
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「ここの原は今、蜂の巣箱を置いているので煙は避けてほしい」 「西の里山はしばらく手を入れていないので、ついでにいくらか伐採して欲しい」 「今年はここが山鳥の狩場なので、ここには近づいてほしくない」 様々な要望が里の者達から出される #ダークエルフ王国見聞録

2017-06-25 21:42:55
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里の周囲の地図を示しながら山床の者達と里の者達の相談が終わり、双方が納得の上で方針が決められた。彼らの仕事は蜂飼いや狩人に迷惑になることもあるが、彼らの仕事が終わった際には山床の者達ならではの様々な産物が礼として里に納められるため、双方に益があるのだ #ダークエルフ王国見聞録

2017-06-25 21:43:27
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

里長の館での相談が終わると山床の者達は、集落の広間で荷を広げ、彼らが他の山で得たのであろう木炭や樹液を煮詰めた甘味料、木材を削り樹脂を薄く塗り重ねた漆器など並べて、麦や蕎麦の粉、野菜類、チーズなど里の産物と物々交換を始めた。 #ダークエルフ王国見聞録

2017-06-25 21:43:54
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

本来はこのような物々交換を主として、山を渡り歩き必要な時だけ里に下りてくる漂流民であったが、現在ではこのような生業は氏族領であれば氏族長、天領であれば王府の許可とそれを得るための納税が必要となった彼らは、王国内の貨幣経済と戸籍に組み込まれることになった #ダークエルフ王国見聞録

2017-06-25 21:44:28
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

許可状は5年単位で更新されるものであり、そのたびに領域の長に税を納める必要があり、また定められた量の木炭や木タール、薬種などを毎年納める必要がある。熊鷹氏族の領内の山野を渡り歩く彼らは、氏族への帰属意識は強くないが、この氏族に属する者達とされている #ダークエルフ王国見聞録

2017-06-25 21:44:54
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

彼らの装束について記録していると、里長の家人に声を掛けられて、里長が私を呼んでいることを告げられる。彼女が言うには、里の領域で彼らが里のしきたりや先程の要請を守っているか時々見に行って確かめる監視役を私に頼みたいということであった #ダークエルフ王国見聞録

2017-06-25 21:45:19
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

セラと正式な夫婦になってもなお、里の者達からすれば何か文字を書いてばかりの私は、明確な仕事がないこともあって暇人の類と思われているらしく、このような雑用はしばしば回ってきた。既に“居候”ではないのだが、今後のことも考えて引き受けることとしたのであった #ダークエルフ王国見聞録

2017-06-25 21:45:42
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

再び広間に戻って山床の者達の商いの様子を見聞していると、一行の子らと里の子らが最初は緊張しながらも徐々に打ち解け、一緒になって遊び始めていた。山床の子らが持つ細やかな細工がされた木製の玩具、立体の組物や独楽、剣玉に里の子らは興味津々のようである #ダークエルフ王国見聞録

2017-06-27 22:38:58
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

その遊びの輪の中、里の獣使い・アラウダの弟の一人であるマーシュは、はにかみながら山床の一行の少女から独楽の手ほどきを受けている。物静かで穏やかな性格のマーシュが独楽を回す紐を持つ手に、少女の手が重ねられ、彼の褐色の頬が真赤に染まる。 #ダークエルフ王国見聞録

2017-06-27 22:39:11
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

初心で微笑ましい反応であるなと思いつつ、里の使いとして私が山中での仕事に同行させてもらうことになったと一行の長である男性に告げると、彼は快く受け入れてくれ、明日の朝早くに山に入って仕事を始めると言う。明朝は集落の入り口で待ち合わせることになった #ダークエルフ王国見聞録

2017-06-27 22:39:26
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

家に戻って明日からそのような仕事に就くことになったと言うと、今日の狩りの獲物を捌き、矢の手入れをしていたセラがやれやれといった表情を示す 「里長殿に便利に使われ過ぎなのではないか?自分の仕事もあるであろうに」 #ダークエルフ王国見聞録

2017-06-27 22:39:46
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「し、しかしだな、山を床にする者達は、古の時には、立ち寄った里の男をかどわかして婿取りすることもあったと聞く。そのようなことがあっては心配だ。私もついていくこととしよう!うむ、妻として当然の務めであるな」 #ダークエルフ王国見聞録

2017-06-27 22:40:02
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「ここしばらく、夫婦水入らずの時間がありませんでしたからね。素直でないのは感心しませんが、一緒に山に行って来たらいいですよ」 山床の者達と物々交換で手に入れた漆器を布で磨きながらセラの母・フェラフェレスが言葉を重ねる #ダークエルフ王国見聞録

2017-06-27 22:40:18
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「は、母上、決してそのような訳ではなく、私も里の者達を守る戦士としての務めをですね」 「あらあら、そんな真赤な頬をしての抗弁では説得力がないですよ。それに山床の者達が里の男をかどわかすといった話はもう遠く昔の話ですから、安心しなさい」 #ダークエルフ王国見聞録

2017-06-27 22:40:39
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そのような会話をしていると、広間で遊んでいたセラの妹・アクゥイラが夕日と共に帰ってきて夕食を摂り、明日に備えて早くに寝ることになった。山床の者達は広間に天幕を張っているようで、それというのも彼らは普段、屋根の下で寝ることをしない習わしであるそうだ #ダークエルフ王国見聞録

2017-06-27 22:40:55
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

川面からうっすらと霧が立ち上る早朝、私はセラと共に山床の者達と里を出発して東の山中へと入っていった。山床の者達は背に様々な荷物を負いつつ、足音一つ立てない静かな歩みで山中を自在に歩み、彼らが曳く荷駄を負う大角鹿の息の音の方が大きく聞こえる程であった #ダークエルフ王国見聞録

2017-06-27 22:41:22
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

里の東方の山を登り続け、しばらくすると南へと伸びる斜面の細い道を進んでいく。日がだいぶ高くなった頃、一行は深い森が開け、樹齢数十年程度の木々が並ぶ山腹へと至った。この林を抜けると、草原の斜面が現れ、一行はそこで歩みを止め、大角鹿の手綱を潅木に結わえる #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-04 21:44:32
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

草原の中央には、斜面を掘って石と粘土で固めた窯とそれに隣接する石を擂り鉢状に組んだ窪地があり、山床の者達はこれを“ハウタ”と呼んでいた。この窯は主に木タールを作るためのものである。この窯に加え、石を高く積んだ窯もあり、これは木炭を得るためのものである #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-04 21:44:48
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

山床の者たちは、例えば木タールは樺の類から、木炭は楢の類から作るなど、様々な木材をそれぞれの性質にあった様式の窯で加工するとのことである。ここにある窯は彼らが用いる多くの窯の一部であり、先祖代々が補修しながら使用してきたと一行の長は説明してくれた #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-04 21:45:05
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

山床の者の大人達は窯の掃除や補修を始め、子供らは周囲から枯れ枝を集めたり、荷解きをしたりする。この後の仕事ぶりを見ても、彼らは老若男女の別なく大変な働き者であった。窯の準備が終わると、大人たちは手斧を持って先程に通った若い木の並ぶ場所へと向かう。 #ダークエルフ王国見聞録

2017-07-04 21:45:28
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