メディアが報道しない本当のシリア・中東⒄ 「トランプの赤い一線」シーモア・ハーシュ/ヴェルテ(ドイツ)/2017年6月25日〜Trump’s Red Line by Seymour M. Hersh/ Welt, 25.06.2017(全訳)
- taiyonoibiki
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172. 今回、ハーシュに発表の場を提供したのがドイツのWELTで、2013年暮れに「誰のサリンか?(Whose sarin?)」の提供元となったイギリスのLondon Review of Booksに続いて海外の提供元であるということになる。
2017-07-10 23:08:37173. それだけ、ハーシュにとってアメリカ国内での発表が難しくなっているということなのかもしれないが、インターネットが普及した現代では何の差し障りもなく、流通する。
2017-07-10 23:08:57174. 周知の通り、4月4日シリア、イドリブ県の町ハン・シェクーンで一つの軍事行動があり、その2日後の4月6日、地中海に浮かぶ二隻のアメリカ海軍艦船から59発のトマホークがシリア中央部のシャイラート空軍基地に向けた発射された。
2017-07-10 23:09:23175. この二つの事件は、世界中の圧倒的多数派意見の中で次のように関連づけられて解釈されている。つまり、 ❶4月4日、シリア大統領バッシャール・アサドが化学兵器サリンを使用して、ハン・シェクーンの住民多数を殺傷した。
2017-07-10 23:09:58❷4月6日のミサイル攻撃は、アサドの化学兵器使用への報復行動である。それによってアサドに二度と化学兵器を使わせないと思い知らせ、同時にアサドを支援してきたイラン及びロシアの責任を厳しく追及する。 と、かいつまんでいうと、その二つの関連になるだろう。
2017-07-10 23:10:18177. さて、この解釈の大前提になっているのが、いうまでもなく❷の「4月4日、シリア大統領バッシャール・アサドが化学兵器サリンを使用して、ハン・シェクーンの住民多数を殺傷した」である。
2017-07-10 23:11:05178. シーモア・ハーシュの「トランプの赤い一線」は、4月4日の事件発生から関係者の口述をリアルタイムで追いながら、問題の要になっている❷の「4月4日、シリア大統領バッシャール・アサドが化学兵器サリンを使用して、ハン・シェクーンの住民多数を殺傷した」という言説の虚偽を
2017-07-10 23:11:33180.と言っても、読んでいるうちに誰もが気づくように、ここで何か特別な<証明>が行われているわけではない。
2017-07-10 23:12:17181. 記事の内容はむしろ、世界中の軍や情報関係者が日常的に従っている勤務ルーティンの記述のようなものであって、つまり、それを読み進むことによって、私たちにふだん馴染みのない軍や情報関係者の日常の現実を知ることになる。
2017-07-10 23:12:43182. そしてその過程を通じて、つまり彼らの現実を知れば知るほど、<アサドの化学兵器>という言説が、そもそも軍事や諜報活動を全く知らない素人にしか通用しない<おとぎ話>であり、軍事・諜報活動の専門家の耳にそれがいかに馬鹿げた話として響いたのかに気付かされるのである。
2017-07-10 23:13:15183. 一世紀前に比べて全く比較にならないほど強大な武器を持つようになった人類は、軍隊間で起こりうる些細な誤解や突発的な事故といったものがそのまま人類絶滅に直結してしまう可能性を常に抱えている。
2017-07-10 23:13:34184. だから、誤解や事故がそのまま不幸な相打ちにつながっていかないように、何重もの安全弁が設定され、その選りすぐりのルーティンが世界中の軍事関係者・情報関係者(北朝鮮を含む)によって共有されていなければならないし、実際にそうなっているということだ。
2017-07-10 23:13:55185. 特に中東のように、一つの地域内に複数の多国籍軍が同時駐留しているような地域では、相打ちを回避するために厳重な安全弁が設定されているのである。例えば軍隊間の情報の交換や共有がそれに当たる。
2017-07-10 23:14:23186. テロリストへの攻撃が友軍への攻撃と誤解されないように作戦の詳細、例えば作戦の目的、標的、規模、方法、タイムスケジュール表などが暗号コードとともに共有されるのである。このシステムの有効性は、実際の衝突はおろかニアミスさえほとんど起こっていないことでも十分に証明されている。
2017-07-10 23:14:52187. それは、4月4日にシリア空軍が行なった軍事作戦についても例外ではなかった。それは<非常に価値の高い標的>を含む極めて重要な作戦だったので、万が一にも失敗しないように、作戦に関する高密度の情報が早い時期から、シリア、イラン、ロシア、そしてアメリカ軍によって共有されていた。
2017-07-10 23:15:14188. 作戦の目的、標的、規模、方法、爆撃機の予定航路からタイムスケジュールまで、アメリカ軍に伝えられていたのである。
2017-07-10 23:15:37189. 特にケチなロシアがシリアの誘導爆弾システムを提供するという滅多にない大盤振る舞いをして、そのうえシリアも作戦遂行に最高のパイロットを任命したことから、この作戦の重要度はアメリカ軍にとっても明らかに認識されていた。
2017-07-10 23:15:58190. 作戦実行の経過は非常に優秀なアメリカの監視システムによってリアルタイムで追跡確認され、爆撃のあと、アメリカ軍が攻撃の正確な損害見積もりを査定するまでどれほどの時間もかからなかったのである。そして、提出された作戦計画表と査定の結果はほとんど一致していたのだった。
2017-07-10 23:16:21191. そういうわけだから、突然、降って湧いたように<アサドが化学兵器を使用して市民を殺傷した>という言説が多数の映像ともにインターネット上に溢れ始めた時、すべての関係者がいっせいに「そんなわけないだろ!」と思ったのは当然だった。
2017-07-10 23:16:42192. 2013年8月23日のダマスカス郊外、東グータでも同じことが起きていたことを、シーモア・ハーシュの「誰のサリンか?」は詳述している。
2017-07-10 23:17:01193. そもそもアメリカの17の情報局(Intelligence Community)は、その優秀さにおいても規模においても他国のカウンターパートたちを圧倒している。
2017-07-10 23:17:26194. かつてシリア政府が所有していたサリンを含む化学兵器のすべてがそのかすかな移動や変化を含め詳細にわたって、アメリカの情報コミュニティによって把握されていたし、従って誤解を避けるためにシリア政府は定例の訓練の場合においてもその計画書をアメリカ軍に提出する必要があった。
2017-07-10 23:17:59195. そしてシリア政府はきちんと義務を履行していた。2013年8月23日前後、シリア政府所有のサリンの状態にいかなる変化も観測できなかったし、事件発生後現場でサンプルされたサリンの組成がシリア政府所有のサリンの組成と全く違っていることも把握していた。
2017-07-10 23:18:39196. さらに付け加えれば、シリア国内でヌスラ戦線やアルカイダがサリンを所有していることも知っていた。言い換えれば、もしあの時、アサドがサリンを使ったのならば、それはとりも直さずアメリカがそれを十分知っていてアサドに大量殺人を実行させたということになってしまうだろう。
2017-07-10 23:19:17