「フラグメンツ・オブ・エピック：ディープ・オーダー」「コールドレインの章：アブソリュード・ゼロ」前編

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

葛葵は眉を顰め、剣呑アトモスフィアを込めて呟いた。呪詛めいて。「人に仇を為したんだ。覚悟してもらおうか」 24

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数日後、南西海域。人類にとってもはや安寧とした海ではなくなったこの場所は、ここしばらく濁った雲が空を覆っていた。波は僅かに荒れ始め、吹く風は強く湿気を帯びて不快である。しかしそのような事、獲物を求める深海棲艦には関係の無い事だ。波間から駆逐イ級が顔を出し、視線を巡らせる。 26

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やがて、彼の者の目はタタミ約40枚の距離に人影を見つけた。それは人影のようであった。「AAAAAAH！AAAAAH！」イ級は咆哮する。声は木霊し、イ級の傍に同胞を呼び寄せた。やがて、ひとつ、ふたつと海から黒い装甲を身に纏った魔性の者達が浮かび上がった。 27

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現れ出でたのは紅いソウル・エンハンスメント光を身に纏った雷巡チ級elite、軽巡ト級、軽巡ホ級2隻、そして駆逐イ級がもう一隻。彼の者達は虚ろな目を遠くの人影へと向けた。それらは黒い襤褸を頭から纏っているかのようであり、何者かは判然としない。だが、彼らは声に応えなかった。 28

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それはすなわち、襲うべき獲物であることを意味する。「AHHHHH！」雷巡チ級eliteが獣の声で号令を上げる。深海棲艦は第一船速でタタミ約40枚分の距離を詰める。タタミ約30枚分。人影は動かない。タタミ約20枚分。人影が二人であることが分かった。 29

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タタミ薬10枚分。一人がもう一人を庇うように立った。襤褸から節くれ立った腕が現れた。彼らが何者なのか、深海棲艦は構うことはない。彼らの目的はただ襲い、侵食し、仲間を増やす。彼らはそれしか知らぬ。それだけが与えられた。誰に？無論彼らを生み出したモノだ。 30

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タタミ約9枚分。節くれ立った腕の者が消えた。「AGRRRRH！？」チ級が断末魔の悲鳴を上げた。彼の者の体は正中線から両断されていた。輝く光の剣に…、否！氷の大剣に！一瞬でタタミ9枚分の距離を詰めたその戦士は、襤褸を取り払った。その下の姿は、袖なしの黒いレインコート。 31

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ハ級の仮面を被った戦士は、侮蔑を隠さずにアイサツした。「ドーモ、コールドレインです…失せろ、見境無しの狂犬共」「「「AGRRR！」」」深海棲艦はコールドレインに襲い掛かる！何たる見境の無さか！まるでズンビーだ！「イヤーッ！」コールドレインは液体窒素砲撃で迎撃する！ 32

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「「AGRRRRH！？」」液体窒素砲撃はまず、2隻のホ級に命中した。前面の命中箇所周辺に、無数の氷塊が出現する。海水が一瞬で凝固したのだ。極低温まで冷やされた箱型の体に腕が貼り付き、彼の者達は一瞬困惑した。「イヤーッ！」コールドレインは跳躍し、ホ級氷塊を蹴り飛ばした！ 33

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「「AGRRRRH！？」」「「AGRRRRH！？」」ホ級氷塊はイ級2隻にそれぞれ直撃！それぞれの装甲が衝撃に軋む！「コオオオーッ！」コールドレインは特殊な呼吸音を発した。その両掌に、回転する液体窒素円盤が出現した。円盤はバズソーめいたギザギザの刃を形作る。 34

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やがて液体窒素円盤はレコードめいた大きさまでに巨大化した。コールドレインはフリスビーを思わせる投擲動作で、それらを投擲した！「コリ・チャクラム！イヤーッ！」「「「「AGRRRRH！？」」」」コリ・チャクラムはそれぞれイ級とホ級2隻ずつに直撃！回転刃が装甲を引き裂く！ 35

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コリ・チャクラムは凍結と切断の苦痛を同時に深海棲艦に味合わせた。やがてコリ・チャクラムは深海棲艦の体に半場まで切り込むと、爆散した。KABOOOM！「「「「AGRRRRH！？」」」」液体窒素が飛び散り、哀れなコリ・ミンチが海へと還っていく！ 36

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コールドレインはその光景を見ることは無い。跳躍し、目指す先には、難を逃れ今にも砲撃せんとするト級に、「アイエエエ…！」へたり込む随伴者！「イヤーッ！」彼の者は右腕に氷の刃を生成。瞬く間に接敵し、ト級の3つの頭を分割切断！「イヤーッ！」「AGRRRRH！？」 37

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「き、騎士様…！」襤褸布で顔の伺えぬ随伴者はコールドレインの到着に安堵した。コールドレインは状況判断。随伴者を片腕で抱き上げ、(アイエエエエエエ！)ト級に対して網状液体窒素を放つ！「コリ・ネット！イヤーッ！」「AGRRRRH！？」ト級が氷の蔓にがんじがらめに拘束緊縛！ 38

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ト級は身もだえしたが、為す術も無く海底へと沈んて行く。コールドレインはそれを見届けることなく走り出した。瞬く間に6隻の深海棲艦を轟沈させたコールドレインに安堵はない。彼の者は随伴者を抱きかかえたまま、ニューロン内で友へと呼び掛けた。((Coldrain:オイ！アンダー！)) 39

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望むコトダマはニューロンの速度で返ってきた。((Undertaker:ドーモ、アンダーテイカーです))((Coldrain:ドーモ、コールドレインです。今どこだ？))((Undertaker:あと少しで着く！リンクスのガイドのおかげで位置は分かる！)) 40

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((Coldrain:急いでくれ…！))((Undertaker:オイオイオイオイ、ヤバイの？))((Coldrain:さっき野良と交戦した。艦娘に感づかれたかもしれない))((Undertaker:whf?ちょっと待てよ、艦娘？俺はお前の死体なんか見たくないぞ！)) 41

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((Coldrain:万が一艦娘に見つかったら、分かっているな？))((Undertaker:俺が「要救助者」を拾って、お前が時間稼ぎ…けど本当にお前死なないんだよな！な！))((Coldrain:私は死なん。果たすべき叛逆がある))((Undertaker:あーもう！))42

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((Undertaker:兎に角、その娘は回収してやるから！お前は絶対に死ぬなよ！あ、艦娘を殺すのも駄目だからな！オレは！死体なんて！もう金輪際見たくないからな！))ニューロンから声が去る。コールドレインは苦笑した。「殺すな、とは…また無茶を言う友が増えたものだ」「あの…」 43

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抱きかかえられたままの随伴者がおずおずと声を掛けた。「騎士様、大丈夫ですか？」「…その呼び方は聊か恥ずかしいな、サーマル＝サン」コールドレインは随伴者の名を呼んだ。襤褸布から美しい横顔と紅い髪がまろび出た。「あれ程のカラテ…立ち振る舞い…騎士としか称える術を知りません…」 44

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「品のあることだ。いずれ名のある家柄の者か、君は？」「いいえ、私はただの没落者に過ぎません…」サーマルは悲し気に顔を伏せた。コールドレインは速度を維持し、仮面の下で考え込む。((没落…深界の貴族？没落とは…もしや深界軍に…”提督”…否、ダース・カイゼルと何か関係が…？)) 45

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コールドレインのニューロンがふつふつと憎悪と憤怒で沸騰を始める。今抱えているサーマルは、この南西海域で偶然出会ったネームド深海棲艦だ。彼女は捨て鉢に人類側の製油施設に自爆特攻を仕掛けようとしていたところを、艦娘に迎撃され死にかけていた。コールドレインは迷わず彼女を救った。 46

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艦娘を蹴散らし、サーマルに手当を施したコールドレインに最初に投げかけられた言葉は、「何故私を生かしたのか」であった。コールドレインはこの言葉だけで理解できた。彼女は深界で弾圧を受け、ここまで迫害されて追い立てられたのだと。嘗て、ライオンハートと出会う前の己と同じように。 46

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忘れることは無い。戦艦水鬼。そして深界帝国軍の最高司令官(コマンダー)にして“提督”ダース・カイゼルによる謂れもない名を持った者達への弾圧と迫害を。世界にブルシットな支配を敷かんとする暗黒卿への怒りを忘れることは無い。彼女もその犠牲者であるならば、為すべきは決まっている。 47