日向倶楽部世界旅行編第11話「バヌアツ・ポートビラ観光編」

海賊に襲われていたワタリ艦娘「鈴谷」を救助、一時的に仲間として雇った日向達は、次なる目的地バヌアツへと到着した。
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三隈グループ @Mikuma_company

「ヤシガニの挟む力はとても強いそうですわ、大きい個体だとライオンの咬む力に匹敵するとか。」 三隈がそう言うと鈴谷は義手を引っ込めヤシガニを二度見する、鋼鉄の義手とはいえそんな力を受けるのは少々気が引けた。 「…あっ、あの個体何か持ってるでありますよ。」

2017-08-22 21:54:10
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あきつ丸はすぐ側をのそのそと歩いていた別のヤシガニを指差す、そしてそれをひょいと三隈が持ち上げる。 「ねえ、さっきライオンがどうとか言ってたのに怖くないわけ…?」 「まあ、挟まれなければね?」 三隈はその細い指でヤシガニの手(はさみ)を持ち上げた。

2017-08-22 21:55:07
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その手(はさみ)には赤い宝石のようなものが握られていた、ヤシガニには光物を集める習性があるという。 「ルビー…ではなさそうね。」 「綺麗な宝石でありますなぁ…」 「誰かのアクセサリーから落ちたのかねぇ?」 覗き込む三人、それは太陽の光を拡散させながら輝いている。

2017-08-22 21:56:11
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じーっと覗き込んでいると、くすぐったかったのかヤシガニは三隈の手の中でじたばたと動き始めた 「あっ、待って待って?今降ろしてあげますわ。」 砂浜にそっと降ろすと、ヤシガニは石を握ったままのそのそと砂浜を歩いて何処かへと消えた。

2017-08-22 21:57:04
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「あの石取らなくて良かったの?」 「あれはあの子の物ですわ、取り上げてはかわいそうです。」 「へぇ〜、初対面から思ってたけどあんた変わってるねぇ。」 そんな会話をしつつヤシガニを見送り、一行は本題であるウミガメ見物へと向かった。

2017-08-22 21:58:03
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三隈達が向かった先では、天然のプールでウミガメ達が悠々と泳いでいた。 「ここのウミガメやヤシガニは絶滅危惧種で、バヌアツは国を挙げてその保護を積極的に行なっています。」 日焼けした現地人は餌を与えながら言った、だがのんびりと泳ぐカメからはそういった悲愴は感じられなかった。

2017-08-22 21:59:26
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「絶滅危惧種っていや、深海棲艦で生態系ってどうなったんだろうなぁ?」 鈴谷はウミガメの写真を撮りつつ三隈の方を向いた 「最新の調査では大きな影響は無いそうですわ。」 「はぁ、海の生き物にとっちゃ珍しい生き物が来た程度なのか…雄大さに頭が下がるねぇ。」

2017-08-22 22:00:14
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本当にね、と返しつつ三隈はウミガメとツーショット、水面から照り返す日差しが写真全体をぼやかしていた。 「深海棲艦って、私たちが思っているよりも生き物として世界に馴染んでいるのかもしれませんわ。」 「馴染む、ねぇ…」 相槌つ鈴谷の義手を、ウミガメは強く咬んでいた。 〜〜

2017-08-22 22:01:08
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〜〜 一行はウミガメと戯れ終わると、再度ポートビラの市街地へと戻って行った。 「あきつ丸ちゃんあきつ丸ちゃん。」 「…なんでありますか。」 馴れ馴れしく話しかける鈴谷に、あきつ丸は視線を返さずに応じる。 「いやね、トラック泊地と此処って似てる?」

2017-08-22 22:02:04
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トラック泊地のあるミクロネシア連邦も、ここバヌアツも同じ太平洋の国である。 「…トラックは都会でありますから、こことは大分毛色が異なるであります。」 「へぇ、トラック泊地が凄いのってマジなんだぁ。」 鈴谷はやや過剰なリアクションを取るが、会話はそこで終わってしまった。

2017-08-22 22:03:03
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それを見て今度は三隈から切り出した 「鈴谷さんはトラックにいらした事は無いの?」 「仕事でも無いよ、行ってみたいけど依頼が来ない事にはね…」 「遊びでも?」 「あいにく鈴谷、年中無休なんでね。」 カチカチっと義手を鳴らして鈴谷は笑った。

2017-08-22 22:04:03
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そんな風に話しつつ歩いているうち、一行はマーケットへとたどり着いた。 「ここは市場のようですわね。」 ポートビラはバヌアツの首都でありリゾート地だが、そこを離れるとすぐにのどかな村々が顔を出す、そこの人々が新鮮な食材などを売りに来る場所、それがマーケットである。

2017-08-22 22:05:09
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「いろいろ売ってるのですなぁ…」 日本や、都会と化したトラックでは見慣れない食材も数多く並んでいる。 「あきつ丸ちゃん、アレなんだと思う?」 「は?」 鈴谷の指差した先には見慣れない生き物が売られている。 「知らないでありますよ…聞いてみれば?」

2017-08-22 22:06:23
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あきつ丸が言うが早いか彼女は主人に尋ねた 「ああこれかい?これはコウモリだよ。」 「コウモリだって。」 「こ、蝙蝠!?蝙蝠を食べるんでありますか!?」 ハッとしたようにあきつ丸は口を抑える、聞いた事はあるがいざ目の前にするとこう言わざるを得なかった。

2017-08-22 22:07:19
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そんな彼女の様子を見て、店主はニコニコしながら焼いた肉を差し出した。 「食べてみるかい?サービスだよ。」 「え、えっと…」 正直嫌な気持ちが強かったが、愛想の良い主人を前に断るのはもっと嫌なものがある、あきつ丸は恐る恐るそれを口に運んだ。

2017-08-22 22:08:02
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「…」 「…どう?あきつ丸ちゃん?」 鈴谷が覗き込んだ彼女の顔は、口をへの字に曲げてコウモリを咀嚼している。 それどころか先程まで目を合わせて来なかった彼女が、必死にこちらに目を向けて何かを訴えているのだから、鈴谷はおかしくて笑いそうになった。

2017-08-22 22:09:03
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やがてあきつ丸は口の中の物を飲み込むと、鈴谷が主人に誤魔化すような礼を言ってそこを離れた。 「…鶏肉をゴムで味付けしたみたいであります…」 「日本人の舌には合わないって事か…」 珍味とはそういうものである、あきつ丸は自身の心中にそれを刻み込んだ。

2017-08-22 22:10:05
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さて、あきつ丸はコウモリの肉を食べた訳だが、マーケットは珍味だけを扱っているわけではない事もここに記しておく。 「日本で見る食材もそこそこ置いてありますな…」 芋や野菜、更には豆腐、他には服やバッグを扱う店もある、形態は違えど品揃えはデパートのそれに匹敵するのだ。

2017-08-22 22:11:04
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「しかし皆のんびりしてるでありますな…」 マーケットは和気藹々と盛り上がっていたが、そこから商売っ気のようなものが感じられなかった、ついでに物価も異様に安い。 「ああ、前に仕事してる時聞いたけど、バヌアツって世界一幸福度が高い国なんだってさ。」 「何故?」

2017-08-22 22:12:16
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何故って言われても…と鈴谷 「…勝手な憶測だけど、欲がないんだろうな。災害の多い国だから豪邸建てたって意味無いし、島国だから他所の話もそこまで入らない、文無しでも最悪自給自足ができる。」 昼食に自身の売り物を食べている者を指す、そもそも売る必要が無いのかもしれない。

2017-08-22 22:13:18
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「まあ、手に入れる、見つける喜びを知ったら戻れっこないって、上を見たらきりが無いとは言うけど、それだから面白いんだ。」 そう言って笑いながら、鈴谷はバナナを一本買って食べ始めた。 「あたしは欲しいと思うよ、色々とね。」 皮を捨てると、彼女は別の店に目を移して歩いて行った。

2017-08-22 22:14:22
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その後もマーケットの中をあちこち見て回った一行は、ベンチに腰掛けて休んでいた。 「結構歩きましたな…」 あきつ丸がそう言って携帯を取り出したその時、ガシャーン!という何かが倒れる音がマーケットの中から聞こえて来た。 そこへ鈴谷が野次馬に向かう、二人もその後を追った。

2017-08-22 22:15:13
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「ミネラルウォーター、牛乳…!頼むよ…!」 「分かったから落ち着きなよ!」 音のした場所ではメチャクチャになった売り場と、そこで地面を舐めている男の姿があった。 そして、三隈達はその男に見覚えがあった。 「あれ、さっきのオッサンか?」 「あっ、本当であります…」

2017-08-22 22:16:07
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地面を舐めているのは、先刻一行にミネラルウォーターを求めて来た男だった。 「なあ、頼むよ…!」 「ひ、ひいっ…!」 男は土まみれの顔を上げて店の主人に懇願している、狂人にしか見えないその姿を人々は数歩引いた場所から見守っていた。 「一体何が…」

2017-08-22 22:17:14
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三隈、あきつ丸も同様に見守っていた、だが鈴谷だけは人混みの中からその場へと出て行った。 「あー、店主さん?」 「な、なんだアンタ…!」 彼女はいつもの調子で気さくに話しかける 「いやぁこれウチの親戚でさ、ちょっと頭やっちゃってるんだ、お金は置いてくから勘弁してやってよ。」

2017-08-22 22:18:09